中国 ゼロコロナ政策中止後の感染拡大の惨状を見よ!どうして、習近平は何の準備も出来ていなかったのか?

Comment January 16, 2023 Issue

The Dire Aftermath of China’s Untenable “Zero COVID” Policy
唐突にゼロコロナ政策を終了した後の中国の惨状

Why did the nation, which suppressed the virus for years, fail to prepare for the inevitable?
何年も新型コロナウイルスを抑制してきた国が、なぜ、ゼロコロナ政策中止後の準備が全く出来ていなかったのか?

By Dhruv Khullar  January 8, 2023

 ジャーナリストのダレル・ハフ(Darrell Huff)は、1954年に出版されたベストセラー”How to Lie with Statistics(邦題:統計でウソをつく方法)”の中で、人々の現実認識を操作するための一般的な手口をいくつも紹介していました。その中で、グラフのY軸のスケールを調整する方法について詳述していました。1本の折れ線がグラフの中央からふらふらと右肩上がりに伸びているグラフがありました。それは、時間の経過とともに徐々に上昇していることを示しています。しかし、グラフの下の部分を切り落とし、折れ線が漂っている部分だけを拡大すると、折れ線はロケットのように勢いよく急上昇しているように見えます。Y軸を調整することで、グラフが訴える内容を大きく変えられるのです。

 新型コロナのパンデミックの期間中、私たちはY軸ではなくX軸も調整しました。X軸の幅を短くしています。どういうことかと言うと、新型コロナの感染者数を、パンデミック発生以降の期間の増減の波を分析するのではなく、その時々の国ごとの感染者数のみが注目されていました。2020年の夏の時点のみの感染者数を示すグラフを作ると、アメリカの感染者数は壊滅的に思えるほど増えていました。そのグラフは、アメリカの新型コロナ対応の失敗を如実に示すものに見えました。その数カ月後には、ヨーロッパの各国が感染防止のための規制を緩和し、その結果として死者数が激増しているように見えました。インドも規制を緩和し、感染爆発が起こりました。その影響は甚大で、インド国外の何百万人にも影響が及びました。というのは、インドが半年間ワクチンの輸出を停止せざるを得なかったからです。中国は3年にわたって厳格なゼロコロナ政策を維持し続けて新型コロナの感染を抑え込んできました。その間、14億人の人口を抱えているにもかかわらず、新型コロナによる死者は5,000人しか出ていませんでした。しかし、先月、突然、ゼロコロナ政策が撤廃されました。現在、新型コロナウイルスの感染が凄まじい勢いで広まっているようです。新型コロナウイルスが初めて発生したこの国は、現在、最悪の事態を迎えているようです。X軸を短くして、短い期間を示すグラフを作ると、この国で感染爆発が起こっていることが明確に分かるでしょう。

 中国ではこの1カ月、病院や薬局や葬儀場が訪れる人で溢れかえっています。その悲惨さを誰もが知っているような状況です。この国ではもはや無症状の感染者数の集計はしておらず、新型コロナによる死者数も正確には把握も公表もされていません。もはや統計数値の歪曲はしておらず、そもそも把握することを諦めたようです。しかし、中国国家衛生委員会の議事録によると、12月に入ってから3週間で2億5千万人が新型コロナに感染し、多い日には1日に3千7百万人が感染したと推定されます。医療専門家の分析によれば、中国の都市部では今月末に最初の感染ピークを迎えるだろうと推測されています。しかし、もっと過酷な感染ピークの第2波が、旧正月で何百万人もの人々が帰省で移動した後の2月か3月に、都市部以外を襲うだろうと推測されています。最終的にどれくらいの数の感染者が出るのでしょうか?推定するのは難しく、さまざまな数値があるようですが、今後数カ月の間に100万から200万人が新型コロナで死亡すると推測している専門家もいます。

 全人類の6分の1が新型コロナウイルスに感染するほどの感染爆発だったわけで、ウイルスがより感染力の強い形態に変異する機会が無数にありました。それで、世界中で感染が繰り返されましたし、世界中の至る所で何度も感染者数が急増しました。アメリカでは変異株オミクロンの新たな派生型(亜系統)であるXBB1.5の感染が拡大しています。既に北東部では新型コロナの新規患者の内の4分の3がXBB1.5によるものです。XBB1.5は、これまでで最も感染力が強いと考えられています。中国で感染爆発が起こると、オミクロンの新たな変異株が生み出される可能性が高まります。最悪の場合、感染力がさらに強い、あるいは重症化リスクの高い全く新しい変異株が生み出される可能性もあります。

