THE CRIMES BEHIND THE SEAFOOD YOU EAT
いつも口にしているシーフードの背後の法行為
China has invested heavily in an armada of
far-flung fishing vessels, in part to extend its global influence. This maritime expansion has come at grave human cost.
中国は世界的な影響力を拡大する目的もあり、遠洋漁業船団に多額の投資を行っている。中国の海洋進出には重大な人的犠牲が伴っている。
By Ian Urbina October 9, 2023
1.
ダニエル・アリトナン(Daniel Aritonang)は2018年5月に高校を卒業した。就職希望だった。背は低いものの身体は健康だった。インドネシア(Indonesia)のバツ・ルングン(Batu Lungun)という海岸沿いの村に住んでいた。父親は自動車修理工場を経営していた。アリトナンは暇な時間を見つけてはその工場でエンジンを改造したり、時にはこっそり抜け出してヤマハの青いバイクで村の悪路でのドラッグレースに興じていた。学校では真面目に勉強していたが、クラスではピエロのような存在だった。いつも女の子をからかったりしていた。その高校の数学教師レニ・アプリユニータ(Leni Apriyunita)は「彼は笑いを絶やさない明るい人物だった。」と、語った。彼の母親は、彼が良い成績を取って、安定した仕事に就けるようにと、何人かの教師の家に手作りのパンを届けた。しかし、アリトナンが高校を卒業した時、若年者の失業率は16%を超えていた。彼は警察学校へ進むことを考え、近くのプラスチック工場や繊維工場に求職したが、内定はもらえなかった。両親はがっかりした。彼はインスタグラムに、「失敗したことは分かっているが、両親を幸せにするための努力を続けている 。」と書いた。幼なじみのヘンギ・アンハル(Hengki Anhar)もまた、職探しに奔走していた。「求職先は私にいろんなスキルを求めてきた。」と、先日、彼は就職活動について語った。「でも正直言って、私には何のスキルも無いんだ」。
当時、多くの村民が外国漁船に乗って船員として働いていた。バイクや家を買うだけのお金を稼いで帰ってきていた。アンハルはアリトナンに一緒に漁船の仕事をすることを提案した。アリトナンは同意して言った、「一緒に漁船に乗ろう」と。アリトナンはお金を稼いで両親の家を修繕し、何かビジネスを始めるつもりだった。2人の友人のフィルマンデス・ヌグラハ(Firmandes Nugraha)は心配した。アリトナンが重労働に向いていいるとは思えなかったのだ。「運動能力テストでも、彼は極端に疲れやすかったんだ。」と、彼は言った。しかし、アリトナンは重労働であることを気にかけていなかった。1年後の7月に彼とアンハルは港町テガル(Tegal)に行き、PTバテラ・アグン・サムドラ(PT Bahtera Agung Samudra)という人材派遣会社を通じて求職の申し込みをした(この企業は派遣業の正式な許可を持っていないようで、コメントを求めたが、回答は得られなかった)。彼らはパスポート、出生証明書のコピー、銀行の取引証明書を提出した。アリトナンは18歳と若かったので、親権者の同意書も必要だった。彼は自分を含む新人数人の写真を投稿し、「成功した明るい未来を望む平凡な若者の集団」と書いた。
それから2カ月、アリトナンとアンハルはテガル(Tegal)で漁船に配属されるのを待った。アリトナンはヌグラハにお金を借りようとした。2人は食料を買うのにも苦労していたのだ。ヌグラハは家に帰った方がよいと諭した。 「泳ぐこともできないんだから。」と言って諭したという。アリトナンは応じなかった。「こうするしかないんだよ」というテキストメッセージを返した。2019年9月2日、ようやくアリトナンとアンハルは韓国の釜山(Busan)に飛び、韓国(South Korea)船籍の漁船に乗船することになった。しかし、釜山港に着くと、中国船籍の漁船に乗るように言われた。錆びた、白と赤のキールのイカ漁船で鎮発7号(Zhen Fa 7)と記されていた。
その日、その船は太平洋上に漕ぎいでた。
アリトナンは、世界でも類を見ないほど長期間イカ漁を続ける漁船に乗った。
