韓国の国民の大半は尹大統領の弾劾を支持している!親日の尹大統領って、悪い奴だったのか?

 The Lede

In South Korea, a Blueprint for Resisting Autocracy?
韓国では独裁政治に抵抗するための青写真が描かれているのか?

After President Yoon Suk-yeol ordered martial law, the legislature voted to impeach him. But it could take months to remove him from office, and uncertainties remain.
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が戒厳令を発令した後、議会は大統領の弾劾を決議した。しかし、大統領の職務を解くには数カ月かかる可能性があり、不確実な点が多い。

By E. Tammy Kim December 15, 2024


 韓国の尹錫悦( Yoon Suk-yeol:ユン・ソクヨル)大統領が戒厳令を宣言し、自国の国民と国会議員に対して武装した兵士を差し向けた。それから 1 週間半後の土曜( 12 月 14 日)の夜、国会で尹大統領を権力の座から追い落とす投票が行われた。尹大統領所属の与党国民の力の議員のうち少なくとも 12 人を含む 3 分の 2 以上が弾劾に賛成票を投じた。100 万人を超える韓国人がソウル( Seoul )の国会議事堂を取り囲んだ。震える寒さの中、シュプレヒコールを上げ、K-pop を歌い、光る棒やプラカードを振って「尹錫悦を反逆罪で逮捕せよ!( Arrest Yoon Suk-yeol for treason! )」と叫んだ。「歴史的に、政治は公共の場で行われてきた」と、デモ隊に加わるために地方からやって来た自動車メーカー労働者で労働組合幹部のイ・チャングン( Lee Chang-geun )は私に語った。「現在は危険な状況であるが、私は韓国の民主主義、そして民主主義制度の基本的な機能を信じている」。

 現在、弾劾は憲法裁判所に持ち込まれており、同裁判所がこれを審査し、最終決定を下すまでには数カ月かかる可能性がある。「今は立ち止まっているが、決して諦めない」と尹氏はテレビ演説で述べた。2022 年に大統領に就任して以来、尹氏は次から次へと物議を醸してきた。国民の力の大統領候補として、韓国社会における女性の地位向上のため 1990 年代後半に設置された女性家族省を解散すると約束し、若い男性有権者の支持を集めた。大統領執務室を国防省本部に移し、北朝鮮の南に向けたミサイル発射の兆候が見うけられる場合には「先制攻撃( preëmptive strike )も辞さないと主張した。大統領職に就いてからは、対立候補である民主党の李在明( Lee Jae-myung:イ・ジェミョン)を繰り返し訴追してきた。2022 年のハロウィーンにソウル梨泰院の群衆雪崩で 150 人が圧死した際には、尹氏が任命した人物の何人かが非難を浴びた。尹氏と妻は不正な世論調査を実施し地方選挙に介入したと非難されているが、これを否定している。韓国国民の大多数は、今回の自爆クーデターの失敗前から尹氏の弾劾を求めていた。今後数日間、尹氏に対する抗議活動が続くことは間違いないだろう。決して遠い国の話ではない。同じように民主主義が危機に瀕しているアメリカに住む我々も注意を払うべきである。

 12 月 3 日の出来事、すなわち、尹氏が北朝鮮やその他の反国家勢力( anti-state forces )の脅威をもっともらしくほのめかして正当化し、深夜に戒厳令を敷いたが、数時間後に議会の命令でそれが撤回されたことの顛末を私が初めて書いた時、私は何人かの韓国人にインタビューした。彼らと接して強烈に印象に残ったのは、皆が非常に衝撃を受けていたことである。年配者の多くは 1960 年代、70 年代、80 年代の暴力的な軍事独裁政権下で暮らした経験があり、若い世代はそうした時代の悪影響を肌感覚で知っている。尹氏に対して最も辛辣な批評家でさえ、彼がそこまでするとは想像していなかった。その後、元検察官の尹氏が数週間にわたって軍顧問らと計画の概要を話し合っていたことが判明した。彼は、国会を封鎖するために軍隊を派遣したほか(憲法に従って議員が大統領令を覆す投票を試みるのを阻止しようとした。しかし失敗に終わっている)、政府機関への襲撃を命じたこと、裁判官、ジャーナリスト、野党政治家、さらには自身の政党の党首の逮捕を承認したことなどが明らかになっている。

 結局、軍はこれらの命令に従わないことを選択した。逮捕はせず、襲撃も完全には実行しなかった。国会に入ろうとする者に対して本格的な武力行使も行わなかった。選挙を監視する事務所を荒らすよう派遣された兵士の中には、コンビニでインスタントラーメンを食べた者もいた。3 日後、尹氏はこの出来事について謝罪したが、その後考えを変え、野党は「暴走している( going berserk )」と宣言し、辞任を求める声が高まっているにもかかわらず、「断固として立ち向かい( stand firm )」「最後まで戦う( fight to the end )」と宣言した。つまり、任期の 5 年が切れる 2027 年まで戦うということである。多くの閣僚が辞任した。国防当局者や法執行当局者は混乱に関与したとして逮捕され、1 人は自殺を図った。与党代表も辞任し、政党としての機能は失われている。「この危機を平和的に解決できたのは幸運である」と、民主党議員の車智鎬( Cha Ji-ho:チャ・ジホ)は尹氏の弾劾投票後に私に語った。「最初から国民が立ち上がって兵士らの国会への進入を阻止し、兵士や警察も国民側に立って行動した。こんなことを許してはならない、抵抗しなければならないという共通認識があった」。

