How Trump’s Iran War Could Torch the Global Economy
トランプのイラン戦争が世界経済に及ぼす影響
A conflict that was supposed to be brief has sent oil prices soaring and raised the risk of a worldwide recession.
短期間で終わるはずだった紛争が、原油価格の高騰を招き、世界的な景気後退のリスクを高めた。
By John Cassidy March 23, 2026
サイモン・フラワーズ( Simon Flowers )は、40 年以上にわたりエネルギー業界で働き、さまざまな分析を行ってきた。1980 年代初頭にエジンバラ大学( Edinburgh University )で地質学を学んだ後、東地中海で 2 年間試掘井の作業に従事し、その後、当時エネルギー関連のリサーチに定評のあった証券会社ウッド・マッケンジー( Wood Mackenzie ) に入社した。彼が働き始めたのは 1970 年代の 2 度の大きな石油ショックを経た後のことである。原油やガソリンの価格は下落していた。それ以来、彼は何度となく大きな価格変動を目の当たりにしてきた。現在、世界的なエネルギーコンサルタント会社へと発展したウッド・マッケンジーの会長兼主席アナリストであるフラワーズは、劇的な変化や市場の変動には慣れている。供給過剰による価格暴落、供給を混乱させた 2 度の湾岸戦争、2008 年の旺盛な需要と生産停滞によって引き起こされた価格高騰、ロシアがウクライナに侵攻した後の 2022 年の価格高騰などを経験してきた。しかし、先週、イランがミサイルでカタールの巨大なラス・ラファン( Ras Laffan )液化天然ガス( LNG )生産施設を攻撃した時には、彼でさえ驚いた。この施設では、地中から湧き出るガスを、船で長距離輸送できる液体に変換している。イランのガス田に対するイスラエルの攻撃への報復として行われたイランの攻撃の翌日、今もエディンバラに住んでいるフラワーズに私はオンライン通話で話を聞いた。「これで事態は全く別のレベルにまで達した」と彼は語る。彼はモニターを見ながら指摘したのだが、発電所や暖房システムで広く使われている燃料の LNG の価格が、たった 1 日で 30% も急騰した。
世界最大の LNG 輸出施設であるラス・ラファンを爆撃したことに加え、イラン政府はサウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦の他のエネルギーインフラ施設も攻撃した。このエスカレーションの後、石油市場で世界的な指標となっている北海産ブレント原油価格は 1 バレル 120 ドル近くまで急騰した(紛争が始まる前は 70 ドル以下) 。フラワーズは「ここ数日見られたような攻撃が続けば、原油価格は 1 バレルあたり 150 ドル、場合によっては 200 ドルまで跳ね上がるだろう」と述べる。
私がフラワーズと話した日、ドナルド・トランプ( Donald Trump )はイスラエルに対し、イランのガス田への攻撃を繰り返さないよう伝えたと述べた。ベンヤミン・ネタニヤフ( Benjamin Netanyahu )も攻撃を控えると述べた。しかし、報復攻撃( tit-for-tat attacks )の応酬は、この戦争とその経済的影響がトランプの手に負えなくなっていることを示すもう 1 つの兆候であった。トランプが予測できなかったのはイランの動きである。イランは、原油と LNG の重要な航路であるホルムズ海峡を封鎖し、他の湾岸諸国のエネルギーインフラも標的にした。こんなことも予測できなかったのは無様なことである。さらには、トランプと大統領顧問団は、世界のエネルギー供給網における中東の永続的な影響力を軽視していた。また、中東の供給網を混乱させることがアメリカ経済に甚大な損害を与えることを理解できていなかった。ホワイトハウスが昨年 11 月に発表した「国家安全保障戦略( National Security Strategy )」のドキュメントには、「近年のエネルギー供給は大きく多様化し、アメリカは再びエネルギー純輸出国となった」との記述がある。そして、「アメリカのエネルギー生産が増加するにつれて、アメリカが中東に焦点を当ててきた歴史的な理由は薄れていく」とも記されている。しかし、ガソリン価格がわずか数週間で 3 分の 1 近くも高騰したわけで、ほとんどのアメリカ国民は以前と同じように中東情勢に翻弄されている。そして、原油と天然ガスをほぼ全面的に輸入に依存している多くのヨーロッパやアジアの同盟国が直面する経済的課題は、さらに深刻である。
トランプ政権の国家安全保障戦略は重要なことを見落としている。原油市場はグローバル市場であり、アメリカ市場単独で価格形成されるわけでないということである。シェールガス産出の爆発的な増加により、アメリカはサウジアラビアをも凌ぐ世界最大の産油国となった。それでもアメリカの原油価格は依然として世界の金融市場で決定される。そこで決まる原油価格は世界規模の供給と需要のバランスによって調整される。必然的に、この調整プロセスは中東の動向を反映する。世界の石油埋蔵量の約 50% 、天然ガス埋蔵量の約 40% が中東に集中しているからである。長期的には、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの台頭により、湾岸諸国の存在感は大幅に低下する可能性がある。しかし、現時点では世界のエネルギー需要の約 80% を炭化水素が賄っているため、そのような事態になるのはまだまだ先のことである。
