バイデンの国境強化策は愚策? 移民による人口増がなければアメリカ経済は日本の二の舞になるぞ! 

The Financial Page

The Immigration Story Nobody Is Talking About
誰も語らない移民問題

The United States does need a more orderly border. It also needs more immigrants, who are critical to the country’s economic strength.
アメリカは、国境の秩序を取り戻すことが必要である。また、もっと移民を受け入れる必要がある。移民はアメリカ経済にとって極めて重要である。

By John Cassidy June 10, 2024

 先週、ジョー・バイデン大統領はメキシコ国境を越えようとする移民を取り締まると発表した。即座に移民権利団体、市民権団体、そして一部の民主党議員が反応した。カリフォルニア州選出のアレックス・パディラ( Alex Padilla )上院議員は、今回の新施策は国境警備隊に不法入国者を迅速に強制送還する権限を与えるものであり、「アメリカの価値観を損ない、迫害、暴力、権威主義から逃れる者たちにアメリカに避難する機会を与えるという国家の義務を放棄するものである」と述べた。

 しかし、少なくとも 1 人の経済学者は、バイデンの移民政策を強く支持しており、ホワイトハウスの今回の施策に同情的であった。カリフォルニア大学デービス校グローバル移民センター( The Global Migration Center at the University of California, Davis )を率いるジョバンニ・ペリは、「メキシコ国境の状況は混沌としている。」と指摘する。「不法移民というと良くないイメージがある。そのため、この国の移民政策を揺るがすほどの悪影響が出ている。実際には移民には良い面も少なくない。アメリカには毎年多くの移民が押し寄せるが、彼らは貴重な労働力になっているし、彼らの購買力がアメリカ経済を下支えしている」。

 ジョージ・メイソン大学( George Mason University )のエコノミストで移民問題に詳しいマイケル・クレメンス( Michael Clemens )は、今回の新施策に関する報道の一部、特にネット上では誤解を招くような報道がなされていると指摘する。明らかになったバイデンの新施策を精査すると例外が設けられていることがわかる。少なくとも 6 万人の移民(亡命申請あるいは法廷審問を待つ間は合法的にアメリカ国内に留まる権利を持つ)が毎月合法的にアメリカに入国できると推測され、これはドナルド・トランプ政権時代の約 6 倍であるとクレメンスは指摘する。「これはトランプ大統領時代への逆戻りではない。」と彼は言う。「比較できるレベルではない」。水曜日( 6 月 5 日)にバイデンが発表した新施策では、国境を越境する不法移民の拘束者数の 1 日平均が一定の基準を下回るまで、移民の亡命申請のほとんどが制限される。しかし、クレメンスが指摘しているのだが、多くの移民が依然として国境事務所に向かうことを計画することが可能である。また、バイデン政権がキューバ、ハイチ、ニカラグア、ベネズエラの住民のために設けた特別入国プログラムがあり、それを申請する者も少なくないであろう。とはいえ、メキシコから国境を越えてくる移民たちに対して、合法的な入国の選択肢を増やすことが急務であることは、クレメンスもペリも同意するところである。「アメリカ
はこれらの移民を容易に吸収することができるし、アメリカ経済も彼らを必要としている。」とペリは言う。また、クレメンスも、合法的なルートを拡大することが国境の安全確保に必要である主張する。「アクセスを拒否するだけでは、密入国が助長されるだけである。まったく効果がない可能性さえある」。

 議会予算局によると、アメリカへの移民数は 2022 年の 260 万人が、2023 年には 330 万人と急増している。この増加の大部分は亡命審査中またはその他の理由で仮釈放が認められた移民によるものである。ブルッキングス研究所( Brookings Institution )のエコノミストのウェンディ・エデルバーグ( Wendy Edelberg )とタラ・ワトソン( Tara Watson )が 2 月カ前に発表した論文に記しているのだが、FRB がインフレを抑えるために金利を大幅に引き上げても、多くの新規移民がアメリカに入国することで経済が成長し、雇用が増加したという。彼らは働くことと消費することの 2 つの側面で経済成長に貢献している。予想外の新規移民の増加で「 2022 年以降の消費者支出と経済全体の成長の強さの一部を完全に説明できる」とエデルバーグとワトソンは書いている。「さらに、2024 年も移民の流入は減らず、アメリカ経済をさらに伸長させると予測する」。

 エデルバーグに電話したところ、バイデンの新しい移民政策がどのような影響を及ぼすか正確に予測するのは難しいとのことであった。しかし、もし計画通りにいけば、これによって亡命を求める人の数は最終的に約 25% しか減らないだろう。「バイデンがやっていることは、アメリカ経済全体に及ぼす影響という点ではささやかなものである。」とエデルバーグは言う。「全く影響が無いわけではないが、すぐに劇的な影響が出るわけではない」。

