アメリカ ワクチン忌避者多くない?感染拡大を防ぐには接種義務化が必須!義務化のデメリットは無いのか?

Medical Dispatch

The Complex Business of Vaccine Mandates
ワクチン接種義務化にはメリットとデメリットが混在している!

Tougher mandates may be necessary—but we shouldn’t ignore the harm that they can cause.
ワクチン接種の完全義務化が必要かもしれません。しかし、それによってもたらされるデメリットを無視してはいけません。

By Dhruv Khullar  October 15, 2021

1.感染者数の減らない米国では、ワクチン接種義務化待望論がある

 アメリカ独立戦争の開始時に、大陸軍の死者の90%は疫病が原因で亡くなっていました。特に天然痘が蔓延っており、疫病で亡くなった者の3分の1は天然痘が原因でした。大陸軍を率いていたジョージ・ワシントン総司令官は、兵士に天然痘を予防する「人痘接種」を義務付けることを検討しました。人痘接種はワクチンの前身のようなもので、ワクチンよりも危険な方法で致死率が約2%もありました。それを義務化すれば、反対する者が沢山出ることや、自軍が天然痘の蔓延に悩まされていることを英軍に悟られてしまうというデメリットも考えられました(訳者注:英軍兵士は世界中を転戦しており、既に天然痘等に対して免疫を獲得している者が多かった)。1777年の2月6日にワシントンは大陸軍の軍医のウィリアム・シッペン・ジュニアに書簡を送っていました。その書簡には、「何の手も打たなかった場合、大陸軍内に天然痘が蔓延し猛威を振るうでしょう。大陸軍にとっての最大の脅威は、英国軍の剣ではなく天然痘です。」と書かれていました。結局、ワシントンは人痘接種を義務化しました。天然痘の感染者数は急減しました。この措置、ワシントンが人痘接種を義務化したことが、アメリカ独立戦争の勝因の1つであったと言われています。

 新型コロナのパンデミックが始まって以降、米国政府内では、ワクチンの義務化に関して賛否両論さまざまな議論が為されてきました。米国では、過去にはワクチン接種が義務化されたことはほとんどありませんでした。独立戦争時に絶大な恩恵をもたらしたという事実があるにもかかわらず、ワクチン接種義務化はいつの時代も「非アメリカ的」であるとして人気が無いのです。その上、新型コロナのワクチンは旧来のものとは一線を画す未知のワクチンですし、米食品医薬品局(FDA)が緊急承認から完全承認に切り替えたのもつい最近のことです。義務化するよりも、何か特典(抽選券を配布したり、現金や商品券を配る等)をして接種率向上を目指すのが良いという人もいます。しかし、現状では、全米でワクチン接種の対象となる人の3分の1が2回接種を済ませていません。そうした状況を踏まえると、ワクチン接種の義務化が、新型コロナによる混乱を通常の生活に確実に戻すためには必要なのかもしれません。

 現時点では、米国ではワクチン接種は義務化されていません。しかし、何とか接種率を上げようと、さまざまな施策がさまざまななところで実施されています。たとえば、義務化とはいえないのですが、強力に推奨するという措置が取られているところがあって、そこでは義務化されてはいないものの接種しないと非常な不利益を被ります。ニューヨーク市などでそうした措置がとられていて、ワクチン接種証明書がないと、飲食店内で食事したり、ブロードウェイで観劇したり、ジムで運動することが出来ません。また、多くの企業等でワクチン接種が義務化されており、接種しない場合は陰性であることを証明するための検査が必須となってしまいます。現在、全米の3分の1以上の州では、州関連機関の勤務者に対して、ワクチン接種を義務付けていて、接種しない場合には毎週の検査が必須となってしまいます。バイデン政権は同様の措置を連邦関連機関で100人以上の組織で働く全ての職員に対して課していて、その措置の対象者数は全米で1億人ほどになると思われます。

 また、もっと強力な措置がとられている所もあります。接種しないと解雇されるという措置も一部で拡がっています。沢山の大企業が、ユナイテッド航空、タイソンフーズ、ディズニー、AT&Tですが、ほとんどの従業員を対象にそうした措置をとりました(ユナイテッド航空のワクチン免除申請中の従業員を休暇扱いとする対応は、テキサス州フォートワース連邦地裁から一時差し止め命令が出された)。現在では、多くの大学が学生と教職員にワクチン接種を義務化しています。また、医療業界というのは他のどの業界より多くの従事者がいるわけですが、医療施設のほぼ半数でワクチン接種が義務付けされています。8月中旬に、ニューヨーク州が職員に対してワクチン接種を義務化すると発表した頃には、ニューヨーク州の医療施設の従事者のワクチン接種率は75%以下で、介護施設従事者は70%以下でした。しかし、現在では、ニューヨーク州の医療業界従事者(65万人超)がワクチンを1回以上接種した率は92%まで上がっています。

 そのことは、裏を返せばニューヨーク州の医療業界従事者の8%(5万人以上)が間もなく解雇される可能性があるということを意味します。5万人という数値を分析すると、いろんなことが見えてきます。医療業界のワクチン非接種者を見ると、教育レベルや学歴の低い人が多いのです(他の業種でも当てはまることですが)。医師や看護師はほとんどがワクチン接種を済ませており、免疫を獲得している者が多いと思われます。しかし、あまり教育を受けていなくて難しい資格を必要としない家政婦や訪問介護士や看護助手などでは接種していない人が少なくないのです。また、医療施設の大きさによって、従事者のワクチン接種率に大きな差が出ていることも明らかになっています。私が勤務しているニューヨーク長老派病院のような大規模医療施設のほとんどは、ニューヨーク州がワクチン接種義務化を課した時点では接種率が99%を超えていました。対照的ですが、ニューヨーク州の一部の介護施設では、従事者の3分の1が1度もワクチンを接種していませんでした。そうした施設は、ニューヨーク州のとった措置から非常に大きな影響を受けます。ワクチン接率が高まらなければ、従事者を一時帰休か解雇するしかなく新たな患者を受け入れることも出来なくなるでしょう。ニューヨーク州のとった措置はパンデミックを終わらせるためには必要なものだったと理解できます。しかし、ワクチンを接種しないと解雇するという強硬な措置が他の業種でも拡がっていくとすると、さまざまな影響がでるのでは無いでしょうか。

 「以前は、ワクチン非接種の従事者には毎週検査を受けてもらっていました。それをやり始めた直後には、接種率が上がったのですが、ほんの少しでした。また、毎週検査するといっても安全性を担保するものではありませんでした。月曜日に検査して陰性だとしても、木曜日に陰性であることを保証するわけではありませんからね。」と、ニューヨーク市が運営する病院等医療施設全般の運営を統括しているミッチェル・カッツは私に言いました。しかし、ニューヨーク州のとった措置のおかげで、カッツ管轄下の従事者のワクチン未接種者の数は、1万1千人以上から3千人未満に一気に減少しました。約2千人がワクチン接種を拒否していたのに、ニューヨーク州の措置が実施された後に接種を受けて職場に復帰しました。それでも、カッツは5百人の看護師を一時帰休させなければなりませんでした。カッツが医療施設の一部閉鎖等を実施しないで済んだのは、医療関連人材派遣業者を通じて人員の手配ができたからです。カッツは言いました、「人員を確保できたので医療体制に支障をきたさずに済みました。もし5百人の看護師を確保できなかったらと考えるとゾッとしますね。おそらく、施設のいくつかは閉鎖するしかなかったでしょう。」と。