6.コンスタント 非オーガニック穀物をオーガニックとして売りさばく
実はコンスタントは、オーガニックでない穀物をオーガニックであると偽って販売していたのです。少なくとも6人の仲間が関与していました。この事件は、米国オーガニック農業史上最大の詐欺行為として知られています。捜査当局は、オーガニックであると偽って穀物を販売することによって、少なくとも2億5,000万ドルを顧客に過剰に支払わせたとして、彼を告発しました。
コンスタントに加担したマイク・ポッターの弁護を担当したのは、クラレンス・モックというネブラスカ州の弁護士でした。彼は、「この詐欺事件の根底には、オーガニック農産物を購入する消費者は騙しやすいという考え方があった。」と、先日、語っていました。また、彼は、「オーガニック栽培のコーンとオーガニックでないコーンの違いなんて、粉砕してコーンミールにしてしまったら、誰にも分からないでしょう。」と、言いました。この詐欺事件を企てた者たちは、おそらくオーガニックでない穀物をオーガニックと偽って販売することを、軽いいたずら程度に考えていたと思われます。実際に彼らは口を揃えて言っていました、「オーガニックと偽ったとしても、誰も傷つくわけじゃないし、病気になるわけじゃない。俺たちは医薬品メーカーではないし、人々に害を与える薬を売ったわけでもない。」と。
オーガニック農業を過去に営んだことがある人たちに話を聞くと、農家がオーガニック栽培に踏み切る理由は単純で、価格を高く設定することが出来るからです。しかし、実際にオーガニック農法を始めてみると、それほど儲からないことにすぐに気付くでしょう。手間がかかるし、雑草がたくさん生えるし、収量も減るからです。それで、やめてしまう人もいます。しかし、オーガニック農法を体験することで、目覚めてしまう人も少なからずいます。化学肥料や農薬への依存をやめられるし、昆虫や動物が増えるのを実感できるので、そうしたことに満足して、オーガニック農法の虜になる人もいるのです。
しかし、コンスタントはオーガニック農法の虜にはならなかったようです。彼は、オーガニック農法で一儲けできるのではないかと思っただけでした。誰かが作ったオーガニックの穀物を買い付けて1ブッシェル4ドルで転売できたら、結構な儲けになるとの計算がすぐに頭に浮かんだようです。また、もっと安易に儲けられる方法が無いかと思案した挙句、詐欺に手を染めてしまったのでしょう。
農場がオーガニック認証を受けると1年間は有効です。認証される農場の面積が狭くても、売上が制限されるわけではありません。分かりにくいと思いますが、認証された農場にリンゴの木が12本しかなくても、100万個のオーガニックのリンゴを販売する契約をしても問題はないということです。その果樹園のオーガニック認証証明書を見たとしても、問題だと気付ける人はいないでしょう。というのは、認証証明書には面積が記載してないことがほとんどだからです。ある穀物商が言っていたのですが、認証機関によっては、認証証明書に面積を記載しないところもあるのです。信じられないことに、米国農務省は面積の記載を義務付けていないのです。
コンスタントの詐欺行為に加担した農家の中でも、少なくとも1人は実際にオーガニック農法に取り組んでいました。その者の農場では除草剤や殺虫剤を使っていましたが、農場の外縁部では使わないようにしていたのです。ですので、外から見ると、その者の農場は雑草が好き放題に伸びていて荒れ地のように見えました。それで、忙しい認証機関の審査官は、その者の農地は全てオーガニック農法を実践しているとして認証してしまいました。(コンスタントを雇ったことがある不動産業者のリック・バーンズは、『オーガニック農場はどこもかしこも荒れ地のようだ。』と言っていました。) しかし、コンスタントの詐欺行為は、基本的には、そうした手の込んだものではありませんでした。オーガニック農産物の取引では、本物のオーガニック農産物であることよりも、認証証明書の方が価値があると、コンスタントは考えていました。それで、彼は認証証明書を利用した詐欺をすることを思いついたのです。