 この分析は、多くの右派政治家が何十年も激しく煽ってきた移民政策について、より理性的な推測を示すものである。大衆に受け入れられ広く流布する傾向のある比喩は、事実にほとんど基づいていないことが多く、議論の中心にあるべき事実はしばしば無視されるものである。例えば、共和党がしきりに主張するのだが、メキシコから国境を越えてくる移民が「( swanped )押し寄せている」という主張がある。確かに、ここ 2 、3 年の間に急増した不法移民が、国境を接する州の地域社会や、移民が大量流入したニューヨークやシカゴなどの大都市に大きな困難をもたらしていることは事実である。しかし、ここ最近の移民の急増(主としてホンジュラス、グアテマラ、ベネズエラなどラテンアメリカ諸国からの移民で、貧困と治安悪化から逃れてきた)が、アメリカに住む不法移民の数が 10 年間減少した後に起こっていることに言及する者はほとんどいない。

 国土安全保障省の直近の推計によると、2010 年時点でアメリカには 1,160 万人の不法移民がいた。2022 年には 1,100 万人であった。つまり、ここ 2、3 年で不法入国者数が急増したとはいえ、それは大量の不法移民がメキシコ等に帰国した時期に起こったことであることを理解しなければならない。結果として、現在もアメリカに居住している不法移民の総数はわずかに減少しているのである。国勢調査局によれば、過去 20 年間にアメリカに住む外国生まれの者の数は大幅に増加している。2000 年の 3,110 万人が 2022 年には 4,620 万人になっている。しかし、増えた移民の大部分は合法的な移民で、入国者の多くは熟練労働者である。「 2000 年以降の移民のほとんどは高学歴労働者である。」とペリは指摘する。

 確かに、メキシコから国境を越える移民の多くは高度な教育を受けていない。しかし、ここでさらに 2 つの知られざる事実を認識すべきである。メディアによる報道、特にテレビ報道を見ると、移民のほとんどが働くことができず、アメリカ国民の税金で運営されるシェルターでぐったりしているという印象を持つかもしれない。その印象はほぼ間違いなく不正確である。亡命手続きに入ることを認められたり、あるいは人道的に仮釈放を認められた不法移民は、期限付きではあるが労働許可申請をする資格がある。「雇用統計の各種資料を見るとわかるのだが、最近では移民の労働参加率は非常に高い。」とエデルバーグは言う。「移民が増えると新規従業者数も増えており、ほとんどの移民が働いていると推測される。」とエデルバーグは言う。その推測に異議を唱えるコメンテーターも少なくない。彼らは、移民による母国への送金額が急増したという証拠はほとんどないと指摘する。しかし、エデルバーグはそれに反論する。彼女によれば、送金が多くないというデータは、入国したばかりの移民のほとんどが、まだ母国に大金を送金できていない ことを示唆しているに過ぎないという。

 2 つ目の重要な事実は、今後数十年の間にアメリカ経済の成長を維持し、建設、農業、食品加工、サービス業、介護などの産業で必要不可欠な業務を維持するために、この種の労働者がさらに膨大に必要になるということである。労働者不足になることは人口動態から分析すれば明らかである。出生率低下と高齢化を回避することはできない。ホワイトハウス経済諮問委員会が作成した今年の大統領経済報告書によると、っk2023 年から 2052 年の間に 25 歳から 54 歳の労働者の割合は、年平均で 0.2% しか増加すると予想されている。これは 1980 年から 2021 年の成長率の 5 分の 1 でしかない。しかも、この 0.2% というわずかな成長率でさえ、毎年大量の移民を受け入れなければ達成できそうにない。同報告書には「移民が増えなければ、アメリカの人口は 2040 年頃までに減少に転じると予測される。」との記述がある。

 人口が増えない中でも健全な経済成長を維持することは、理論的には不可能ではない。楽観的な AI 信奉者の多くは、それは可能なはずだと言うであろう。しかし、過去 10 年半の間に人口が減少し、経済成長が停滞している日本の実態から目を背けることはできない。日本の姿は、トランプや多くの共和党議員が求めているように移民を厳しく制限した場合にアメリカが直面するであろう課題を示している。「アメリカ経済が長期的に成長するためには、多くの移民が必要である。」とエルズバーグは言う。「本当に必要なことは、合法的にもっと移民を受け入れられるようにすることである」。

 ペリは、シリコンバレーで活躍するコンピューター・エンジニアのように高度な訓練を受けた労働者だけでなく、メキシコから国境を越えてくる移民にも、合法的な移民のルートを容易に利用できるようにすることが重要であると主張する。ここ数年、建設業や老人介護など、低スキルの移民が働きがちな多くの分野で、すでに労働力不足が顕在化している。今年初め、大手建設会社のほとんどが加盟する業界団体は、2024 年の建設需要を満たすためには、さらに 50 万人の労働者を集める必要があると発表した。「今後 10 年から 20 年の間に、適切で包括的な移民制度改革を行うことがより重要になるだろう。」とペリは言う。「メキシコとの国境を強固にするだけで、合法的な移民の拡大に取り組まないとするならば、それは全く何もしないことと同じである」。♦

以上