The Worrying Democratic Erosions in South Korea
韓国における憂慮すべき民主主義の衰退
In recent months, authorities have raided offices of press outlets publishing critical reports on President Yoon Suk-yeol.
当局は、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領に批判的な報道をする報道機関の本社を強制捜査した。
By E. Tammy Kim September 30, 2023
ほとんどのアメリカ人は、韓国のユン・ソクヨル(尹錫悦:Yoon Suk-yeol)大統領について多くは知らない。しかし、彼が歌が上手いことを知っている者はそれなりにいる。4月にジョー・バイデン(Joe Biden)、ジル・バイデン(Jill Biden)両人がユン大統領とキム・キョンヒ(Kim Keon-hee)夫人をワシントンDCでの国賓晩餐会に招待した。その際、ユン大統領は東アジア風に懐かしいバラードを熱唱して喝采を浴びた。彼はバイデンの誘いに応じてマイクを手にし、大好きな曲であるドン・マクリーン(Don McLean)の「アメリカン・パイ(American Pie)」をアカペラで歌い始めた。アメリカ人なら誰でも知っている歌詞がその場を和ませた。
A long, long time ago, I can still remember /ずっと昔のこと、今でも覚えてる
How that music used to make me smile./あの音楽がどれだけ僕を笑顔にしてくれたか
バイデンは顔をほころばせ、拳を突き上げて応じた。ユンは陽気な政治家に見えた。アメリカの大事な盟友に見えた。
韓国はアメリカ寄りの民主主義国家であり、日本とともに、東アジアおよび世界中で中国に対抗するアメリカの行動を支援している。8月には、バイデンがキャンプ・デービッド(Camp David)で尹大統領と日本の岸田文雄首相と会談し、この3カ国の結束を内外にアピールした。尹は、全く政治経験が無く検察官出身であるが、昨年の大統領選で1%未満の僅差で当選した。彼が大統領に就任して以降、女性の権利保護、結社及び団結する権利などが低下している。報道の自由度も大きく下がっている。
尹の困難は約1年前に始まった。大統領に就任して3カ月後のことで、国連総会(U.N. General Assembly)で会議室を後にする際に側近に話しかけた内容がマイクで拾われてしまったのだ(卑語発言疑惑)。彼が韓国語で「議会で承認されないと、バイデンは大恥をかくことになる」と呟いたと報じられている。これは、間違いなく世界保健プログラムに資金を提供する法案に言及したものだろう。韓国のテレビ局MBCがこの件を最初に報じた。尹大統領の側近は火消しに躍起となり、尹大統領はバイデンの韻を踏む語の”nallimyeon(追い出すという意味の韓国語)”を使っただけで、例の発言はアメリカ議会ではなく韓国議会に向けられたものだと説明した。尹の支持者がMBCと関わったジャーナリストを刑事告訴した。MBCは報復措置だと非難した。その2ヵ月後、尹は、東南アジア諸国連合(ASEAN)やG20の会議に出席する際のメディア・プールからMBCを排除した。
それ以来、尹はMBSへの攻撃を強めている。5月には韓国警察が尹の卑語発言疑惑を報じたMBCの記者イム・ヒョンジュ(Im Hyeon-ju)の自宅を家宅捜索した(彼女は、韓国法務省長官の個人情報を流出させた疑いを持たれている)。9月初めには、検察が調査報道をするニュースサイトのニュース打破(Newstapa)とJTBC(韓国の衛星・ケーブルテレビ局)の本社、および複数のジャーナリストの自宅を捜索し、資料を押収した。明らかにされた理由は、尹に対する名誉毀損であった。2022年の始めに、ニュース打破は当時検察総長であった尹が都市開発不正疑惑を隠蔽したとする関係者の証言の録音が存在していると報じた。尹はこの報道をフェイク・ニュースとして非難し、テープは捏造された可能性があると主張した。ニュース打破とJTBCの報道を、自身の選挙活動に打撃を与えることを狙ったものだと非難した。韓国ジャーナリスト協会は、9月の家宅捜索を「軍事作戦(military operation)と称し、与党の法の支配(the rule of law)無視を非難した。
尹政権が常に各種報道機関を敵視しているわけではない。韓国では、新聞各社やテレビ局は政治色が強く、尹は自らが率いる保守政党の”国民の力(People Power Party)”に同調する報道機関には好意を示している。以前、保守寄りのテレビ朝鮮(TV Chosun)の免許更新審査で意図的に評点を下げたとして韓国放送通信委員会の韓相赫(Han Sang-hyuk:ハン・サンヒョク)委員長が起訴され、解雇された(韓は容疑を否認している)。韓の後任の人物は、韓国のインターネット上から “フェイクニュース “はすべて削除すると約束した。