コンスタントが気付いたのは、どこかの農場でオーガニック認証を受けておけば、他の農場で収穫した非オーガニック栽培の穀物を、オーガニック認証を受けた農場で収穫したものとして販売してもバレないだろうということでした。2016年にコンスタントが販売したオーガニックコーンの量は、オーガニック認証されていた面積から推定する収量の約10倍でした。その年、コンスタントがオーガニック認証を受けた農場の面積は、コーンと大豆用で合わせて約3,000エーカーでした。金額ベースでは約2,000万ドルの販売実績がありました。コンスタントは、オーガニック農産物を購入する者を騙しただけでなく、彼を信用していたオーガニック認証機関や取引相手も蔑ろにして騙したのです。クラークソン・グレイン社の1人の社員が言っていたのですが、コンスタントは弁舌巧みに人を騙す能力に長けていました。おそらく、詐欺行為がバレて捕まるなどとは夢にも思っていなかったのではないでしょうか。
コンスタントは詐欺行為がバレないという自信を持っていたようです。彼はとても自信家だったのですが、どうして自信家になったのかを知るのは難しいことではありません。彼は、若い頃に地元の新聞であるチリコシー・コンスティチューション・トリビューン紙に頻繁に取り上げられました。いずれも賞賛するような記事ばかりでした。高校時代にはフットボールチームでディフェンシブエンドとして活躍しました。また、破壊行為を警察に通報して表彰されたり、奨学金を獲得したり、チャリティーを開催して資金集めを行ったりしました。1974年、15歳の時に彼はフューチャー・ファーマーズ・オブ・アメリカ(以下、FFA:米国の学校農業クラブ連盟で、米国50州内に州のFFA組織がある)の地方大会で優勝しました。その後、FFAの支部の会長になり、全国規模の会議にも出席しました。その会議では、彼の農業従事歴が評価されてFFAから表彰されました。また会議の冒頭では、FFAの信条を読み上げる役を務めました。その信条は、「農業は、我が国の良き伝統を守るものである。家庭と地域社会で影響力を発揮し、農業というやりがいのある仕事を通じて自らの役割をしっかりと果たそう。」というものでした。
取引先と交渉する際に、コンスタントはしばしば、「私は農業しか取り柄が無いんです。」と言っていました。しかし、ジョン・ハイネッケはコンスタントのことを評して、「あいつは全く農業のことを知らない!」と言っていました。 とはいえ、それは、いくぶん不当な評価なようです。コンスタントがトラクターを運転する姿を想像するのは難しいかもしれませんが、彼はトラクターが話題になれば会話に参加して話を盛り上げることができたからです。リン・クラークソンは、言いました、「ランディ・コンスタントは農業の知識はそれなりに持っていたんです。」と。コンスタントは、商談時に60年代の農業を思い出す振りをして郷愁に訴えるという手法を用いたそうです。その際には、オーガニック農法は60年代の農業と似ていると思うなどと語っていたそうです。
コンスタントは、チリコシーの近くに数十エーカーの農地を借り、時にはあちこちで借りた数千エーカーの農地を管理していました。彼は自分のことを農夫と言っていたにもかかわらず、チリコシーの教育委員会委員長に立候補する時などは、農夫としての実績はほとんどアピールしていませんでした。彼は、種苗や大豆や魚や不動産を販売しました。また、メキシコ料理店向けにコリアンダーを栽培することや医療用マリファナの栽培することを検討していました。また、ランジェリー・フットボール(女性が下着姿でフットボールをする)への投資も検討していました。
以前にコンスタントに雇われていた者の1人は、彼のことを、気さくで礼儀正しいが計算高いところがあると評していました。彼に雇われていた者のほとんどが同じような印象を持っていたようです。2000年頃、若手の大豆農家のベン・オースティックは、ミズーリ州農務省が主催したオーガニック農法に興味のある人たち向けに企画されたロンドン視察旅行で、コンスタントと一緒に1週間行動しました。オースティックは、後にバプティスト派の牧師に転じました。オースティックは、コンスタントが常にオーガニック農業の話ばかりしていたことを記憶していました。レ・ミゼラブルを観劇した際にもオーガニック農法の話をしたがり、大豆を取引するチャンスを見出そうとしていたのです。オースティックは言いました、「彼を悪く言うつもりはないのですが、常に何か策略をめぐらしているようでした。こういう言葉は使いたくないのですが、とても強欲な人間だと思います。」と。