The Kafkaesque Journey of the Oakland A’s
オークランド・アスレチックスの変身は成功するか?
As the team’s current owner tries to move the franchise to Las Vegas, its situation has become hopeless and absurd.
アスレチックスのオーナーはフランチャイズのラスベガス移転を画策しているが、不人気チームが惨状を覆そうとする企みは上手くいきそうにない。
By Louisa Thomas May 19, 2024
1.オークランド・アスレチックスがフランチャイズ移転を計画した経緯
メジャーリーグのオークランド・アスレチックスが普段使用しているオークランド・コロシアムは、他のメジャーリーグのスタジアムと同様であるが、ピッチャーのマウンドとホームベースは 60 フィート 6 インチ(約 18.4 メートル)離れているし、各塁間は 90 フィート(約 27.4 メートル)である。しかし、他のスタジアムと違うところもある。きれいな公園が付随していない。野良猫も多い。下水配管が破裂し汚物が流れ出すという笑えないアクシデントも起きている。マウント・デービス( Mount Davis )が通称となっている巨大な外野側に設けられたスタンドの外には美しい光景が横たわっている。しかし、その構造上、スタジアムのどの席からもそれを見ることはできない。マウント・デービスが巨大になったのには理由がある。アメリカンフットボールのレイダース( Raiders:現在の本拠地はラスベガスだが、以前はオークランドだった)の前オーナーのアル・デービス( Al Davis )が収容人員を多くすることを要望したためである。5 億ドルが投じられた。その資金は、オークランド市とアラメダ( Alameda )郡が負担した。ロサンゼルスに本拠地を移転していたレイダーズを再びオークランドに呼び戻すためだった。しかし、結局のところ、レイダースはラスベガスに移ってしまった。現在、オークランド市は莫大な財政赤字に直面している。当時の借金の返済をいまだに続けているからである。
アスレチックスのオーナーのジョン・フィッシャー( John Fisher )は、20 年前から新スタジアムの建設を訴え続けている。「我々のファンには素晴らしいスタジアムが必要である。新スタジアムの建設が何より重要である。」と、フィッシャーは昨年 ESPN とのインタビューで主張した。彼がインタビューに応じるのは稀なことである。彼は、現在のオークランド・コロシアムをどう改修しても素晴らしいスタジアムにはなり得ないと主張している。2021 年にアスレチックスの球団社長デーブ・カヴァル( Dave Kaval )がファンへのレターの中で、「オークランド・コロシアムは耐用年数の限界に近づきつつある」と書いていた。おそらく、それは真実だろう。フットボールとの共用であるためか、文化的要素が低く無骨な構築物である。目障りな感じさえする。汚水が漏れ出したパイプを一新することが必須だが、シート、照明も取り替える必要がある。跋扈している野良猫も何とかしなければならない。アスレチックスは、オークランド市やアラメダ郡と共同でスタジアムを所有している形となっているものの、維持管理義務は負っていない。そのため、荒れ果てた現状の責任は、オークランド市とアラメダ郡にあると主張している。
フィッシャーは、オークランド・コロシアムを改修するよりも、オークランド市のウォーターフロント一帯を開発する 120 億ドル規模のプロジェクトの一環として、8 億 5,500 万ドルの公的資金を投入して 10 億ドルで新たにスタジアムを建設する方が良いと信じているようであった。残念ながら、その案は実現しそうもない。伝えられるところによれば、2023 年 4 月の時点で、オークランド市とアスレチックスの公的資金をめぐる交渉では、1 億ドルほどの開きがあったという。当時、アスレチックスはラスベガス移転を仄めかし、できるだけ多く市に負担してもらおうとしていた。アスレチックスはさまざまな場で、交渉期限は過ぎたと主張していた。
そうやってアスレチックスが交渉を急いでいたのには、理由があるのだろうか。オークランド市のウォーターフロント開発プロジェクトは、荒々の計画があるだけだった。また、アスレチックスのラスベガス移転の計画も大まかな案があるだけだった。昨年の今頃、アスレチックスはラスベガスのワイルド・ワイルド・ウェスト・カジノの跡地の土地を購入する 「拘束力のある合意 ( binding agreement )」を締結した。しかし、それは頓挫してしまった。その直後に、ラスベガスの高級ホテルが立ち並ぶストリップにあるトロピカーナ・リゾート・アンド・カジノの敷地内の 9 エーカー( 3.6 ヘクタール)の土地を、運営会社のバリーズ・コーポレーション( Bally’s Corporation )から新スタジアム用に提供するとの申し出がアスレチックスにあった。元々そこに建っていたホテルとカジノは既に廃止済みで解体する予定だった。しかし、バリーズはシカゴで運営しているカジノホテルで 8 億ドルの資金不足に陥っており、30 億ドル以上の長期負債を抱えていることが判明した。バリーズはトロピカーナの建物跡地にカジノホテルを建設したくて、その計画を実現するためのパートナーを探していたのである。ホテルの建設計画が固まるまでは新スタジアムの建設場所も決まらないだろう。ESPN によれば、オークランド市幹部はこのアスレチックスの移転計画を「フィッシャーの単なる思い付き」と揶揄しているという。
アスレチックスがラスベガスへの移転を決めたわけであるが、具体的な計画はほとんど何も詰まっていなかった。アスレチックスはネバダ州に対し、スタジアム建設プロジェクトの一環として、土地開発とインフラ整備に数億ドルを投資するよう求めていた。投資の価値があることを証明するために、アスレチックスは 3 万人収容の新スタジアムを建てれば年間 250 万人を動員できるとの推定を出した。しかし、冷静に考えればわかるのだが、全試合全席完売したとしてもその数字には達しない。そのことを指摘されたアスレチックスは、3 万 2,000 席の新スタジアムを建設すると発表した。250 万人を試合数で割っただけである。机上の空論でしかない。2,000 席増やしても、全試合で観客数が 2,000 人増えるわけではない。当時は新スタジアムの設計者さえ決まっていなかった。