A Reporter at Large April 26 & May 3, 2021 Issue
The Incredible Rise of North Korea’s Hacking Army
北朝鮮のハッキング軍の信じられないほどの台頭
The country’s cyber forces have raked in billions of dollars for the regime by pulling off schemes ranging from A.T.M. heists to cryptocurrency thefts. Can they be stopped?
(北朝鮮のサイバー部隊は、ATMからの現金奪取や暗号資産の盗難など幅広い犯罪に手を染めて体制維持のために資金を集めている。彼らを止めることは出来るのか?)
By Ed Caesar April 19, 2021
1.2016年5月 セブンイレブンのATMで不正な現金引出16億円
下村は、日本最大の広域暴力団山口組の一員でした。彼は上役の1人からまとまったお金が欲しいか否か質問された時、すかさず欲しいと返答しました。それは2016年5月14日のことで、彼は名古屋市に住んでいました。彼は、32歳、やせ型で、威圧的な目つきで、外見にはちょっと自信を持っていました。大体いつもスーツを着込み、磨き上げた革靴を履いていました。しかし、彼はその組織の中では下っ端で、借金取り等の雑多な仕事をこなしていました。
その上役は、今度の仕事はリスクが低いということを念を押すように言いました。そして、下村はその日の夜に名古屋市内のバーで行われる打合せに出席するよう指示されました(下村は現在は山口組を抜けており、記事中には苗字しか載せないという条件で取材に応じた)。下村が打合せに合流すると、そこには他に3人の暴力団員がいました。いずれも初めて見る顔でした。多くの暴力団員と同じように、下村は在日韓国人でした。打合せにいた他の3人の内の2人も在日韓国人でした。しばらくの間、彼らは韓国語で話をしました。しばらくして例の上役が到着して、5人は個室に移りました。4人は上役から白い無地のクレジットカードを渡されました。カードにはチップも番号も名前もありませんでした。付いているのは磁気ストライプだけでした。
上役はペラペラのマニュアルを見せながら指示を読み上げました。指示は、翌日の日曜日の早朝に、セブンイレブンを何店舗か回って、渡した白いホワイトカードを店内のATMで使えというものでした。渡されたクレジットカードは他の銀行やコンビニのATMでは使えないものでした。また、1度にATMから引き出す金額は10万円(約900ドル)で、1つのATMでは19回までしか引き出すなという指示もありました。もし、1つのATMで20回連続して現金を引き出すと、そのカードは無効になってしまいます。引き出しを始めるのは午前5時で、午前8時以降は引き出すなという指示もあり、ATMの画面に言語を選ぶ画面が出たら日本語を選ぶという指示もありました。その指示で、配られた白いカードは外国の銀行のものだと推測しました。指示には続きがあって、1つの店で19回現金を引き出したら、次のセブンイレブンの店のATMで引き出しするまでには、1時間以上間を開けなければなりません。ATMから引き出した現金総額の10%が下村の取り分となります。他に雇われていた3人も同様でした。指示を全て説明された後、最後に暗証番号を教えられ覚え込まされました。
日曜日の朝、下村はまだ暗い内に目を覚まし、ジーンズを穿き、古いTシャツを着て、サングラスを掛け、野球帽を被りました。そして、とあるセブンイレブンの店舗まで歩き、興奮を鎮めるため、おにぎりとコーラを買いました。それから、彼はカードをATMに挿入しました。画面にどの言語を表示するか尋ねる画面が現れたので、非常に緊張しましたが日本語を選択しました。彼は、現金を10万円(約900ドル)引き出しました。続いて何度も何度も引き出しました。その店の中にはレジのところに男の店員が1人いるだけで、他には誰もいませんでした。その店員は下村の行動を全く気にしていませんでした。
下村は1度目に現金を引き出した後、出てきた取引明細を見ました。そこには、外国人の名前が印字されていましたが、名前を見た限りではどこの国の人かは分かりませんでしたが、日本人の名前でないことだけは分かりました。その取引明細をポケットにしまい込みました。午前8時頃、近隣のセブンイレブンの数店舗のATMで38回現金を引き出した後、家に向かいました。帰途の足取りは少しヨタヨタしていました。というのは、380万円(約3万5千ドル)分の札束でポケットが膨らんでいたからです。下村は彼の10%分の現金を抜いて38万円(約3.5千ドル)をアパートの部屋の引き出しに隠しました。午後3時に残りのお金は上役に会って直接渡しました(下村は後に知ったことですが、一緒に指示を受けた他の3人の内の1人が現金とカードを持ったまま逃走していました)。
下村が聞いた話によれば、彼の上役は下村たちから受け取った金額の5%を取り分として受け取り、残りは組の幹部に渡していました。下村が上役にお金を渡した時に思ったのは、彼の上役は下村のような現金引き出し役を何人も雇っているだろうということでした。その推測は当たっていました。この事件は、すぐに新聞各社が報じることとなりましたが、その日の早朝に日本全国のセブンイレブンのATMで現金が不正に引き出され、総額は約1,600万ドル(17億円)以上とのことでした。新聞の報道によれば、セブンイレブンが標的とされたのは、そこのATMは日本で唯一全ての外国のカードが使えるからでした。この事件があった直後に、日本国内では多くのATMの引き出し限度額が5万円に引き下げられました。
下村は、この詐欺事件のスキームでは自分は最下層の存在であると推測しました。本当に大儲けできるのは、彼よりもはるか上位の一部の幹部だけでした。昨年、下村は当誌のインタビューに応じましたが、彼はこの詐欺事件の首謀者とか、大元が誰かということを全く認識していませんでした。警察の発表によれば、セブンイレブンの事件が発生したの直後に、この事件の首謀者が中国から北朝鮮に入っていました。下村は、期せずして朝鮮人民軍の資金獲得に協力していたことになります。朝鮮人民軍は様々な不正な金儲けを企てています。米当局は北朝鮮によるそうした不正行為を「ファスト・キャッシュ(Fast Cash)」戦略と名付けています。背後には北朝鮮の対外工作機関である朝鮮人民軍偵察総局(RGB)がいると指摘しています。