尹は、評判管理(reputation management)にも余念がない。昨年、韓国文化省は、地方の漫画コンテストを糾弾した。10代の男性に賞が与えられたが、内容が尹を揶揄するものだったのだ。尹が列車として描かれていて、その列車は実業家で社交界の名士である彼の妻に操られていた。(大統領選挙中、彼女は尹の悪口を言った記者はすべて刑務所に入れると宣していた。彼女の母親は不動産取引の財務書類を偽造した罪で現在刑務所に収監されている)。先日、韓国政府は、尹が大統領府を移転させたソウル中心部の国防省敷地内に子供の庭(children’s garden)を開設したことを祝った。来場者には塗り絵が配られた。尹夫妻が多くの人々や数匹の子犬と楽しく過ごしている様子が描かれていた。
尹の自己陶酔と執拗に報道機関を攻撃する様に辟易としている者は決して少なくない。韓国で1980年代まで続いた軍事独裁政権を彷彿とさせる。当時、当局は各種活動を大々的に取り締まり、多くの記者、著述家、学生活動家、組合活動家、一般人が訴追された。警察による逮捕や拷問が組織的に大々的に行われた。しかし、その範囲は未だに明らかになっていない。尹政権のために働く検察は、その捜査権を使って、野党である共に民主党の政治家を逮捕をチラつかせて脅している。昨年の大統領選で尹の対抗馬であった李在明(Lee Jae-myung:イ・ジェミョン)への攻撃も抜かりなく行われている。李は選挙直後に贈収賄と汚職の容疑で捜査を受けた。しかし、すべての容疑を否認し、尹政権を「検察による独裁(dictatorship by prosecutors)」と非難し、24日間のハンガーストライキを行った。先日、韓国議会は李の不逮捕特権(sovereign immunity)を無効とすることを決議し、李の逮捕を可能にした(後に裁判所が逮捕令状を却下した)。また、検察は、急進的な労働組合の指導者層も追及している。今年初め、警察は数十の労働組合の事務所や個人宅を家宅捜索した。労働組合幹部が韓国の国家安全保障法(South Korea’s National Security Act)に違反し、建設会社に組合加入者の使用を強要しているとして告発した。
尹が大統領に就任した時、1970〜80年代にかけての民主化運動に参加した多くの韓国人は、国が検察官を選ぼうとしているとは信じられなかった。尹は、検察官のキャリアの初期に、韓国南部の大邱(Daegu)で重大な汚職事件を扱った。その後、出世してソウル検察庁に移り、2019年にはリベラル中道の共に民主党の文在寅(ムン・ジェイン:Moon Jae-in)大統領から検事総長に任命された。尹はすぐに、保守政党の国民の力(People Power Party)の利益になる案件を指揮し始めた。彼は文大統領の最大の敵対者となり、2022年の大統領選に出馬した(韓国大統領の任期は1期5年に制限されている)。選挙期間中、尹は女性に対する反感を利用し、住宅費の高騰や賃金上昇の停滞に対する国民の不満をフェミニズムのせいにした。彼は女性家族部(the Ministry of Gender Equality and Family)の廃止を公約に掲げた(現在も係争中)。また、閣僚の30%を女性にするという文前大統領が定めた男女枠(gender quota)を廃止した。労働組合に対する尹の攻撃は弱まっていない。また、労働省は、出生率が世界で最も低い韓国では労働力の確保のために移民の必要性が高まっているが、移民のための数十の支援センターを間もなく閉鎖する。
バイデンは、尹の独裁的な傾向に対する懸念を表明したことはない。クインシー研究所(the Quincy Institute)のジェイク・ワーナー(Jake Werner)は、「尹が当選した時、外交政策の専門家の多くは大喜びだった。」と言う。アメリカは、中国との競争に全神経を集中しており、極東アジアの民主主義国家の政権がいささか権威主義的傾向を示しても黙認している。ワーナーによれば、ホワイトハウスは、アメリカの外交政策の方向性を歓迎しているパートナーが独裁主義者であるという事実に何ら対処するつもりはないようである。インドのナレンドラ・モディ(Narendra Modi)は、ヒンドゥー至上主義者(Hindu-nationalist)による暴力を助長し、カシミール自治州の自治権を剥奪し、メディアを検閲している。にもかかわらず、ワシントンから歓迎されている。ベトナムでは、ヴォ・ヴァン・トゥオン(Vo Van Thuong)大統領が、報道機関や市民を弾圧している。しかし、先日、バイデン大統領が訪問したが、特に批判にさらされることも無かった。ハノイの警察当局は、その数日後に環境保護活動家を逮捕した。同じように尹も国を抑圧的な方向に導き、かつての独裁政権の暗い時代に押し戻そうとしている。それでも、アメリカは何の抗議もしない。♦
以上
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