2.ワクチン接種義務化で非接種者を解雇すると人手不足が深刻になる
ニューヨーク州でも一部の病院、特にニューヨーク州北部の病院では、問題が発生しています。その地域は感染が拡がっていた故に、ニューヨーク州が医療従事者にワクチン接種を義務化したことは意義のあることでした。しかし、医療施設が受ける影響も大きくなってしまいました。ニューヨーク州ロービルにあるルイス郡総合病院は、産科病棟を一時閉鎖しなければなりませんでした。バッファローのエリー郡医療センターは、いくつかの手術を遅らせなければなりませんでした。先月2百人近くの従事者を一時帰休させたアルバニー医療センターのCEOデニス・マッケナは、「ワクチン義務化措置によって、普段から人員不足気味だったのだが、壊滅的な状況に陥ってしまった。」と、言いました(一時帰休していた者のほとんどは、その後ワクチンを接種することを選択し、職場に復帰しています)。アルバニー医療センターは、ニューヨーク州北東部で唯一の大学付属の医療施設ですので、地域の病院からの患者の移送を常日頃から受け入れています。ここ数週間、その地域の他の病院が人員確保に苦労しているため、移送受入要求が急増しています。ロチェスターにあるストロング記念病院の最高執行責任者のキャスリーン・パリネッロが私に言ったのですが、その病院では、ニューヨーク州がワクチン義務化の措置をとる前の段階でも、看護スタッフの欠員が通常時の1.5倍もあったとのことです。彼女は言いました、「すでにかなりの欠員がいる状態で、さらに欠員が出てしまったら手の打ちようが無くなってしまいます。」と。ここ数週間、その病院では待機的手術(外科的機器やメスなどを用いて、計画的に患部を切開して治療的処置行なうこと。緊急的手術では無い手術。)の実施が難しくなり延期せざるを得ませんでした。
先月、ニューヨーク州知事のキャシー・ホークル知事は、州の医療関連の人材が不足する場合には州兵を動員し、緊急事態宣言をして州外からの医療従事者を受け入れるという方針を固めました。また、ニューヨーク州は州内の医療施設が援助を求めることができる緊急対策センターを開設しました。しかし、ニューヨーク州以外の州でもワクチン接種義務化の動きが拡がりそうな状況ですので、人員確保はより困難になっていくでしょう。メイン州、ロードアイランド州、ワシントンDC-が、医療従事者へのワクチン接種義務化措置をとったところです。他の多くの州も追随すると見られています。一方、バイデン大統領は、公共医療保険であるメディケアとメディケイド(低所得層の医療費支援)を受けている全ての医療施設の従事者はワクチンを接種しなければならないとの規定を公表しました。全米で1千7百万人以上の医療従事者が対象になるとホワイトハウスは推算しています。(このワクチン接種義務化の措置の規模や対象等の詳細は現時点では不明ですが、ワクチン接種の代わりに定期的に検査を受けるという選択肢は無いようです。強制的な色合いの濃いものになると見られています。)
医療従事者のワクチン接種義務化によって人員手配に影響が出ると推測されますが、特に都市部以外(新型コロナの死亡率が都市部の2倍)で深刻な問題となるでしょう。都市部以外の病院や医療施設の90%以上が加入しているNational Rural HealthAssociation(全米農村健康協会)のCEОのアラン・モーガンは言いました、「ワクチン接種義務化の是非を議論している場合ではありません。全ての都市部以外の医療従事者が今すぐにワクチン接種を受ける必要があります。そうはいっても、どんな措置が講じられても、ワクチン接種を拒否する人がゼロになることはありません。そうすると、都市部以外にある医療施設では混乱が避けられないでしょう。私は推測や仮定でそう言っているのではありません。間違いなくそうなると言っているのです。従事者が2〜5%でも欠けてしまったら、大混乱は免れません。」と。モーガンは、政治家はワクチン接種義務化の措置を講じる際には、医療施設が人手不足に陥ることを予見し対策を検討しておくべきだったと考えています。彼は、医療施設が新たに看護師を雇うのを助けるために、連邦医療施設救済基金が費用を援助すべきだと考えています。また、FEMA(米連邦緊急事態管理庁)とPublic Health Service Commissioned Corps(米公衆衛生局士官隊)が都市部以外の医療施設に人員を派遣する必要があると考えています。彼の見解では、ワクチン接種義務化の措置をとるなら、人員確保策を合わせて実施することが必須です。しかし、これまでのところ、都市部以外の医療施設の人材確保に対する支援は何もありません。