TikTok and the Fall of the Social-Media Giants
(TikTokの隆盛とソーシャルメディアの巨人の没落)
Facebook is trying to copy TikTok, but this strategy may well signal the end of these legacy platforms.
Facebook は TikTok の戦略を真似しようとしていますが、その戦略を取ることによって、自社が築き上げたプラットフォームの優位性を捨てることになります。
By Cal Newport July 28, 2022
1.Facebookの苦境
先月、TikTokのグローバルビジネスソリューション担当の取締役であるブレイク・シャンドレー(Blake Chandlee)は、Facebookなどの既存のソーシャルメディアネットワークとの競争激化を懸念しているか否かを尋ねられました。TikTokに移るまで、マーク・ザッカーバーグ(facebookの創業者)の会社で12年以上過ごしたチャンドレーは、全く懸念していないと答えました。彼は、言いました、「Facebookはソーシャルプラットフォームです。Facebookはソーシャルグラフ(複数の人間の相関関係や人間同士の結び付きを意味する概念。元は社会科学分野でのグラフ理論の用語。 SNSにおける人間関係のネットワークを可視化したものや、それらの情報をデータ化したものを指す)に基づいてすべてのアルゴリズムを構築しています。」と。つまり、彼は、Facebookはユーザーが時間をかけて丹念に作り上げた友人、家族、知人等を繋ぐネットワークであるということを指摘したかったわけで、TikTokとはまったく戦っている土俵が違うと言いたかったのです。そもそも、TikTokは、facebookと異なってソーシャルプラットフォームではなく、エンターテインメント・プラットフォームです。その差は途轍もなく大きいのです。とはいえ、やはりシャンドレーは、Facebookの動向を常に注視しています。昨年、Facebookは、Instagramのリール(Reels)というTikTokと同じようなショートビデオフォーマットを、Facebookでも利用可能にしました。そして、Facebookの上級幹部のトム・アリソン(アプリ担当)は、この春に送信した社内メールで、Facebookのプラットフォームのニュースフィードを改良して、リール動画にもっと注目を集める計画があると発表していました。最も魅力あるコンテンツを表示するようにアルゴリズムを改良する計画のようです。その改良によって、ユーザーが友達になっているかフォローしているアカウントとは全く無関係のコンテンツが表示されるようになるそうです。従来、Facebookは、知り合いの間で広まっていくもので、テキストや画像を重視するものでした。しかし、それが全く別のものに変わってしまうのです。TikTokのような純粋に注目を集めることに主眼が置かれることとなるようです。純粋な気晴らしのためのツールに堕するのです。TikTokの驚異的な人気を考慮すれば、こうした方針の変更は驚くべきことではないのかもしれません。しかし、少し近視眼的なのではないでしょうか。Facebookのようなプラットフォームは、強力な基盤を築いた礎であるソーシャルグラフの維持を怠れば、崩壊してしまう可能性さえあります。
Facebookの現在の苦境を理解するためには、当初の成功について十分に理解することが必要です。2004 年の春に私の大学の友人の多くが TheFacebook.com (当時はそう呼ばれていた)にサインアップした理由は、知り合いの多くが既にサインアップしていたことにありました(Facebookの初期に最も普及に貢献した人気機能の1つは、クラスメートの交際ステータス(relationship status)をチェックできることでした)。Facebookは2006年に一般にも開放されたのですが、その年の年末には既に1,200万人のアクティブ ユーザーを集めていました。その時点で、既にFAcebookはネットワーク効果(製品やサービスの利用者が増えるほど、その製品やサービスのインフラとしての価値が高まること)による優位性を築いていました。ですので、競合企業が現れにくい状況でした。その2年後には、Facebookのアクティブユーザーは1億人に達しました。それによって、事実上、競合企業の出現可能性はほぼ無くなりました。知り合いが既にみんなFacebookを利用しているのに、別の競合のサービスを使う必要があるのでしょうか?全くありません。知り合いとの交流を維持したいのであれば、選択肢はFacebookの一択しかありませんでした。
ソーシャルグラフを活用して膨大なアクティブユーザーの基盤を構築するということに次に成功したのは、Twitter社でした。Twitterは、2006年に登場したショートメッセージサービスですが、それが広く普及するようになったのは2009年のことでした。その年は、アシュトン・カッチャーがオプラ・ウィンフリー・ショー(The Oprah Winfrey Show)に出演してTwitterについて語った年です。また、米国務省の高官が同社にメールを送り、イランで予定されている民主化運動の妨げにならないよう、予定していたサーバーメンテナンスを延期するよう求めたというニュースが流れたのもこの年でした。しかし、その年、Twitter社にはそれらよりももっと重要な出来事がありました。それは、リツイートボタンを導入したことでした。元々、リツイートボタンの導入目的は、興味深いツイートのテキストを手作業で切り貼り(cut and paste)する作業を簡略化することでした。それが、結果的にTwitterを一変させることになったのです。リツイートボタンが実装されたことで、フォロワー全員にメッセージを転送するのに必要だった煩わしい作業が無くなり、単一のツイートが短時間で多くの人たちに拡散されるようになり、それを目にする者の数はTwitterネットワーク上で指数関数的に増えました。単一のツイートが、あっという間に爆発的に拡散されることが増え、アクティブユーザー数も急激に増えました。リツイートボタンは、Twitter上の最も魅力的なコンテンツを、あっという間に拡散させるための非常に効果的な方法だったのです。また、単一のツイートがあっという間に爆発的に拡散される可能性が高まったことで、より影響力のある人々がこのプラットフォームに引き寄せられました。それが、Twitterの価値をさらに高めることになりました。
Facebookと同様ですが、Twitterのソーシャルグラフが大きくなればなるほど、そのソーシャルネットワークサービスの魅力はより高まりました。一方、パーラー(Parler)やギャブ(Gab)といったショートメッセージのサービスで王座を目指していた企業は、そのネットワークの規模と影響力のあるユーザーの数が不十分であったため、注目を集めるための競争に勝つことができず、苦戦を強いられていました。2011年には、Facebookに続いてTwitterもユーザー数が1億人を突破しました。Facebookは、Twtterの急成長に注目し脅威を感じていたのか、さまざまな微調整に着手しました。2009年から2011年にかけて、ニュースフィードを時系列で並べて構成するのではなく、人気のある投稿に重点を置いた構成に変わっていきました。そして2012年には、Facebookのモバイルアプリにシェアボタン(外部のWebページをリストへ追加し、追加したことをFacebook内の友人・知人に通知することができる)が追加され、Twitterのように第三者のコンテンツがFacebookのネットワークを通じて指数関数的に拡散されることを可能にしました。
FacebookもTwitterも、他の企業が追随できないような大規模なソーシャルグラフを活用して、魅力的なコンテンツを途切れることなく生成するというビジネスモデルを確立しています。そのビジネスモデルによって、両社は競合企業に対して強固な障壁を築くことができましたし、驚くほど儲けることができました。そのおかげで、先月、Facebook社の親会社であるメタ社(Meta)の株式時価総額は5,620億ドルに達しました。世界で7番目に価値のある企業になったのです。また、Twitter社は、Facebook社に比べると規模は大きくないのですが、より専門的なソーシャルメディアネットワークを提供し、イーロン・マスクにとっては440億ドルもの価値があるように見えたのです(なお、マスクは気が変わって、現在では、買収する気が無いようです)。しかし、この種の擬似独占は永遠に続くものではないのです。過去10年間、Facebook等のソーシャル・メディアの巨人は我が世の春を謳歌してきました。しかし、TikTokの突然の台頭によって、そうした状況が終焉を迎える可能性もあります。