凄まじい北朝鮮のサイバー攻撃!ATMの現金奪取、暗号資産盗など悪行三昧。奴らを止めることは出来るのか?

5.北朝鮮は国を挙げてハッカーを育成している

 ほとんどの国のハッカーは、10代のうちに自宅のコンピューターでさまざまなスキルを習得し磨きます。ワナクライの拡散を防いだマーカス・ハッチンズもそうでした。彼は高校生の時に自宅に引き籠っていました。しかし、北朝鮮ではサイバー空間での才能がある者は、手厚く育てられます。かの国では、コンピューターが有る家はほとんどありませんし、有ったとしてもインターネットへのアクセスは常に監視されています。

 北朝鮮で才能ある者を選抜して養成するプロセスは、かつてのソビエトや東欧でオリンピック選手を育成した方法とよく似ています。安全保障問題に関する研究や提言で実績を有する米国のシンクタンク、スティムソン・センターで北朝鮮が専門の研究員のマーティン・ウィリアムスが言うには、戦争を仕掛けるとなると莫大な費用が必要で兵器を買い揃えなければならないのに対し、ハッキングを仕掛けるのであれば能力のある人間を集めるだけで充分です。北朝鮮は、資金には不自由していますが、人的資本には不自由していないのです。

 最も有望な学生は、学校でコンピューターを使用することが奨励されます。数学的才能が有る者は数学に特化した高校に移されます。そういった中でも特に優れた学生は、海外に旅行に行くことができます。それで、International Mathematical Olympiad(国際数学オリンピック、またはIMO)などのイベントに参加します。そうしたイベントは、多くのフィールズ賞(若い数学者のすぐれた業績を顕彰する賞)受賞者は参加したことがあるもので、10代にして上位に入賞しています。

 北朝鮮の学生はしばしばIMOで印象的なパフォーマンスを披露することがあります(しかしながら、北朝鮮はIMOで不正行為の疑いで失格となったことのある唯一の国で、北朝鮮チームは1991年と2010年の2回失格となっています)。2019年にIMOがイングランドのバースで開催され6つの課題が出されましたが、北朝鮮チームのクク・ソンヒョンは5つめの課題までは満点で、中国、韓国、ポーランド、米国の学生とともに首位でした(しかし、6問めでは得点を伸ばせず順位を下げました)。

 平壌にある2つの大学、金策工業総合大学と金日成総合大学は、数学に特化した高校やコンピューター専門高校から選りすぐりの才能ある10代の若者を集めて、高度なプログラミングを学ばせています。その2つの大学は、最高に楽しいオタクの祭典である国際大学プログラミング大会(International Collegiate Programming Contest、または、ICPC)で米国や中国の大学を上回ることがしばしばあります。2019年にポルトガルのポルトで開催された決勝大会で金策工業総合大学は8位でした。オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、ハーバード大学、スタンフォード大学よりも上位でした。

 コスティン=アンドレイ・オンセスクは、2019年の大会にオックスフォード大学の代表として出場しました。彼は母国ルーマニアにいる時、10歳の時に高度なプログラミングを学び始めました。彼は私に教えてくれましたが、ICPCは楽しい社交の場であるだけでなく、巨大IT企業のリクルートの場にもなっていました。ファーウェイが2019年決勝大会のメインスポンサーでした。オンセスクによると、過去の大会出場者の中には、その後プログラミングで偉大な功績を残した者もいるとのことで、1例として、2000年と2001年に優勝したサンクトペテルブルク州立大学チームの1員で、その後ロシアのソーシャルメディアサイト”VK”と”Telegram”を立ち上げたニコライ・ドゥーロフの名を挙げました。

 ポルトでは北朝鮮からの参加者も他の国からの出場者と同じホテルに泊まっていました。しかし、オンセスクが見た限りでは、北朝鮮の学生は他の国の学生とは全く交流しませんでした。オンセスクによれば、大会ではコーディングの速さも重要であるが、問題解決能力も非常に重要であり、それには純粋に数学的思考能力が必要となります。大会で上位に食い込むもうと思うなら、チームに1人は数学的思考能力の高い人材が必要です。また、チームは3人で協力して、抽象的な課題を解決するためプログラミングを行います。しかし、プログラミングでコードを書く作業は1人で行わなければならないという制約があります。。

 2019年のICPCでは、非常に難しい課題がいくつか出ました。一例を挙げると、「あなたの大学のボードゲームクラブがチェッカー(将棋のように駒を動かすゲーム)のトーナメントを開催しました。あなたはそのゲームの駒が動いた順を棋譜のように記録することを命じられました。残念なことに、家に帰る途中で記録した紙を全て水たまりに落としてしまいました。棋譜の記録が残っていたのは、ゲームの途中の部分だけでした。何とかして、棋譜を全て復元して記す方法はないか?というのが課題でした。学生たちがプログラミングを開始しましたが、この問題を時間をかけずに解決する必要がありました。オンセスクは、この大会で優勝するためには、迅速に、チーム内で力を合わせて、創造力を発揮する必要があると指摘していました。彼は言いました、「最も難しいのはプログラミングではありません。良いアイデアを思い付くか否かが勝敗を分けるのです。」と。

 彼が言うには、こうした大会の過去の出場者の中には、後にプログラマーとして目覚ましく活躍した者や著名な研究者になった者が沢山いるということです。しかし、こうした大会はハッカー集団のスキルアップに寄与しているのも事実です。なぜなら、こうした大会では、システムの不具合を見つけ出して、それに対する改善策を検討してプログラミングで解決することを競い合うわけですが、そうした能力が一番発揮できるのはサイバー攻撃やハッキングを仕掛ける時だからです。プログラミングや数学的分析能力は、映画「スター・ウォーズ」の中の”フォース”のようなものす。フォースは正しく使われることもあれば、ダークサイドで使われることもあるのです。