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中国遠洋漁業船団についての調査をしていると、船上での暴行や監禁に関する報告が各所から寄せられるようになった。今年、2020年に撮られた1本のビデオを受け取った。2人のフィリピン人船員が映っていたが、彼らは病気になったのに、船から出るの拒まれたと語っていた。「救出してください。」と、1人が言った。「私たちは病気になった。だけど、船長は病院に連れて行ってくれない」。その夏、3人の船員が死亡し、少なくとも1人の遺体は海に投げ捨てられた。2人をその漁船に派遣した人材派遣会社のPTプンチャック・ジャヤ・サムドラ(PT Puncak Jaya Samudra)社にコメントを求めたが、回答は得られなかった。船を所有する企業も同様だった。2020年にインドネシアのジャカルタ(Jakarta)を訪れた際、私は6人の若者に会った。彼らは2019年、ファディル(Fadhil)という若い同僚の船員が船上で死んだと話した。「彼は故郷に帰りたいと懇願したが、許されなかった。」と船員の1人であったラマダン・スガンディ(Ramadhan Sugandhi)は言った。その船を所有する船会社にコメントを求めたが、回答は得られなかった。彼をその船に派遣した人材派遣会社であるPTシャファル・アバディ・インドネシア(PT Shafar Abadi Indonesia)も同様に回答しなかった。今年6月、ウルグアイのマルドナド(Maldonado)近くの浜に、困窮した中国人船員からのメッセージらしきものが入った瓶が漂着した。「こんにちは、私は魯清源765号(the ship Lu Qing Yuan Yu 765)の船員です。船会社に監禁されている。」と、記されていた。「この手紙を見たら、警察に連絡して下さい。助けて下さい!S.O.S. S.O.S.」。 その船の所有する青島松海漁業公司(Qingdao Songhai Fishery)は、この手紙は船員が捏造したものだと主張している。
インドネシア語通訳者のレイエスが、2年前に呂栄元結978(the Lu Rong Yuan Yu 978)で作業中に階段から落ちて背中を骨折したインドネシア人、ラフリ・マウラナ・サダド(Rafly Maulana Sadad)に連絡を取ってくれた。彼はすぐに漁網を引く作業に戻ったが、その後気を失い、ベッドで目を覚ましたという。船長は彼を岸に連れて行くことを拒み、彼はそれから5ヶ月間も船上で過ごすこととなり、より病状が悪化した。サダドの友人たちが食事や入浴を手助けした。しかし、サダドはしばしば混乱して、尿まみれになって寝ていた。「話すことも困難でした。」と、彼は昨年言っていた。「脳卒中になったような感じだった。何も理解できなかった」。2021年8月に船長はサダドをモンテビデオ(Montevideo)で降ろした。9日間入院した後、空路帰国した。サダドが乗っていた船を所有する栄成栄源(Rongcheng Rongyuan)と、彼を派遣した人材派遣会社のPTアバディ・マンディリ・インターナショナル(PT Abadi Mandiri International)にコメントを求めたが、回答は得られなかった。今もサダドは松葉杖がないと歩けない。今もインドネシアにいる。「とても苦い人生経験だった。」と、彼は言った。
中国漁船が強制労働によって支えられているのと同様に、漁船がイカを運び込む中国の加工工場も強制労働によって支えられている。過去30年間、北朝鮮政府は多くの国民にロシアや中国の加工工場で働くことを義務づけてきた。そして、稼ぎの90%(数億ドルにのぼる)を国が管理する口座に入れるよう求めてきた。労働者はしばしば厳しい監視下に置かれ、移動も厳しく制限される。国連の制裁により、このような北朝鮮労働者の利用は禁止されているが、中国政府の推計によれば、昨年、中国東北部のある都市だけで8万人もの北朝鮮労働者が生活していたという。北朝鮮人権委員会(the Committee for Human Rights in North Korea)の報告書によれば、その内の少なくとも450人が水産物加工場で働いていた。中国政府はインターネット上のこれらの労働者に関する記述をほとんど削除している。しかし、中国版TikTokの抖音(Douyin)で “北朝鮮の美人たち(North Korean beauties) “というキーワードで検索したところ、水産物加工場で働く北朝鮮女性労働者の動画がいくつか見つかった。そのほとんどは、周りの中国人労働者が写したものである。ある中国人コメンターは、彼女たちは 「民族のアイデンティティを強く意識しており、非常に規律正しい。」と評していた。しかし、別のコメンターは、彼女たちは命令に従わざるを得ない状況にあり、さもなければ「家族が苦しむことになる」と指摘した。
