4.オゼンピック開発は医学史上の重大な出来事として認識されるべき
私は、研修医になった時に、自分のキャリアを肥満と戦うことに捧げようと考えていた。私は、タバコ規制団体でインターンをした。禁煙を勧める公衆衛生キャンペーンについて学んで、それを肥満防止キャンペーンに応用したいと考えていた。私は肥満専門医の指導を受けたし、食品に関するマーケティングや食物依存症に関する講座も受講した。また、小児肥満症の原因も研究した。しかし、時間が経つにつれて、私は肥満と戦うことの困難さを認識し、絶望感さえ感じるようになった。喫煙による健康被害は、タバコとタバコを販売する企業に原因がある。それとは対照的に、肥満の原因は実に複雑である。食べ物、仕事、文化、教育、地域社会などさまざまな原因が密接に絡み合っている。何年も多くの患者を診てきたが、いつも感じていたのは、患者を痩せさせることは非常に難しいということである。病院で患者に向かって、適切な食事と適度の運動の重要性を説き、時には断続的断食( intermittent fasting )を勧める。まあ、そんなことをしても効果は限られている。それは、多くの研究で明らかになっている。診断をしていて空虚に感じることさえある。私がしていることは、患者に向かって結末が暗いものであると分かっている台本を読むようなものである。
最近、私は 2020 年後半、つまり、新型コロナの治療薬とワクチンが登場してパンデミックの収束に向けた動きが世界中で加速し始めた頃のことを思い出した。それまでの数カ月間は、多くの患者が苦しみ死亡しているのに、医師はほとんど何もできなかった。しかし、突然、たくさんのことができるようになった。ステロイド投与が患者を生き延びさせ、抗ウイルス薬は症状を軽減した。ほぼ同時に、強力なワクチンが複数登場した。2020 年が新型コロナとの戦いの転換点であったのと同様に、減量薬が開発された 2022 年は、肥満との戦いの重要な転換点になると推測される。2022 年は、人間の健康の最大の脅威である肥満が駆逐され始めた年と記憶されるべきである。減量薬の開発は、医学史上の偉大な進歩の 1 つとして記憶されるべきである。減量薬は、実際には食欲を減退させるだけであるし、元々は糖尿病患者のために開発されたものである。副作用に苦しむ者もいれば、購入費用の捻出に苦労する者も少なくない。しかし、何百万人もの肥満者にとって、オゼンピック登場後の世界は、それ以前の世界よりも格段に良くなったはずである。私は何年かぶりに、新しい台本を読んだ気分である。この台本の結末はとても明るいものである。 ♦
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