中国遠洋漁業船団の闇 人身売買、役身折酬、暴行、不法行為が蔓延している!俺、イカを食うの止めるわっ!

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 国際組織犯罪を監視しているグローバル・イニシアティブ・アゲンスト・トランスナショナル・オーガナイズド・クライム(the Global Initiative Against Transnational Organized Crime)によると、中国は他のどの国よりも多くの違法漁業を行っている。公海上での監視や捜査にはコストがかかるため、法執行機関の存在は事実上無いに等しい。そのことが、禁漁区域での漁や、競争上の優位性を得るために禁止された技術の使用を助長している。貪欲な漁は環境に大きな負荷をかける。世界レベルで見ると、魚種の3分の1は乱獲され資源量が減っている。かつては豊富であったイカも激減している。中国を含む30カ国以上がフカの捕獲を禁止している。しかし、実際には、フカ漁は今でも行われている。中国の漁船は、今でもフカヒレスープ(shark-fin soup)に使用するために、シュモクザメ(hammerhead)、ネムリブカ(oceanic whitetip)、ヨシキリザメ(blue sharks)を大量にに捕獲している。2017年、エクアドル当局は、1隻の冷凍船から少なくとも6,000匹の違法に捕獲されたサメを発見した。他の魚種も壊滅的な打撃を受けている。漢方薬として珍重される浮き袋(swim bladder)を持つ大型魚トトアバ(totoaba)を漁獲する中国の漁船は少なくない。それらは、メキシコのコルテス海にのみ生息するコガシラネズミイルカ(vaquita porpoises)も絡め取って溺死させてしまう魚網を使用している。その結果、現存するコガシラネズミイルカは10頭ほどになったと専門家が指摘している。中国は世界最大の底引き網漁船団を有しているが、海底で網を引きずり、サンゴ礁を平らにしている。ネイチャー(Nature)誌の最新の研究によると、底引き網漁船は毎年、二酸化炭素を10億5千万トンも放出している。それは、航空産業全体が排出する量に匹敵する。中国の違法漁業は、貧しい国々から資源を奪っている。中国が数百隻の船団をとどまらせている西アフリカ沿岸では、違法な漁によって年間90億ドル以上の損害が出ていると推定されている。

 世界で最も違法漁船が集中しているのは、北朝鮮海域だろう。そこでは、中国のイカ漁船が群れをなしている。2017年、北朝鮮が核実験と弾道ミサイル発射実験をしたことを受けて、国連安全保障理事会(the United Nations Security Council)は、金正恩(Kim Jong Un)政権から漁業権の売却を阻止するなど、外貨を剥奪することを目的とした制裁を課した。漁業権売却は北朝鮮の主要な収入源であった。この制裁は、中国の肝入りで成立した。しかし、国連によれば、北朝鮮は2018年だけで1億2,000万ドルもの外貨を、主に中国の漁船団に不正に権利を売却することで稼いだ。中国のウェブサイト「知乎(Zhihu)」の広告では、北朝鮮軍(the North Korean military)が発行した漁獲制限なしの「ノーリスク・ハイイールド」な漁業許可証が売られている。中国は同盟国(北朝鮮)に対する制裁を実施できない。もしくは、実施する気が無いようである。ウィン・ウィンの関係(win-win cooperation)を築こうとしている。

 中国漁船の操業によって、その海域のイカは減少している。漁獲量は2003年以降で約70%も減少している。北朝鮮や韓国の漁業者は中国漁船に太刀打ちできない。「私たちは破滅するでしょう」と、2019年5月に訪れた韓国のウルルン島の漁業組合委員長のヘスー・キム(Haesoo Kim)は言った。多くの北朝鮮の漁船の船長は岸から遠く離れた場所に向かうことを余儀なくされている。そこで彼らの船は嵐に巻き込まれたり、エンジンの故障に見舞われたりし、多くの乗組員が飢えや凍結、溺死の危機に晒されている。毎年、およそ100隻の小さな北朝鮮の漁船が日本の海岸に打ち上げられている。その中には漁師の死体が乗っていることもある。この海域の中国漁船は、巡視船に体当たりすることでも有名である。2016年には、中国の漁船が黄海で韓国の監視船に突進して、これを沈没させた。韓国の沿岸警備隊(the South Korean Coast Guard)が、突進してきた20数隻の中国漁船に発砲するという事案も発生している。

 2019年、私は北朝鮮と韓国の国境近辺の海域に向かった。私たちの船は、1隻の韓国のイカ漁船と一緒に向かった。北朝鮮の海域に向かう中国のイカ漁船団を見つけるのに時間はかからなかった。私たちの船は、その船団の横を並走し、ドローンを発射して船団の漁船の識別番号をいくつも撮影した。船団の漁船の1つの船長が警笛を鳴らし、ライトを点滅させた。海上儀礼で、それは警告を意味する。私たちの船は韓国領海内にあり、合法的な距離があったため、船長は航路を維持した。すると警告を発した中国漁船が突然、衝突するべくこちらに向かってきた。私たち船の船長は、舵を切った。中国漁船は30フィート(約9メートル)しか離れていなかった。

 中国外交部(The Chinese Ministry of Foreign Affairs)は、私に、「中国は北朝鮮に関する安全保障理事会の決議を一貫して遵守している」と言った。また、違法な漁業については「一貫して処罰してきた」と付け加えた。しかし同部は、中国が北朝鮮海域に漁船を派遣していることについては、認めることも否定することもしなかった。2020年、非営利団体のグローバル・フィッシング・ウォッチ(the Global Fishing Watch)は衛星データを用いて、数百隻の中国イカ漁船が北朝鮮海域で日常的に操業していることを明らかにした。2022年までに、中国はこの違法な船団をピーク時から75%削減した。しかし、規制のない海域においては、中国の船団の稼働時間は増加している。漁獲量も増え続けている。

