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フェアシェイクは提携するスーパーPACと共同で、すでに合計で 1 億ドル以上を 2024 年の各種選挙に費やしている。主なところでは、オハイオ州とウェストバージニア州の上院選に4,300 万ドル、ノースカロライナ州、コロラド州、アラスカ州、アイオワ州の 4 つの下院選に 700 万ドル費やしている。いわゆる「スクワッド( Squad:訳者注、下院民主党の進歩派集団)」のメンバーであった 2 人の左派議員を打ち負かすために 350 万ドルが投じられた。ニューヨーク州のジャマール・ボウマン( Jamaal Bowman )とミズーリ州のコーリ・ブッシュ( Cori Bush )である。今年、フェアシェイクが関与した 42 の予備選では、フェアシェイクが推す候補が 85% の確率で勝利している。フェアシェイクの最新の提出書類によれば、残りの選挙期間に使える資金は 7,000 万ドル以上ある。候補者への献金額は、エネルギー業界、医薬品業界、労働組合と同レベルである。
Airbnb が税金の支払いやデータの共有など様々な譲歩案を提案することでサンフランシスコの条例案(いわゆる提案 F ( Proposition F ))を否決させようとした時と同様に、暗号資産業界は見かけ上は真摯な姿勢を示しつつ改善案も提案した。暗号通貨とブロックチェーンの新しい規制を声高に支持するようになった。しかし、暗号資産懐疑派の多くは、これらの提案は利己的であると指摘した。暗号資産業界と規制当局の間の中心的な争点は、暗号資産が証券であるか否かという点であった。つまり、厳格に投資家を保護する法律によって売買が規制されている Apple 株のような証券であるか、政府の規制がほとんど及ばず自由に売却できるコーンのような商品(コモディティ)であるかということである。ほとんどの不換紙幣( fiat currencies )、つまり政府が発行する通貨は、為替レートの上昇と下降に賭けて儲けるためではなく、主に食料品や衣類などの購入に使用される。これとは対照的に、暗号資産は物理的な商品の購入に使用することが困難な場合が多く、場合によっては不可能なことも多い。それを保有している投機家も少なくないが、彼らの保有目的は価値が上がるか下がるかを当てる賭博に参加することにある。暗号資産はすでに数千種類存在する。ビットコインとイーサリアム( Ethereum )など有名な数種類は商品とみなされている。残りの大半の価値は議論の余地がある。
暗号資産業界は、主流の暗号資産をコモディティ( commodities:商品)として扱う規制を議会が可決することを望んでいる。その規制は、ほとんどの人が聞いたことのない比較的おとなしい機関である商品先物取引委員会( Commodity Futures Trading Commission:略号 CFTC )が監督することとなる。証券取引委員会ほど攻撃的ではない。商品先物取引委員会が暗号資産の主要な規制機関になれば、大手暗号資産企業に対する訴訟や罰金の流れが鈍化または停止する可能性がある。さらに重要なのは、ドージコイン( Dogecoin:インターネットミームの柴犬ドージをモチーフにした暗号資産)、デンタコイン( Dentacoin:「歯科医による歯科医のための唯一の暗号資産」が謳い文句)、ポルノ愛好家のための暗号資産であるカムロケット( CumRocket:訳者注 cum は性行為でいくという意味)などを販売するリスクが大幅に減り、収益性が高まることである。
政府関係者は、これは悲惨な結果を招くと考えている。「暗号資産の多くは、率直に言って、実際には何の役にも立たず、ギャンブルや詐欺に使われるだけである」と証券取引委員会の考えに詳しい当局者の 1 人は語った。「何十年も前から、こうした状況で投資家を保護してきた規制がある。暗号資産業界はそれに縛られたくないだけである。もし暗号資産関連企業が『キム・カーダシアン( Kim Kardashian )にツイートしてもらおう、そうすれば間抜けな奴らからお金を巻き上げられるぞ』という姿勢を示すならば、政府が関与する必要がある」。(訳者注:カーダシアンは報酬を受け取っていたことを公表せずに暗号資産イーサリアムマックスを自身の SNS で宣伝していたとし、証券法違反行為で SEC に提訴された。最終的に罰金 126 万ドルの支払いに同意した)
実際、一般のアメリカ人のほとんどは暗号資産業界が健全で顧客に優しいと認識しているわけではない。各種世論調査によれば、ほとんどの人は暗号資産業界が安全だとは考えていない。そのため、暗号資産業界でルヘインや同様の業務をしている者たちは戦術を微調整し始めている。連邦議会でこの業界に友好的な法案を可決させることが優先事項であることに変わりはない。しかし、直近では、暗号資産を発展させることがイノベーション、起業家精神、さらにはアメリカの未来を守るという、はるかに崇高な目的に役立つものと宣伝し始めている。
昨年 7 月には、アンドリーセン・ホロウィッツ・ベンチャー・ファンド( Andreessen Horowitz venture fund )のマーク・アンドリーセン( Marc Andreessen )とベン・ホロウィッツ( Ben Horowitz )は、バイデン大統領がアメリカを弱体化させていると非難する 91 分の動画を制作し公開した。アンドリーセンはホロウィッツに対し、「私がこれまで経験したことのないような、新興産業に対する残忍な攻撃があった。こんなことは経験したことがない」と語りかけた。するとホロウィッツは「バイデン政権は、暗号資産業界を攻撃するためだけに法の支配を破壊した」と返した。バイデン政権の暗号資産業界に対する姿勢や各種施策は、アメリカの経済力、技術的優位、軍事力を破滅させる恐れがあると彼らは言った。また、バイデン政権がハイテク業界の様々な提案を受け入れることを拒否することで、中国の躍進を許しているとも言った。「テクノロジーの未来、そしてアメリカの未来が危機に瀕している」とホロウィッツは断言した。2 人は現状を憂いていると主張し、大統領選ではドナルド・トランプを応援する以外の選択肢はないと語った。(また、バイデン政権が続けば自分たちのような億万長者はより多くの税金を払わなければならないとも主張したが、その件に言及した時間はほんの僅かだった)
暗号資産業界関係者から見ると、大きな注目を集めたこの動画は大傑作であった。イーロン・マスク( Elon Musk )や多くの超有名人が賛同するコメントを残している。例のコインベース幹部が言ったのだが、「今やアンドリーセンやマスクや他の大勢の裕福で権力のある者たちが、暗号資産はより大きな議論の一部だと主張している。暗号資産を否定することはアメリカのイノベーションと進歩、そして国の将来に対する攻撃であるか否かが議論されている。この動画は『暗号資産は詐欺的か?』という議論を『バイデンは中流階級の起業家のことを本当に気にかけているのか?』という議論に変えた」。
ルヘインはトランプの立候補に反対しており、アンドリーセンたちの動画にも一切関わっていない。しかし、アンドリーセンとホロウィッツの行動はルヘインの脚本にそっくりだった。ルヘインはシリコンバレーのテック企業に政治への関わり方を教えるという点で素晴らしい仕事をしてきた。それで、今では多くのテック企業も彼のやり方を真似することができる。今年の 7 月、ルヘインはコインベースの取締役に就任した。「ルヘインは天才だ」とコインベースの幹部の 1 人は言う。「どうやってあんなやり方を思いつくのかわからないが、彼は現実を変えることができる。彼は魔法を起こせる」。