過去数十年間、中国は海外への影響力を誇示するためもあって、遠洋漁業船団(distant-water fishing fleet)を劇的に拡大してきた。現在、中国企業は、海外の95の港でターミナルを所有または運営している。中国は2,700隻の遠洋漁船を保有していると推定されるが、この数字には紛争海域(contested waters)にある漁船は含まれていない。公的記録や衛星画像から推測するに、遠洋漁船は6,500隻弱であろう。対照的に、アメリカとEUが所有する遠洋漁船はそれぞれ300隻未満である。遠洋漁船と思われる船の中には、南シナ海(the South China Sea)や台湾(Taiwan)周辺などの紛争海域で領有権を主張するものもある。「それらは漁船団のように見えるが、場所によっては軍事的な目的も果たしている。」と、海上警備会社I.R.コンシリウム(I.R. Consilium)代表のイアン・ラルビー(Ian Ralby)は私に言った。中国の海上進出の決意は固く、それなりのコストをかけているし、それなりの代償も伴っている。中国は国際法(international laws)にはほとんど無反応である。中国の遠洋漁業船団は世界中で違法操業を繰り返しており、多くの生物種を絶滅寸前に追い込んでいる。また、中国の遠洋漁船では、労働者の人身売買(labor trafficking)、借金による束縛(debt bondage)、暴行(violence)、犯罪の放置(criminal neglect)、死(death)が蔓延している。環境正義財団(the Environmental Justice Foundation)のスティーブ・トレント(Steve Trent)CEOは、「中国の漁船における人権侵害は、産業的かつ世界的規模で起きている」と述べた。
鎮発7号がガラパゴス諸島の近くに停泊したのは、釜山を出航してから3カ月後のことであった。イカ漁船は、賑やかで明るく、雑然とした場所だ。甲板上の様子は、オイル交換がうまくいかなかった自動車整備工場のようだった。何本もの釣り糸が海面に投げられる。それぞれの糸には自動リールで巻き取られる特殊な釣り針がついている。甲板にイカを引き上げると、イカは暖かく粘性のある墨を吐き、それが壁や床を塗る。深海のイカは、アンモニア(ammonia)の浮力を利用しているため、体内にアンモニアが多い。そのため、アンモニア臭が立ちこめる。過酷な作業で、基本的には夜に行われる。概ね午後5時から午前7時までである。船の両側の棚にボーリング球サイズの電球を何百個も吊るし、イカを深海から誘い出す。きらめく電球の光は100マイル(160キロ)以上先からでも見える。周囲の漆黒の闇が別世界のように感じられる。「精神が試される。」と、アンハルは言った。
船長室は最上階のデッキにある。中国人の幹部数人がその下の階にいて、中国人船員がさらに下の階にいた。インドネシア人船員が船底を占拠していた。アリトナンとアンハルは2段ベッドのある狭い船室に住んでいた。壁際の物干し竿には靴下やタオルが鈴なりに干されていた。床にはビール瓶が散乱していた。インドネシア人の収入は1年で約3,000ドルだが、イカが1トン獲れるごとに20ドルのボーナスが加算される。週に1度だけ、個人ごとの漁獲量を示す表が食堂に貼り出された。それが乗組員たちの励みであった。時には、中国人の幹部がインドネシア人船員の頭を殴った。まるで子供を殴るような感じである。怒ると手の付けようがない感じで、罵声を浴びせ、拳を振るった。班長はミスをした船員を平手打ちし、パンチも浴びせた。「インドネシア人は全く人間として扱われなかった。」とアンハルは言った。
遠洋漁船は携帯電話の電波を受信できるほど陸地に近接していることは少ない。陸地に接近したとしても、ほとんどの船員は海外でも使えるスマホを持っていなかった。中国人船員は時折、艦橋で衛星電話(satellite phone)を使うことを許された。しかし、アリトナンや他のインドネシア人が家に電話したいと言っても、船長に拒否された。乗船して2週間後にラーマン・フィナンド(Rahman Finando)という船員が勇気を出して家に帰れるかどうか尋ねた。船長は無理だと言った。その3日後、別の船員マンギハット・メジャワティ(Mangihut Mejawati)が、中国人幹部が集団で、フィナンドを殴っているのを見た。下船を求めたことで怒りを買ったという。「彼らはフィナンドの全身に打撃を加えた上で踏みつけていた。何人かの船員が止めるよう叫んだ。何人かが割って入り、身をもって暴行を止めさせようとした。ようやく、暴力は収まった。インドネシア人の船員は今も狭い船に閉じ込められたままだ。メジャワティは私に言った、「私たちインドネシア人は、檻の中にいるのと同じだ。」と。