  2021年の元旦の直後、鎮発7号(Zhen Fa 7)は南米の先端を回って、携帯電話の電波が届くほど岸に近いチリ海域で一時停船した。アリトナンは甲板に行き、身振り手振りとカタコトの英語を使って、航海士の1人に携帯電話を貸してもらえないかと頼んだ。航海士は人差し指と親指をすり合わせながら、お金を払えば貸すと告げた。アリトナンは船室まで戻って、タバコやスナックを他の船員に売った。なんとか13ドル相当のお金を工面した。それで5分だけ携帯電話を借りられた。実家に電話をかけた。母親が出た。彼の声を聞いて興奮していた。彼は5月までには戻ると告げ、父親と話したいと伝えた。「寝ている。」と、母親は言った。実際には、父親は数日前に心臓発作で亡くなっていた。だが、母親は航海中の息子を動揺させたくなかったのだ。後に彼女は教会の牧師に、アリトナンの帰りを心待ちにしていると告げた。「息子は私たちのために家を建てたいと言っている。」と、彼女は言った。 

 その後すぐに、その漁船はフォークランド諸島(the Falkland Islands)近くのブルーホール(the Blue Hole)で投錨した。フォークランド諸島には、イギリスとアルゼンチンの間の領土問題が横たわっている。そのため、中国漁船は海上取締りの隙を突くことができる。アリトナンはホームシックにかかり、部屋にこもってインスタントラーメンばかり食べていた。「悲しそうで、とても疲れていた。」と、フィクランは言った。その年の1月、アリトナンは脚気を患った。白目が黄色くなり、両脚がむくんた。「彼はかなりひどい状態だった。」とアンハルは言った。それでも船長は治療を受けさせることを拒んだ。「その近海にはイカがたくさんいた。」と、アンハルは言った。「イカ漁の最盛期だったんだ」。2月には、その漁船が漁獲したイカは、モーリシャスまでそれを運ぶ冷凍コンテナ船に移された。しかし、理由は不明だが、船長はアリトナンをその船に移して岸に送ることを拒否した。

 やがてアリトナンは歩けなくなった。インドネシア人船員たちは再び船長室に行き、船長に詰め寄った。アリトナンの治療を受けさせなければストライキをすると脅した。「私たちは全員で船長に抗議した。」と、アンハルは言った。最終的には船長が折れて、3月2日にアリトナンはマーリン号(the Marlin)という石油タンカーに乗せられた。その船は彼をウルグアイのモンテビデオまで運ぶ予定だった。マーリン号の船員は彼を沖合のサービスエリアまで運び、そこで彼はスキフ(小型船)に移され、港まで運ばれた。ウルグアイで栄成王道深海水産物有限公司の関連企業が地元の病院に連絡し、彼は救急車でその病院に搬送された。

 ヘシカ・レイエス(Jesica Reyes)は36歳の女性で、モンテビデオでは数少ないインドネシア語の通訳者だ。彼女は多くのインドネシア人船員が立ち寄るインターネットカフェで働きながら、独学でインドネシア語を習得した。インドネシア船員からは、”お嬢さん “や “お姉さん “を意味するMbak(ンバック)と呼ばれていた。2013〜2021年の間、およそ1カ月半に1度の頻度で、モンテビデオでは漁船(その多くは中国船籍)から死体が降ろされた。私はレイエスと食事をした。その際に、彼女が援助した何百人もの船員についての話を聞いた。ある船員は、船長が彼を岸に連れて来なかったために、歯の感染症が原因で死亡した。他の船員は、船会社が彼を病院に連れて行くのを怠ったため、ホテルの一室に閉じ込められて病状が悪化して死に至ったという。

 2021年3月7日、レイエスは栄成王道深海水産物有限公司の関連企業から、医師がアリトナンと意思疎通を図るために救急外来に行くよう頼まれた。彼女は、アリトナンは胃が痛いだけであると聞かされていた。しかし、彼が病院に運ばれた時、全身が腫れ上がっていた。彼女は、目と首の周りにあざや傷があるのを見た。彼は首を絞められたと彼女にささやいた(後に他の船員から聞いた話では、首周りに傷ができていたのは見ておらず、いつ首回りを怪我をしたのかはわからないとのことだった)。レイエスは栄成王道深海水産物有限公司の関連企業に電話し、「彼は腹痛ではない……. . . あなたはこの青年を全く見ていない。彼の身体はボロボロよ。」と言った。彼女は彼の写真を撮った。直ぐに医師が写真を撮るのを止めさせた。

 救急治療室では、医療チームが点滴を行った。泣きながら震えるアリトナンは、「他の船員たちはどこにいるの?」と、レイエスに尋ねた。「怖いよ」。翌朝、アリトナンの死亡が確認された。「とても腹立たしいわ。」とレイエスは言った。私が接触した船員たちは誰もが激怒していた。メジャワティは、「船長や他の幹部が全員捕まって、起訴されるか、刑務所に入れられることを切に願う。」と言った。アリトナンの親友であるアンハルは、その年の5月にシンガポールで鎮発7号(Zhen Fa 7)から下船して初めて彼の死を知った。「私も他の船員も心が折れた。」と、彼は言った。私たちが彼に会った時、彼は1個の大きなスーツケースを持っていた。アリトナンのために持ち帰る約束をしていた衣料品がびっしり詰まっていた。