9月13日(火)アメリカ労働省CPI発表!コア・インフレ率は市場予想を上回った!でも悲観する必要は無い!

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The Inflation Picture Isn’t as Negative as Republicans and the Markets Are Saying
インフレの状況は共和党やマーケットが言うほど酷くない

Prices are gradually declining over all, and the Fed chief, Jerome Powell, should resist calls for more drastic interest-rate increases.
物価は徐々に下落しており、FRB のジェローム・パウエル議長は、より大幅な利上げを求める声に抵抗する必要があります。

By John Cassidy September 14, 2022

 火曜日(9月13日)に発表された8月の消費者物価指数(CPI)が市場予想を上回る伸びとなりました。ジョー・バイデン大統領と民主党にとっては、ここのところ経済面で明るいニュースが続いていたのですが、それも打ち止めとなったようです。労働省が公表した最新の数値によると、総合インフレ率(headline inflation rate)は7月の8.5%から先月は8.3%に低下したのですが、コア・インフレ率(総合インフレ率から相対的に価格変動が大きい食品価格とエネルギー価格を除外したインフレ率)は、7月の5.9%から先月は6.3%に上昇しました。家賃や新車などのコストが上昇したことが影響したようです。労働省の報告書には「高水準の物価圧力が広範囲に及んでいる」との文言がありました。市場関係者とFRBは、総合インフレ率よりもコア・インフレ率に注目しています。というのは、コア・インフレ率の方が実態を正確に反映していると考えているからです。現在、ジェローム・パウエル議長率いるFRBがインフレ抑制のためにより積極的な利上げに踏み切るかどうかに注目が集まっています。利上げをすると景気後退が引き起こされる可能性が高まります。

 労働省の発表を受けて、株式市場は大きく下げました。株価はここ2年以上で最大の下げ幅を記録しました。それを受けて共和党がバイデン政権への批判を再び強めています。しかし、発表された消費者物価指数(CPI)の数値は前向きに受け止める必要もあります。消費者物価指数(CPI)は依然として高いので注意が必要であるものの、アメリカ経済を俯瞰的に見てみるとインフレ圧力は徐々に緩和されつつあることが確認できます(残念ながら、多くの消費者が望むほど急速にはインフレ率は下がっていませんが)。6月の総合インフレ率は9.1%の上昇でしたから、2ヶ月で0.8ポイント低下したことになります。また、コア・インフレ率は上昇しましたが、今後数ヶ月で大幅に低下すると思われます。根拠もあります。米調査会社のパンテオン・マクロエコノミクス(Pantheon Macroeconomics)の主任エコノミストを務めるイアン・シェパードソン(Ian Shepherdson)は、「全体として、コア消費者物価指数(core C.P.I. rate)は、ゆっくりとではあるが下げ続けています。今後6ヶ月の間にかなり低下することは間違いないでしょう。」と語っていました。

 労働省の発表後に、すぐにバイデン大統領が反応して、ガソリン価格が夏以降は急落していることを強調していました。今後のガソリン価格がどうなるかは、世界の石油市場で何が起こるかによって決まるわけで、予測するのは困難です。しかし、火曜日(9月13日)に原油価格は再び下落しました。それがそのままガソリン価格に反映すれば、下落傾向はしばらく続くのではないでしょうか。どれ位まで下がるのでしょうか?「ハリケーンや予期せぬ供給停止などが発生しなければ、全米平均ガソリン価格は1ガロン当たり3.49ドルまで下がるでしょう。場合によっては3.25ドルまで下がるかもしれません。」と、パトリック・デ・ハーン(Patrick De Haan)はYahoo financeに語っています。彼は、ガス・バディ社(GasBuddy:ボストンを拠点とするテクノロジー企業で、米国とカナダの 140,000 を超えるガソリン スタンドでリアルタイムの燃料価格を検索することに基づいてアプリと Web サイトを運営)で原油価格のアナリストをしています。また、「年末までに2.99ドルまで下がる可能性も無きにしも非ずです。」と、付け加えて言いました。

 ガソリン代が安くなることは、自動車を運転する人にとってはもちろん良いニュースですし、食品を購入する人、つまり実質的にすべての人にとって良いことです。火曜日(9月13日)に労働省が公表した8月の数値を見ると、過去12ヶ月間で、家庭内または家庭外で食べる食品の価格は11.4%上昇し、1979年5月以降、年率では最大の上昇率となりました。食品価格を押し上げた要因の1つは、輸送コストの大幅な上昇です。しかし、燃料価格の低下によって、現在は輸送コストは低下し続けており、最終的には食品価格の低下に繋がるはずです。そうならない場合は、どこかで誰かが儲かることになります。航空運賃も燃料価格の下落を受けて、先月は4.6%下落しました。夏以降、ジェット燃料価格が大幅に下がっているわけですから、秋にはもっと下がる見通しです。

