2.いずれ、TikTokもFacebookも淘汰されるが、新たな企業が登場し魅力的なサービスを提供する
通常、TikTokを起動すると、スマートフォンの画面いっぱいに1分弱の短い動画が表示されます。別の動画を見たくなったら、画面を上にスワイプすると、リコメンデーションアルゴリズムによって選ばれた新しい動画が画面に表示される仕組みになっています。表示される動画は、個人ごとに異なります。TikTokを使っているユーザーのスマホ画面を肩越しに覗くと、大抵のユーザーは一心不乱にスマホ画面を上にスワイプし続けていることが多いようです。表示された動画のほとんどは、ほんの一瞬くらいしか視聴されません。その一瞬で、その動画の魅力が評価されます。ほとんどの場合、すぐに画面が上方にスワイプされ、また次の動画が画面に流れてきます。
TikTokのユーザーにとって、何が魅力的なのでしょうか?TIkTokは、自分の知り合いが誰も使っていなくても気軽に始められます。Twitterとは異なり、TikTokのコンテンツとしての魅力を高めるために、大勢の有名人やインフルエンサーが利用している必要はありません。TikTokがショートビデオの形式を採用していることで、より原始的なレベルでユーザーの注意を引きつけます。TikTokがユーザーにとって魅力的であるのは、視覚的な目新しさ、音楽と動画を巧みに連動させること、直接的な感情表現等に理由があります。Facebookとは異なり、あなたの友人が誰一人としてTikTokを使っていなくても、あなたはTikTokの魅力をを実感することが可能です。TikTokにも、ソーシャル機能が搭載されているわけですが、それはTikTokの主たるアピール点ではありません。また、TikTok は、ユーザーが友人やフォロワーと手動でコンテンツを共有して魅力的なサービスを表示することに依存していません。そうしたことは、恐ろしいほど優れたレコメンデーション・アルゴリズムに委ねられていて、勝手に行われるのです。ウォールストリート誌(Wall Street Journal)が2021年に行った調査によれば、記者が100以上のTikTokアカウントを作成して、そのレコメンデーション・アルゴリズムの基本的な機能の分析を試みました。その結果、わずか40分の分析で分かったのは、TikTokのアプリはユーザーの興味を驚くほど正確に理解しているということでした。
このようにソーシャルグラフに依存しないというビジネスモデルを採用することによって、TikTokはFacebookやTwitterなどの先発のソーシャルメディアプラットフォームが築いていた参入障壁を回避することができました。TikTokのユーザーは、社会的な繋がりが多かろうが少なかろうが、そもそもそんなことは気にする必要もなく、そのサービスを使って楽しむことができます。それで、TikTok は、基礎となるネットワークを苦労して構築する必要もなく、ユーザーを比較的容易に獲得することができたのです。TikTokは、他のプラットフォームとのユーザー獲得競争を信じられないほど巧みに戦っています。TikTokの月間アクティブユーザー数は10億人と推定されています。その数字を、驚くべきほどの短期間で達成しています。また、一部の報道によると、平均セッション時間は10.85分を誇っており、これが本当なら他の主要ソーシャルメディアアプリのそれをはるかに上回る長さになります。一方、Facebookの親会社であるメタ(Meta)社は、先日、ユーザー数が頭打ちになっていると発表しました。その日1日でMetaの株式時価総額は2,300億ドル以上も下落しました。市場アナリストの多くが、Facebookのユーザー数の停滞の主因はTikTokにあると指摘していました。
