The Shameless Farce of Boris Johnson’s Attempt to Send Refugees to Rwanda
ボリス・ジョンソンのルワンダへの難民移送の試みは、恥知らずな茶番劇
A plane was on the runway when the European Court of Human Rights interceded. Now Britain may leave the court.
滑走路を飛び立つ寸前のチャーター機に欧州人権裁判所がストップをかけました。現在、イギリスは自国は欧州人権裁判所の管轄外であると主張しています。
By Sam Knight June 17, 2022
火曜日(6月14日)の夕方、イングランド南部ボスコムダウンにある空軍基地の滑走路で、青と白のカラーリングを施したボーイング767のチャーター機が夏の日差しの中で待機していました。このチャーター機は午後10時半に離陸し、ルワンダの首都キガリに飛ぶ予定でした。英国に不法に到着した亡命希望者をルワンダに移送するという新たな取り組みが開始されました。
ボリス・ジョンソン政権で内相を務めているプリティ・パテルは、間違いなく国際法に違反すると思われる上に、今後5年間で少なくとも1億2,000万ポンドの費用がかかるであろうこの取り組みを「一流の政策」と表現しました。ジョンソン政権の政策は細部を良くチェックしなければならないものが多いのですが、この取り組みは特に細部を良く確認しなければなりません。関係者の話によれば、キガリへの第1便には130人が搭乗する予定だったそうです。しかし、慈善団体や活動団体等からの激しい批判を受けて、実際にはたった7人の亡命希望者が空軍基地に連れて行かれただけでした。リズ・トラス外相はメディアに対し、「チャータ機に何人乗るかは問題ではないのです。しかし、重要なのは、亡命希望者を確実にルワンダに送り届ける仕組みを確立できたということです。」 と述べました。午後7時半頃、ストラスブールの欧州人権裁判所は、7人のうちの1人のイラク人KN氏について、法的審議が十分に尽くされるまで3週間は英国に留まるべきであるとの判決を下しました。KN氏は5月17日にボートで英仏海峡を渡ってきました。KN氏がルワンダへの移送を命じられた3日後、彼を診断した医師の1人がKN氏は拷問の犠牲者であった可能性があることを突き止めました。欧州人権裁判所の判決を受け、他の6人の移送予定者もルワンダに移送されたくないという訴えを起こしました。チャーター機の離陸予定時間の30分ほど前の午後10時頃に、ルワンダへの移送は中止されました。その後、チャーター機(50万ポンドの費用がかかっていた)は、乗客を乗せずにスペインに戻ったそうです。
イギリスとルワンダの間での不法移民受入に関する協定は、4月に署名されました。その協定で思い出したのですが、2017年までイスラエルとルワンダとウガンダの間で同様の協定が存在していました。その協定は秘密裏のものだったのですが、3年半の間に、約4,000人の亡命希望者(ほとんどがエリトリア人とスーダン人)がイスラエルからサブサハラ・アフリカにあるルワンダとウガンダに移送されました。その後、その4,000人の消息は全く分かっていません。ちなみに2009年〜2017年の間に、イスラエルがエリトリアとスーダンから受け入れた難民はたったの10人でした。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、裕福な国が貧しい国にお金を払って難民を受け入れてもらうスキームには批判的です。先週、UNHCRはイギリスとルワンダの難民受け入れに関する協定に関する7ページの意見書を公開したのですが、「この協定は、1951年に制定された難民条約の規定と精神に反している。」という結論が記されていました。多くの潜在的問題点が列挙されていて、それは、ルワンダでの通訳の不足、LGBTの人々に対する差別のリスク、亡命希望者を受け入れる能力不足(数百人しか受け入れられないと思われる)などでした。
また、その意見書には、「イギリスの亡命希望者受入能力は、それよりもはるかに大きく、はるかに優れている。」と記されていました。移民や難民に関することを統括しているイギリス内務省の年間予算は、ルワンダ国家予算の約5倍です。2018年には、ルワンダ西部のキジバにあった難民キャンプで、食糧配給の削減に抗議した難民12人が射殺されました。加えて66人が拘束されました。中には、15年の禁固刑を言い渡された者も何人かいたようです。4月には、かつて移民の流入を強硬に阻止しようとしていたテリーザ・メイ元首相が、その協定は、合法性、実用性、有効性に問題があるとして批判しました。先週、亡命希望者の強制退去にあたるとして法的な異議を唱えた団体がたくさんありました。そうした団体の中の1つは、この協定に反対する内務省職員の労働組合でした。インディペンデント紙によると、火曜日(6月14日)の夜、欧州人権裁判所の判決が下されたというニュースがチャーター機に届いたとき、機内の警備員の何人かは亡命希望者たちを抱き合って祝福したそうです。しかし、パテル外相によれば、7人の内の多くは、次のキガリ行きの便に乗せられるそうです。彼女は、「政府は正しいことをするのを決してためらいません。」と、言いました。
亡命希望者に対する無謀で非道徳的な取り組みを阻止したのが欧州人権裁判所であるという事実は、ボリス・ジョンソン政権にとっては気に入らないことでした。それで、ボリス・ジョンソンは、それを無視しようと試みています。ボリス・ジョンソンらは、欧州人権裁判所は、イギリスが脱退した欧州連合(EU)とは別のものであるということを認識しているはずです。同裁判所は、第二次世界大戦後の欧州大陸における人権擁護法を支持するために1959年に設立されました。同裁判所を運営していた欧州評議会(Council of Europe)はロンドンで設立されました。しかし、ジョンソンからすると、欧州人権裁判所は英国に困難をもたらす存在でしかないのです。つまり、活動家弁護士や密入国者やボートに乗って英仏海峡を命懸けで渡る経済移民と同じで忌まわしい存在なのです。ストラスブール(欧州人権裁判所)から判決が出された後、ジョンソンは、イギリスは欧州人権裁判所の管轄外にあるとする法案を可決する可能性を示唆しました。(なお、これまで欧州人権裁判所から脱退した国は2つしかありません。今年初めに脱退したロシア、1969年の軍事独裁政権下のギリシャだけです)。ジョンソンは言いました、「法改正の必要があると思います。法改正をすれば、全て上手くいくだろう。」と。
