14.ユルユルのオーガニック認証制度自体にも問題がある
農場がオーガニック認証を一旦受けると、それが取り消されることは殆どありません。オーガニック認証機関が認証に相応しくない証拠を見つけても、直ぐに認証が取り消されるわけではありません。オーガニック認証機関は、農場に改善すべき点を指摘します。農場が改善せずに不適合状態を続けていると、審問に招かれることがあります。それでも不適合状態が続く場合のみ、認証の取り消しが提案されることとなります。実際に認証が取り消されるには、さらに1年かかります。
全米オーガニック・プログラムでは、一般消費者やオーガニック農業関係者からの苦情を受け付けています。しかし、評判の高いオーガニック認証会社”OneCert”(以下、ワンサート社)の創業者のサム・ウェルシュは私に言いました、「全米オーガニック・プログラムに苦情を言っても何も解決しませんね。あそこは、何かと理由を付けて、調査しないんですよ。」と。クラークソン・グライン社のリン・クラークソンによれば、全米オーガニック・プログラムは、オーガニック認証を取得している農場等に対して立入検査をすることはないし、抜き打ち検査をすることも無いということです。クラークソンによれば、オーガニック農産物というのは歴史も浅く、業界も脆弱なので、厳しい検査をしたらオーガニック業界全体が立ちいかなくなってなってしまうだろうということです。それ故、全米オーガニック・プログラムも厳しい指導をすることができないのです。クラークソンは言いました、「何かがおかしい、間違っていると声を上げることも可能です。でも、それはオーガニック業界にとって、本当に良いことなのでしょうか?逆に害の方が多いんじゃないでしょうか?今すぐ不正を一掃すべく立ち上がるべきなのでしょうか?でも、それをしちゃうとオーガニック業界は崩壊してしまいますよ。」と。
全米オーガニック・プログラムは、コンスタントの不正に対して何のペナルティも課しませんでした。2018年に、司法省がようやくコンスタントを起訴しました。それは公表されました。ですので、彼の穀物を取引する際の取引相手や関係者は、コンスタントがオーガニック農産物に関して詐欺行為を働いていたことを認識しました。オーガニック認証業者や穀物バイヤーや食品加工業者や小売業者などです。しかし、一般の消費者には、何も分かりませんでした。というのは、オーガニック業界は、詐欺行為があったことを大々的に消費者に知らせるようなことはしなかったからです。司法省の調査結果によれば、コンスタントが不正に手を染めたのは2010年以降とされています。しかし、私が多くの穀物業者等に聞いたところでは、コンスタントの不正行為は遅くとも2001年には始まっていたようです。しかし、オーガニック業界は、コンスタントの不正が公になって以降も、一般消費者には出来るだけ知られないようにすることに腐心していたのです。この業界のそうした態度は今でも変わっていません。全米オーガニック・プログラムに、私はコンスタントの詐欺行為に関しての取材を申し込んだのですが、拒否されました。
オレゴン州の出版社「The Organic & Non-GMO Report」がジェリコ・ソリューションズ社についての記事を書いた頃、2007年のことでしたが、グレン・ボルジャーディンとドゥエイン・ブッシュマンは、コンスタントが取引で不正を行っているという懸念を持ちました。それで、ボルジャーディンは、コンスタントが使っていたオーガニック認証機関であるQAI社にコンスタントの農場の抜き打ち検査をするよう提案したそうです。その頃には既にコンスタントに対して疑惑の目が向けられていたので、認証機関等もそうした情報を共有していたはずです。しかし、コンスタントの取引に対する規制当局の監視が強化されたことを示す証拠は何もありません。
2012年、コンスタントは、ネブラスカ州のトム・ブレナンとジェームズ・ブレナンが栽培したトラック1杯分の大豆をある顧客に販売しました。オーガニック認証証明書のある大豆でした。購入した顧客はサム・ウェルシュが設立したオーガーニック認証機関であるワンサート社に検査を依頼しました。検査したところ、全て遺伝子組換えでした。ウェルシュがこのエピソードを私に話した時、その顧客の名前を教えてくれませんでしたが、後に私はそれがネブラスカ州に本社があるスコウラー社であることを突き止めました。年間40億ドル以上の売上を誇る穀物販売会社です。スコウラー社は、かつてコンスタントを営業担当として雇っていたことがありました。ウェルシュは、スコウラー社の代理人として全米オーガニック・プログラムに調査を依頼しました。ウェルシュが言うには、全米オーガニック・プログラムは、スコウラー社に1度電話をかけただけで、それ以外は何の対応もしなかったそうです。ウェルシュは、その後6年間に渡って(2009年〜2017年)全米オーガニック・プログラムに何度も調査依頼を繰り返しました。役員に何度も連絡したのです。マイルズ・マケボイ(2009年〜2017年まで代表を務めていた)や、マシュー・マイケル(コンプライアンス担当責任者を務めていた)と何度も電子メールでやり取りをしていました。ウェルシュは、やり取りした際のメールを今でも保存しており、私に見せてくれました。