 さて、なぜ中国はこれほど長い間ゼロコロナ政策にこだわったのでしょうか?また、なぜ今になって急に中国はその方針を転換したのでしょうか?ここのところは良く分析すべきだと思います。昨年、感染力が超強力なオミクロン株の感染が拡大したことで、新型コロナウイルスを封じ込めるための社会的コストは膨大なものになりました。それで、世界中の国々が封じ込め政策を続けることはとても不可能であるという事実を受け入れざるを得なくなりました。しかし、その時点でも中国だけは、封じ込めは可能であると判断したのです。それで、ゼロコロナ政策を継続して推し進めたのです。しかし、経済が失速し社会不安が深化したことより、習近平(Xi Jinping)国家主席はゼロコロナ政策を緩和せざるを得なくなったのです。2022年の中国の経済成長率は過去30年間で最低となり(2020年の新型コロナパンデミックによる停滞は除く)、11月には天安門事件以降で最大規模となる抗議デモが発生していました。この抗議デモの引き金となったのは、何人もの死者がでたウイグル自治区でのマンション火災と過酷なロックダウンが続いていることでした。ロックダウンに対する不満は高まっていました。有意義な人間関係はもちろん、食料と医療へのアクセスも限られていたからです。

 ここでさらに分析すべきことは、どうして中国が不可避の事態に備えることができなかったのかということです。様々な要因が重なって、中国はゼロコロナ政策の解除ができにくい状況に陥っていました。他の国々とは事情が異なる部分があったのです。ゼロコロナ政策が成功したということは、中国国民が新型コロナウイルスに触れる機会がほとんど無く、その結果、自然免疫を獲得している者もほとんど居ないことを意味しました。中国は世界で最も急速に高齢化が進んでいる国の1つで、2億5千万人以上の人がウイルスに感染すると重症化して死亡するリスクが高い60歳以上です。また、中国では、新型コロナに対して脆弱であると思われる人たちでもそれほどワクチン接種率は高くないのです。12月中旬までに80歳以上の人々の42%しかワクチンの2回接種を済ませていませんでした。ワクチン接種を受けた人たちは、中国国内で開発されたワクチンを接種されました。そのワクチンは、mRNAワクチンよりも効果が低く、オミクロン変異株には有効ではないものでした(中国政府は、欧米で開発されたワクチンの承認を拒否してきましたが、先日ファイザーとバイオテックのワクチンをドイツ人駐在員に接種することを許可しました)。そうした問題に加えて、中国では医療体制が脆弱であるという問題もありました。中国は、長年にわたって膨大な人口の医療ニーズを満たすのに苦労してきました。現在、医療従事者の中にも新型コロナに罹患する者が出始めて、さらに脆弱化しています。ICUでの治療を必要とする患者の者が急増しているのですが、その数は中国のICUの数より数倍も多い可能性があります。

 ゼロコロナ政策を捨てたわけですが、急に止めてしまうしか方法は無かったのでしょうか?他にも方法はあったと思われます。中国政府は、欧米が開発したmRNAワクチンを承認し、高齢者に焦点を当てた積極的なワクチン接種キャンペーンを実施することができたはずです。抗ウイルス剤と抗熱剤を大量に調達し、それを配布することもできたはずです。また、医療機関等の能力を強化し、どこでどのような治療が受けられるか明確に周知することもできたはずです。しかし、中国共産党は、そうしたことをする代わりに、堅く沈黙を貫いています(もちろん、中国以外の国でも新型コロナの対応ではいろんな不手際がありました。アメリカ政府もパンデミック対策に必要な投資を繰り返し怠ってきましたし、ワクチン接種や抗ウイルス剤の費用を負担することを既に止めています。また、アメリカでは、オミクロン変異株に特化したワクチン接種を受ける人はほとんどいません)。ゼロコロナ政策を止めてから数週間、習近平は国民に対して何の説明もしませんでした。おそらく、今回の騒動と自分をできるだけ遠ざけたかったのでしょう。そして、多くの工場が閉鎖され、多くの医療機関が大混乱し、多くの火葬場が満杯になる中、ようやく12月31日に彼は国民に向けて演説をしました。彼は、防疫措置は新たな段階に入ったと述べ、中国共産党は常に人民の命と健康を最大限守ってきたと強調しました。

 現在中国で新型コロナの感染が急増している事態を見て得られる教訓が1つあります。それは、相互接続された世界において、隔離政策で時間を稼ぐことはできても感染の脅威を排除することはできないということです。アメリカや他の多くの国々が中国からの旅行者に新たに新型コロナの陽性検査を義務付けました。しかし、それは、政治的な点数稼ぎとなり、誤った安心感を人々に与えるでしょうが、それ以上の効果は期待できないでしょう。一方、今現在でも新型コロナウイルスは中国に住む何億人もの人たちの健康と生命を脅かしており、そうした人たちの多くは、今では当たり前になっているような基本的な保護も受けられないのです。中国政府は現状を無視して感染は広まっていないと公表し、現状を全く別のもののように見せることができます。平気で統計数値を改竄しますし、あらゆる手段を使って嘘をつきます。しかし、現実を変えることはできないのです。♦

以上