TikTok等の新興企業の台頭によって、Facebookなどの強固な基盤を誇っていたソーシャルメディア企業も安閑とはしていられない状況に追い込まれています。おそらく、もし、自社プラットフォームからTikTokへのユーザーの流出を食い止める兆候を示せなければ、投資家からの信頼は失われ、株式時価総額は下がり続けるに違いないでしょう。最近、Facebookが、ショートビデオや、友人グループからの情報に頼らないでコンテンツをレコメンドするアルゴリズムを強化していますが、そうした動きは、投資家の信頼を繋ぎ止めるためのものです。しかし、誰もあまり意識していないと思いますが、それは、これまでMeta社に多大な貢献をしてきた繋がり重視のモデルを捨てる方向に舵をきったことを意味します。それは、長期的に見たらリスクが非常に高いと指摘されています。FacebookやTwitter のような先発のプラットフォーム企業が築いたのと同等の規模や影響力を持つソーシャルグラフを、新たな競合企業が構築することは、ほぼ100%無理でしょう。そのように既に築き上げたプラットフォームに依存して、そこから得られる収益を最大化することにのみ専念していれば、FacebookやTwitterは、ソーシャルネットワークメディアの中での地位を守れるでしょうし、レコメンド広告等でほぼ独占的に利益を稼ぎ出し続けることができるでしょう。そうではなく、ソーシャルグラフの基盤を活かすのを止め、その瞬間瞬間のユーザーの興味を分析してアルゴリズムを使って最適な対応をする方向に舵をきった場合、多くの競合企業と競合することとなるでしょう。スマホの時間つぶしの為のあらゆるアプリとも競合することになります。スマホで強力なアプリはTikTok だけではありません。Z世代に大人気のBeReal(フィルタが使えない写真共有アプリ)もあります。人気のビデオストリーマー、ポッドキャスト、ビデオゲーム、自己啓発アプリも言うまでもなく競合します。私のような少しだけ年寄りの世代に使っている者が多いワードル(Wordle:Webでプレイできる単語当てゲーム)も競合します。
そうした状況ですので、Facebookのようなソーシャルメディアの巨人が、長年保持し続けていた支配力を間もなく失う可能性がわずかながら出てきました。FacebookやTwitter等は、ソーシャルグラフから得られる恩恵を捨てて、エンゲージ率(投稿に反応を示したユーザーの割合)を上げることに主眼を置く新たなビジネスモデルを追い求め続けるでしょう。そうすると、結局は、新たな競争に屈することになるのではないでしょうか。もちろん、TikTokも同じように激しい競争環境に晒されるわけで、いずれは衰退していくでしょう。TikTokのアプリの売りは浅薄さや気軽さであり、それによって爆発的に普及したわけですが、長期的な視点で見ると、それが仇となる可能性もあります。TikTokは、長続きする人気のツールというよりも、一時的に流行った一発屋みたいな存在になってしまう可能性が高いと思われます。こうして企業がいくつも没落する際には、人に時間を消費させる為の新たなツールを携えた新規企業がさっそうと登場し台頭しがちです。同時に、発信力を高めたり、知人友人との交流を深めるための革新的な新しいアプリや手法も生み出されることでしょう。
FacebookやTwitterが衰退するかもしれないわけですが、悲観的になる必要はありません。私は、そうした事態をむしろ楽観的に捉えています。ソーシャルメディア・ネットワーク・メディアでは、これまではFacebookやTwitterが圧倒的な地位を占めていました。そのことは、ITテクノロジー全体から見たら不健全でした。インターネットは本来、斬新で、活気があり、エキサイティングなものであるべきです。そこでは、独自のものが次々と生み出されるべきですし、同時に、人々の興味を引くものはさらに注目を集めるべきです。そのような状態が担保されれば、革新的なアイデアが生み出され、それが他のアイデアと繋がることで、さらに革新的になっていくでしょう。しかし、長年にわたってインターネット上では、それが阻害されてきたのです。少数のソーシャルメディア・ネットワーク・プラットフォームを提供している企業が支配的な力を持っていたからです。その支配力が弱まれば、事態は好転するでしょう。いずれTikTokは限定的な存在になってしまうのかもしれません。その時に、TikTokの残した功績は何であったかを振り返ることになるかもしれません。最大の功績は、ほんの一時的なものでしたが膨大なユーザー数を獲得し世界を席巻したことだと言う者もいるでしょう。しかし、私は最も大きな功績は別にあると思います。それは、Facebookなどのソーシャルメディアの巨人に、短期間で膨大なユーザー数を獲得することで脅威を与えて、ビジネスモデルを変更させたことです。そのことによって、支配的な勢力が一掃され、インターネットはもっと解放されたものになるかもしれません。♦
以上