 食品価格が上昇した原因は、世界的なサプライチェーンの問題にもあります。その問題も、ようやく解決されつつあるようです。特に自動車産業でそれが顕著です。ここ2年間、新車の供給不足が深刻化していたので、中古車価格が大幅に上昇していました。しかし、直近では、ある調査によると、中古車のオークション価格は8月単月で4%もの大幅な下落を記録しています。しかし、現時点では、オークション価格の大幅下落が、まだ自動車販売店の中古車販売価格の大幅な下落には繋がっていません。しかし、もうそろそろそう繋がるはずです。中古車価格がそれなりに下落すれば、自動車販売店も容易に新車価格を値上げすることがはばかられるようになるでしょう。自動車販売価額はCPIを算出する際に約11%を占めているわけですから、そうした状況がCPIを大きく押し下げるだろうと推測されます。

 もうひとつ考慮すべきことがあります。それは、家賃の動向です。家賃は、CPIのほぼ3分の1を占めていて、つまりCPIに大きな影響を及ぼしています。インフレ率が押し上げられて高止まりしているわけですが、家賃が果たしている役割は非常に大きいのです。8月のCPIの数値を見ると、過去12ヶ月の間に、居住用賃貸物件の家賃は6.7%も上昇しました。この数字は、長期賃貸契約を交わしていて家賃が上昇していない者の家賃も含まれたものです。ニューヨークの一部などでは、新規賃貸契約の家賃が大きく上昇しています。

 家賃が急上昇しているのは、需要が旺盛であること、賃貸物件の不足、不動産価格の高騰など、複数の要因が反映したものです。不動産価格が高騰しているせいで、住宅購入を検討していた者の多くがそれを諦めて、賃貸市場になだれ込んでいるのです。最近、FRB がFFレート(フェデラル・ファンド金利)を引き上げたため、住宅ローン金利も大幅に上昇しました。その結果、住宅の売れ行きが鈍化し、現在では多くの地域で住宅価格が下落し続けています。このまま住宅価格の下落が続けば、購入する魅力が増すので、賃貸需要は減るでしょう。その結果、家賃は下押しされるでしょう。残念ながら、そうなるにはしばらく時間がかかりそうです。EYパンテノン(EY-Parthenon:戦略コンサルティング会社)の主任エコノミストのグレゴリー・ダコ(Gregory Daco)は、インフレに関するレポートで記していました、「住宅需要の急激な縮小を背景に、今後数ヶ月間で家賃の上昇圧力は大幅に弱まると予想されます。しかし、明確に家賃の下落が認識できるようになるまでには、まだ数ヶ月ほどかかるでしょう。」と。

 ここまでで述べた要因に加えて、新型コロナパンデミックによる供給制限によって利益率が圧縮されていた状況も緩和されつつあるようです。来年3月までにコア・インフレ率は6.3%〜4.8%に下がると予測されています。また、水曜日(9月14日)に8月の生産者物価指数(PPI:Producer Price Index)が発表されましたが、資料の詳細を見てみたところ、卸売レベルの物価は前月比では僅かながら下落していました。年率では8.7%の上昇で、ここ1年で最小の上昇率でした。シェファードソンは、そうした数値を認識しておくことが重要だと言いました。彼は指摘しました、「財とサービス のいずれにおいてもインフレ率が低下していることが明確になりつつあります。」と。

 共和党は、ドナルド・トランプと妊娠中絶の権利の問題が中間選挙の焦点となる事態は避けたいと考えているようです。ですので、インフレと生活費高騰を争点にしようと躍起になっています。当然ながら景気に関する明るい話題には目もくれません。危険なのは、中間選挙の投票日(11月8日(火))までに、労働省がインフレに関する報告をする機会が10月13日(木)の1回しかないということです。その数値は、非常に重要で、中間選挙にも影響を及ぼすかもしれません。バイデン大統領の支持率はここ数週間でいくらか回復していたのですが、 ハーバード大学米国政治研究所(CAPS)とハリス・ポール(Harris Poll:アメリカの市場調査、分析企業)が共同で実施した世論調査によると、54%のアメリカ人が依然として個人の経済状況が悪化していると考えているようです。回答者の46%が、状況は改善されているか、変化していないと回答しています。

 物価の上昇スピードが賃金のそれを上回っている現状では、世論調査の結果がそのようになるのは致し方ないことです。しかし、現在、総合インフレ率が低下しつつあり、賃金上昇圧力とインフレ期待は十分に抑制されています。インフレ率上昇が止まらないと悲観する状況にはありません。FRBがパニックになる必要もない状況です。来週には、FOMC(連邦公開市場委員会)が開催されるわけですが、FRBのパウエル議長は、インフレ期待は十分抑制的であることを明確にし、さらなる大幅な利上げを求める声には抵抗する必要があります。インフレ率が低下するのには時間がかかるのですが、そのプロセスはすでに進行中なのです。

以上