The Rebranding of MDMA
MDMAのリブランディング
Ecstasy used to be known as Therapy. What kind of drug could it become next?
エクスタシー(Ecstasy)はかつてセラピー(Therapy)と呼ばれていました。今後、どんな薬になっていくのでしょうか?
July 13, 2023
1.私は大学時代のMDMA摂取体験
私は大学生の頃、数人の友人とMDMAを摂取したことがあります。2002年でした。MDMAは、エクスタシー(Ecstasy)とかモリー(Molly)と呼ばれていました。レイブ(rave:ダンス音楽を一晩中流す大規模な音楽イベントやパーティー)に行けば簡単に入手できたようです。でも、私たちはあまりレイブが好きではありませんでした。私たちがMDMAを摂取したのは、寮の誰かの部屋のバスルームでした。皆で一緒に床に座っていました。その時、その部屋に住んでいる友人のルームメイトであるジョン(John)が帰ってきました。彼がドアを開けた時、私たちは至福のひとときを過ごしていて、壁が冷たくて滑らかな感じがすると思ったり、妙にお互いの連帯感が高まったような気がしていました。私たちは、アニメのキャラクターのように瞳孔が開ききって大きくなった眼で彼を見上げました。ジョンは私たちを見ても、平然としていました。しかし、彼の挙動の何かが動揺していることを暗示しているかのように見えました。私たちが彼にどうしたのかと尋ねると、彼は友達と遊んできただけだと答えました。普段の日なら、私たちはおそらくそれ以上詮索しなかったでしょう。しかし、その日、私たちはMDMAをやっていたわけです。MDMAは、共感とつながりの感情を強めることからエンパソーゲン(empathogen:共感誘発物質の意)と呼ばれています。私たちは、彼に対して押さえきれないほどの好奇心を感じていました。本当は、彼には何か問題があるのではないか?彼は、何が起こったのかを私たちに話したがっているのではないか?何故か、私には、それが分かったのです。
ジョンは便器の便座を下して腰を落ち着けました。そして、話し始めました。彼は本格的なミュージシャンでした。オーケストラでも演奏していたし、ロックバンドのメンバーでもありました。彼が言ったのは、その日の早朝にガールフレンドからどうしてバンド活動なんかにうつつを抜かしているのかと聞かれたということでした。そのことを私たちに話すと、彼は涙を流し始めました。私が推測するに、ガールフレンドの問いが、彼の心の中の痛いところを突いていたのでしょう。当時、私はジョンのことを友人だとは思っていましたが、親友と呼べるほどではないと思っていました。でも、MDMAの影響だと思うのですが、私は過剰なくらい共感モードに入ってしまっていて、彼が傷ついているのを見るのは耐え難いことだと感じていました。私と友達たちは、彼が物事を解決する手助けをしようと奮闘しました。それで、彼がいかに才能あるミュージシャンであるかを再認識させようとしたりしました。
ジョンと私たちがいたバスルームは、残念ながらセラピストのオフィスとは似ても似つかないものでした。でも、私たちは、居合わせたついでにジョンにセラピー・セッションをしてあげたいと感じていたんです。実際、その時の状況では、セラピーに必須の要素がいくつも整っていました。私たちはジョンの話を傾聴する体制を整えていたわけで、ジョンも何が彼を悩ませているのかを打ち明けてくれました。私たちは、ガールフレンドの発言がなぜそんなに彼を傷つけたのかを尋ねました。ジョンが不安を告白した時、私たちは彼を肯定し、落ち着かせようとしました。私が覚えているのは、すっかり気分が良くなってバスルームを出て行ったジョンの姿です。そういえば、私もすっきりした気分でした。不思議なことに、ある化学物質がジョンと私たちの繋がりを強化したような気がします。もし、私たちがMDMAをやっていなかったら、私たちはジョンの悩みにあれほど関心を持たなかったでしょう。また、ジョンもあれほど真剣に心を開くことはなかったでしょう。
近年、多くの科学者たちの間で盛んに議論されているのは、MDMAを心理療法(psychotherapy)の1手段として正式に認可すべきか否かということです。マウントサイナイ(Mount Sinai)病院で心的外傷後ストレス症候群(post-traumatic stress disorder:略号PTSD)に特化した研究室を運営するレイチェル・イェフダ(Rachel Yehuda)が言っていたのですが、MDMAは 精神状態に確実に変化をもたらし、心理療法においてはトラウマ的なものに対処する人間の能力を高めるそうです。MDMAは1980年代から違法薬物とされていますが、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、MDMAをPTSD治療のための 「画期的な治療法(breakthrough therapy) 」の1つの構成要素とみなしており、近々セラピーセッション中の処方使用の申請を検討する可能性があります。このような進展は、世間のMDMAに対する考え方を変えるでしょう。多くの人がMDMAって何かと問われると、一晩中踊り明かす際に気分を良くしてくれる薬物だと答えるでしょう。しかし、MDMAの最大の薬効は、共感的な会話を促す能力にあるのです。決して踊る際にハイにしてくれるだけの薬物はないのです。MDMAが使われる意義は変わりつつあるのです。MDMAはどんなドラッグになっていくのでしょうか?