過去10年間、中国は中国北西部の新疆ウイグル自治区でも、ウイグル族やその他の少数民族に対して弾圧を行ってきた。いくつも収容所を設置し、収容された者たちを綿花畑やトマト農園やポリシリコン工場で働かせた。最近では、ウイグル人コミュニティを崩壊させ、主要産業向けの安価な労働力を確保するため、中国政府は数百万人のウイグル人を中国全土に移住させている。多くの企業が彼らを安価な労働力として利用している。ウイグル人労働者はしばしば、有刺鉄線で囲まれた寮に住まわされ、警備員によって常に監督されている。企業のニュースリリースや年次報告書、国営メディアの記事を検索したところ、過去5年間に何千人ものウイグル人やその他のイスラム系少数民族が水産加工場で働かされていることがわかった。中には愛国教育(patriotic education)を受けている者もいる。2021年のある記事では、地元の共産党幹部が、ある水産加工工場で働く少数民族のメンバーは、中国人化されており、十分な民族団結教育を受けていると述べていた。英国のシェフィールド・ハラム大学(Sheffield Hallam University)のローラ・マーフィー(Laura Murphy)教授は、「これはすべて、ウイグル属の文化、アイデンティティ、宗教、人権を抹殺するプロジェクトの一環です。中国政府の目標は、ウイグル族コミュニティ全体の完全な変容です」と言った。(複数回にわたって中国当局に水産加工場におけるウイグル族と北朝鮮人の強制労働についてコメントを求めたが、回答は得られなかった。)
アメリカには、北朝鮮人やウイグル族の労働力を使って生産された産品の輸入を厳しく禁じる法律がある。他の産業、例えばソーラーパネル製造業でも、こうした労働力の利用が近年確認されている。アメリカは10億ドル相当の輸入産品を没収している。しかし、私たちが調べた結果、ウイグル族と北朝鮮人を雇用している企業が、直近で少なくとも4万7,000トンの水産物を輸出していることを発見した。その中にはアメリカに送られた大量のイカも含まれている。アメリカは、世界中のイカの約17%を輸入している。それらを輸入したのは軍に物品を納入している企業を含む数十の輸入業者で、最終的にはアメリカ軍基地と公立学校のカフェテリアにも納入されている。人身売買法務センター(the Human Trafficking Legal Center)の創設者であり代表のマルティナ・ヴァンデンバーグ(Martina Vandenberg)は、「こうした事実は、水産業界全体にとって非常に深刻な問題を提起している。」と私に語った。
中国は自国の水産加工業に関する報道を歓迎していない。2022年、私は非営利団体アースレース・コンサベーション(the Earthrace Conservation)が巡視船として使用している元アメリカ海軍の戦艦のモドック号(the Modoc)に2週間乗り、南米沖の中国イカ漁船を訪ねた。ガラパゴス諸島の港に戻る途中、エクアドル海軍の戦艦が近づいてきた。艦長らしき人物がエクアドル海域の通過許可を取り消したと言ってきた。「今すぐ引き返さなければ、船を拿捕して拘束する。」と彼は言った。直ぐに領海外に出るようにと言ってきた。私たちの船は、領海外に出るのに十分な食料も水も持っていなかった。2日間の交渉の後、私たちは一時的にエクアドルの港に入ることを許されたが、そこで武装したエクアドル人軍人が集団で乗り込んできた。彼らは、我々の船の許可申請が不適切であり、エクアドル領海を出る際に承認されたコースをわずかに逸脱したと主張した。通常、このような違反は、文書による警告を受けるだけである。しかし、フィッツパトリック(Fitzpatrick)大使が説明してくれたのだが、複雑な事情があったという。彼は、中国政府がエクアドルの議員数人と接触し、諜報活動(covert operations)に従事する戦艦の存在に懸念を示したと述べた。当時エクアドルの外相だったフアン・カルロス・ホルギン(Juan Carlos Holguín)に話を聞いたところ、彼は中国の関与を否定した。しかし、フィッツパトリックによれば、エクアドルは中国に対して重い債務を負っており、エクアドル政府は中国関連では慎重に行動せざるを得ないという。「中国はモドック号を嫌っていた。」と、彼は言った。「それ以上に、イカ漁船に関する報道が増えることを嫌っていた」。