2014年に全米オーガニック・プログラムは、別の穀物商からも、コンスタントが不正な取引をしている疑いがあるという報告を受けました。その穀物商を私は取材したのですが、コンスタントを何年も見てきたが、詐欺行為を働いていることが明白になったと言っていました。その穀物商は言いました、「私のように穀物商をしている者は、誰もが穀物の品評会や展示会に行って、ビールを飲んで顔見知りになって商談をします。それなのに品評会に来たこともなく穀物商の間では名前を知られていない男が大量のオーガニック穀物を売っていたので、不思議に思っていたんです。当時、オーガニックのコーンの供給は非常にタイトでした。ですので、価格も高騰していて1トン400ドル以上で売られていたんです。それなのに、私がよく取引をしていたネブラスカ州の穀物商が『今、1トン375ドルでオーガニックのコーンを大量に買ったよ。』と言っていたんです。私は、そのコーンの産地や売り手を知りたかったんですが、商いの道理に反すると思い聞きませんでした。ネブラスカ州の穀物商が『もし、必要なら、鉄道貨車1両分か2両分くらいなら売ってあげるよ。』と言ってきたんです。それで、私は、2両分売ってもらうことにしたんです。」と。穀物商は誰がこんなに安く大量にコーンを販売しているのか気になっていました。売買が成立して書類が揃ったので見てみたところ、疑惑の渦中にある人物の名前が記されていました。穀物商は「やっちまったかなぁ?」と思ったそうです。
その時コンスタントが販売したコーンを化学分析にかけても、オーガニック栽培されたものか否かは判明しなかったでしょう。しかし、コンスタントは、市場でコーンが不足している最中に、大量のオーガニックのコーンを市場価格を大幅に下回る価格で販売しており、オーガニックでなかった可能性を否定できません。なお、例の穀物商は、コンスタントから購入したコーンを全て第三者に転売しました。オーガニック認証証明書をつけて、それなりの値段で販売しました。オーガニックとして転売できなければ、大きな差損がでてしまうので、そうするより仕方なかったのでしょう。
全米オーガニック・プログラムに宛てたその穀物商の申し立てには、「私は、オーガニック穀物業界で大きな不正が行われていると思います。どうか、私の申し立てを軽視しないで下さい。」と記されていました。また、彼が疑念を持った経緯が詳細に記されていました。コンスタントがオーガニックでない穀物を購入し、それにオーガニック認証証明書を付けて、ジェリコ・ソリューションズ社を経由して他に転売していて、ジェリコ・ソリューションズ社はコンスタントの関与を隠す役目を果たしていたことなどを詳細に記していたのです。数週間後、全米オーガニック・プログラムのコンプライアンス責任者であるマシュー・マイケルが、穀物商に電子メールを送りました。そこには「我々の調査では、米国農務省のオーガニック規制に対する明らかな違反は見つかりませんでした。よって調査は終了します。」と記されていました。穀物商は、信じられないと同時に頭に血が上りました。穀物商は私に言いました、「私は直ぐにマイケルという男に電話しましたよ!それで、『次は新聞社に電話するからな!どうして調べないんだ!おかしいだろっ!』って留守電に入れましたよ。」と。(マイケルは現在も米国防総省の職員ですが、この件に関してコメントを求めましたが拒否されました。)
当時の全米オーガニック・プログラムで代表を務めていたマケボイは、その頃の全米オーガニック・プログラムの人的資源は限られていた上に、膨大な数の申し立てがあったと言っています。また、全米オーガニック・プログラムが現在取り組んでいる不正対策についても説明してくれました。例の穀物商がマイケルに送信したメールの件については言及しませんでした。マケボイは、記憶している限りではコンスタントに関する申し立てがその頃に少なくとも1件はあったと言っていました。ペンシルベニア州で遺伝子組換えの穀物がオーガニックとして売買されていた案件だそうです。それは、おそらく例の穀物商にオーガニックのコーンを販売した案件のことを指していると思われます。穀物商が電話で怒ってどなったことは無駄ではなかったようで、それが政府機関の調査に繋がったようです。
マイケルから調査を打ち切るという電子メールを受け取ってから数ヵ月後、穀物商は連邦検察庁監察官室のブラッド・マイヤーなる人物から電話をもらいました。マイヤーは、40代の元憲兵隊員です。マイヤーは同僚と共に米国内の不正事件の捜査を担当していましたが、オーガニック農業に関する専門知識は全く持っていませんでした。それで、マイヤーは単刀直入に穀物商に、「コーンがオーガニックか否かを調べるには、どのような検査をするのですか?」と、聞きました。すると、穀物商は、「それな方法は無いんですよ。」と、言いました。マイヤーは「えっ、無いの?」と、言いました。