ルールを歪めたり、責任を回避することは、ボリス・ジョンソン政権が得意とするところです。ボリス・ジョンソン政権がブレグジットに踏み切ったのも、いろんな責任を回避したかっただけのことなのです。キガリへチャーター機で亡命希望者を移送する計画が頓挫した日の前日に、イギリス政府は欧州連合(EU)と取り交わしている北アイルランド議定書の問題を解決するための新しい法案を提出しました。その議定書は、2020年1月にイギリスが欧州連合から脱退する際に結ばれたものでした。その議定書によれば、北アイルランドは、本来ならイギリスの主権下にありながら欧州単一市場としての恩恵を受けることが可能でした。しかし、それは政治的にも論理的にも問題点が多かったため、これまで完全に発効することはありませんでした。2018年、当時のテリーザ・メイ首相は 「誰がイギリスの首相となっても、決して同意しないだろう。 」と述べていました。しかし、彼女はまさかボリス・ジョンソンが首相になるとは予測だにしていなかったのでしょう。ジョンソン政権が出した新たな法案は、北アイルランド議定書の通関手続きや規制に関する部分を無視するものでした。その部分は、ボリス・ジョンソンとベルファスト(アイルランドの首府)のユニオ二スト(アイルランドの自治・独立に反対し、イギリスとの連合を第一義として継続しようとする主張をする者)にとっては好ましくない内容だったのです。6月15日、欧州委員会はイギリスが国際法に違反していると非難し、対抗措置として法的手続きを開始しました。欧州委員会のマロシュ・シェフチョビッチ副委員長はブリュッセルで記者団に対して言いました、「どう見ても、間違いなくイギリスの行為は違法です。」と。
イギリスは、国際的な義務に違反するならず者国家と非難されたわけです。それも、わずか1週間の間で、立て続けに、3つの機関、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)、欧州人権裁判所、欧州委員会から非難されたのです。かつてイギリスがそのように非難されるのは非常に珍しいことでした。しかし、ジョンソン政権下では、非難されることは珍しいことではなくなりました。ある政府関係者がポリティコ(Politico:米の政治に特化したニュースサイト)に語ったところによると、「ジョンソン政権内には、目立ちたがり屋しかおらず、分裂しかかっている」そうです。誰もがそうした状況を目にすれば辟易するし、関わるのも避けたくなるでしょう。今週初めにキガリ行きのチャーター機に乗り込んだ亡命希望者の1人は、45歳のイラン系クルド人でした。彼がインディペンデント紙に語ったところによると、ガトウィック空港近くの拘留施設の収容室から連れ出される直前に、イランにいる妻と電話で少し話をしたそうです。彼は言いました、「二度と会えないのではないかと思い、最後の別れを告げるような感じになりました。とても辛かったです。」と。また、空軍基地までの道中は、死刑台に連れていかれるように感じられたとも言っていました。
今週、イギリスの政界では様々な観測が流れていました。アフリカに亡命希望者を強制送還する案は、裁判所に認められないだろうという観測が支配的でした。イギリスとルワンダが協定に署名したとされていますが、実際には署名されたのは単なる覚書のようなものに過ぎず、法的効力を持たないことを意味します。しかし、ジョンソン首相とパテル内相にとっては、法的効力があろうがなかろうが問題ではないのです。というのは、2人にとって重要なのは、何かをしているように見せかけ、議論が巻き起こって、混乱がもたらされることだからです。労働党の影の内閣の内相であるイヴェット・クーパーは、チャーター機の飛行が中止された翌日に、下院で「誰もが、難民をウガンダに移送する政策が真剣なものではないことを理解しているはずです。それは、恥知らずなジョンソンによる茶番劇であり、パテル内相もそれに加担しているのです。ジョンソンは、混乱を巻き起こし世論を分断しようとしているのです。これは、ジョンソン政権による策略なのです。」と主張しました。その数時間後、女王の秘書官から昨年4月にジョンソン首相の倫理顧問に転じていたクリストファー・ガイト卿が辞職を発表しました。以前にも、ジョンソン首相の倫理顧問が職を辞していました。2020年の年初のことでした。ガイト卿が辞任した理由は、ルワンダの件ではないようです。ジョンソン首相や側近連中の無責任さと嘘偽りの多さに辟易としていて耐えきれなくなったことが原因のようです。ジョンソン首相らは、新型コロナパンデミック禍でも毎週のようにパーティーでバカ騒ぎをしていました(パーティーゲート事件)。ガイト卿は、14カ月間にわたって倫理顧問として閣僚行動規範について首相に助言する立場にあったのですが、ジョンソン首相らが規範に故意に違反しているも同然だったと感じていたそうで、彼らに加担することに耐えられなくなったようです。公開されたガイト卿の辞表によると、今週初めに鉄鋼関税に関してイギリスのとるべき選択肢について助言を求められたことが辞任の契機となったようです。鉄鋼関税の問題は、現時点ではあまり認識されていませんが、今後大きな問題になっていく可能性があります。ジョンソン政権は、WTOの規則と国際法に明らかに違反する措置を取ることを提案しようとしていたので、ガイト卿は、「この件には関与できない。」と決意するに至り、辞表を書くことにしたようです。ジョンソン政権には、倫理顧問が助言して守らなければならないような倫理観は無いのです。♦
以上
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