 土曜日( 12 月 13 日)、大統領代行を務める韓悳洙( Han Duck-so:ハン・ドクス)首相は「国政の混乱を収拾し、国民が大切な日常生活に戻れるようにする」と誓った。尹大統領の戒厳令布告の意図を知らされながら阻止できなかった韓首相の人気は大統領と同程度(支持率約 11% )だが、尹大統領とは異なり、彼は激動の時代に活躍する政治家として知られている。彼の最優先事項の 1 つは、憲法裁判所の空席 3 つを埋めることかもしれない。現在、9 人の判事のうち 6 人しか選任されておらず、立法府による弾劾を承認するには 6 票が必要である(韓国の法律では、国会、大統領、最高裁判所長官はそれぞれ 3 人の判事を推薦する責任があり、大統領が任命する。議会が推薦する 3 人の判事の席は、前任判事が引退した 10 月以降空席となっている)。憲法裁判所は今後 180 日以内に弾劾が妥当かどうかを判断し、尹氏を罷免するか復職させるか決定しなければならない。罷免された場合、新しい大統領を選ぶための総選挙が実施される。

 韓国は、ある意味、以前にも同じような状況に陥ったことがある。2004 年、国会がリベラルな盧武鉉( Roh Moo-hyun:ロ・ムヒョン)大統領を汚職容疑で弾劾したが、憲法裁判所は最終的に罷免の理由となる重大な違反はないと判断した。2016 年には保守派セヌリ党の朴槿恵( Park Geun-hye:パク・クネ)大統領が、数週間にわたるデモの末、弾劾された。セウォル号( Sewol ferry )の沈没事後があり、乗客数百人が死亡した事故の対応を怠ったこと、賄賂で共謀し、親密な霊媒師と機密文書を共有したことなど一連のスキャンダルが原因であった。憲法裁判所は朴大統領の弾劾を支持した。盧大統領と朴大統領のどちらの弾劾裁判も、政治的動機によるものだと批判された。尹氏に対する、憲法違反および非常戒厳令の発令を禁じる別の法令違反の容疑は、「反逆罪( criminal acts of treason )」に相当すると、高麗大学の客員研究員でハワイ大学マノア校の法学教授でもある白泰雄( Baik Tae-ung:ペク・テウン)は語った。「彼が民主主義の核心を直接狙ったことは誰もが知っている。だから、今回の抗議活動の深刻さ、怒りは朴大統領の時代よりもはるかに大きい」。なお、白氏は韓国を民主主義国家へと変えた 1980 年代の民主運動で学生運動家として投獄された経験がある。

 今週初めの世論調査では、回答者の 75% が尹氏の弾劾を支持していることがわかった。集会、署名活動、オンラインフォーラム等では、性別、年齢、階級、支持政党を超えて、弾劾を支持する声が広がっていることが見てとれる。若い女性の多さが特に印象的である。ノートルダム大学の政治学者で、コロンビア、ベネズエラ、その他の国での独裁主義的転覆に反対するために使用された戦略を調査した著書” Resisting Backsliding (未邦訳:「後退への抵抗」の意)”の著者であるローラ・ガンボア( Laura Gamboa )によると、国民の関与が不可欠であるという。「弾劾をめぐるナラティブが響くものでない場合(ドナルド・トランプの弾劾が良い例であるが)、弾劾が失敗に終わることが多い。それは指導者が自らを殉教者( martyr )になぞらえるのに役立つ可能性がある」と彼女は語った。「ナラティブが響くものであり、民主主義的で正当性がある場合に弾劾は成功する。それは民主主義の後退を阻止する最良の手段の 1 つである。韓国の状況を読み解くと、尹氏が実際に弾劾に値する犯罪を犯したという主張はかなり筋が通っている」。

 民主主義は強靭であるが同時に脆いものでもある。たった 1 人の男が、5,200 万人の国民を過去に逆戻りさせ、全体主義へと突き落とした。しかし、一般の韓国人は抵抗し、さまざまな制度的防御装置が機能した。国会議員は戒厳令に反対票を投じるために国会の壁をよじ登り、尹氏は弾劾され、土曜の夜遅くにもかかわらず憲法裁判所が招集され、審査が開始された。これらすべてを考慮すると、少なくとも今のところは、韓国の民主主義は維持されている。「憲法裁判所、連邦制、国際機関など、韓国のほとんどの機関は適切に機能しており、こうした状況下では独裁権力の強化を阻むことが可能である」とハーバード大学ロースクールのマーク・タシュネット( Mark Tushnet )は語った。「問題は、どれかが上手く機能しなくなった場合である」。たとえば、韓国もアメリカも同様であるが、文民である大統領が軍を統制している。「そこに、軍を違法な目的に使うことをいとわない尹氏のような人物が現れる場合は問題となる」とタシュネットは説明する。「 1 月 6 日に軍隊を派遣しようとしたトランプも同じである」。文民を軍の最高司令官に据えることは、実際には民主主義にとって悪夢を引き起こす可能性もある。12 月 3 日の尹氏の短期間の戒厳令中に暴力が勃発しなかったのは、まったくの幸運でしかない。

 その夜、民主党の報道官、安貴朎( Ahn Gwi-ryeong:アン・グィリョン)が国会の外で特殊部隊の兵士と格闘した。彼女はライフル銃を持った兵士に立ち向かい、その銃をつかんだ。まるで弟に話しかけるようなくだけた声で「恥ずかしくないの?( Aren’t you embarrassed? )」と声をかけた。法学教授で元反体制派の白氏は、トランプの 2 期目に同様に民主主義と人権が侵害される事態が発生したら、アメリカ人はどんな対応をするだろうかと考えた。「韓国で何が起きているのかを、多くのアメリカ人が見るべきである」と国会で抗議活動を行う数時間前に彼は語っていた。「ここで何が起きているかを良く見るべきである。これは、いずれアメリカが遭遇することかもしれない」。♦

以上