1970 年代のオイルショックから半世紀が経っているのに、未だにエネルギー市場は湾岸諸国に大きく依存している。フラワーズに何故なのか聞いたのだが、彼の答えは示唆に富んでいる。「石油需要が増え続けていることと、どこが供給元であるかが問題の核心である」と彼は述べる。多くのヨーロッパやアジアの国々は石油を生産しておらず、輸入以外の選択肢はない。石油輸入国全体で 1 日あたり約 4,000 万バレルを購入している。そのうち少なくとも 1,500 万バレルは湾岸諸国産である。イランがアメリカとイスラエルの攻撃直後に海峡を封鎖した時のように、この供給の大部分が途絶えれば、価格に大きな影響が出るのは必定で、「 1,500 万バレルもの供給が一夜にして途絶えれば、大きな影響が出るのは当然である」とフラワーズは指摘する。
今回のイラン戦争が始まって以来、石油サプライチェーンへの影響は段階的に現れてきた、とフラワーズは説明する。ホルムズ海峡が閉鎖されると、保険会社はそこを通る貨物輸送の保険を引き受けることを拒否した。「タンカーがそこを通過できなくなり、サプライチェーン全体が混乱した」と彼は述べる。原油満載のタンカーが数百隻も海上で立ち往生したため、新たに原油を積み込むための空のタンカーが不足した。イランを除く主要産油国 4 カ国(サウジアラビア、イラク、クウェート、UAE )は、しばらくの間、油井の操業を続け、原油を陸上の貯蔵施設に溜め込んでいた。しかし、先週初めまでに、これらの施設のほとんどが満杯になった。湾岸の産油国の一部では油井での汲み上げ作業を停止せざるを得なくなり、油井の下にある原油を封じ込めた。ウッド・マッケンジーの推定によると、4 カ国合計で、現在 1 日あたり約 900 万バレルの石油が封じ込められており、これは戦争開始前の総生産量の 8% に相当する。
今回の原油価格の急騰は前例のない規模である。1970 年代のオイルショック時よりも価格上昇の割合としては大きい。しかし、少なくとも先週までは、フラワーズらが戦争開始直後に推定した通りの展開だった。しかし、誰も予測していなかったのだが、攻撃がエネルギーインフラへの大規模攻撃にまで拡大してしまった。国営企業カタール・エナジー( Qatar Energy )の最高経営責任者は、イランのミサイル攻撃により同社の LNG 施設の約 6 分の 1 が機能停止したことを明らかにし、修復には 5 年以上かかると説明した。ほぼ同時期に、アメリカ国防総省は、アメリカ空軍の複数の戦闘機とヘリコプターがホルムズ海峡上空を飛行していることを明らかにした。それらの目的はイランの高速艇を爆撃し、攻撃ドローンを撃墜することである。戦争開始後 2 週間は、この戦争はごく短期間で終わり、終戦後すぐに原油生産が再開されるだろうと推測することができた」とフラワーズは述べる。「しかし、その可能性は徐々に低くなっている」。
戦争は拡大しつつあるわけだが、そんな中で多くのアナリストが、戦争による損害の予想額を引き上げている。2008 年には、旺盛な需要と停滞した生産という状況下で、ブレント原油価格は 1 バレルあたり 140 ドルまで上昇した。先週、ゴールドマン・サックス( Goldman Sachs )は、長期にわたって戦争の影響が出れば、原油価格は史上最高値を超える可能性が高いと主張した。
多くのアメリカ人にとって、原油価格高騰の影響で一番大きいのはガソリン価格の上昇である。全米平均ガソリン価格は現在 4 ドル近くまで上昇しており、イラン戦争が始まる前の 3 ドル未満と比べると大幅に高くなっている。原油価格の上昇が続けば、ガソリン価格は 5 ドルに達する可能性がある。厄介なのは、時間の経過とともに原油価格の上昇が、航空運賃、プラスチック、肥料など、他の多くのものの価格も上昇させることである。オイルショックが投資家を不安にさせる可能性もあり、ダウ平均株価は 4 週連続で下落している。近年、資産価格の急上昇は消費支出を下支えする役割を果たしてきた。景気見通しを暗くする兆候が多いわけだが、多くのエコノミストがアメリカ経済は今年中に景気後退に陥ることはないと予測している。例えば、ゴールドマン・サックスは景気後退が発生する確率をわずか 25% と見積もっている。しかし、これは単なる推測に過ぎない。FRB のジェローム・パウエル( Jerome Powell )議長が先週述べたとおり、「原油価格の急騰はまだ始まったばかりであり、これまでのところエネルギーショックの規模と期間は小さい。非常に多くの不確実性が生み出されているため、今後、何が起こるかは全くわからない」。
良いニュースもある。アメリカは依然として化石燃料に依存しているものの、アメリカ経済は 1970 年代や 80 年代初頭に比べてエネルギー集約型産業の比率は非常に低い。当時、 OPEC の原油供給制限や輸出価格の大幅な引き上げが原因のオイルショックの影響で深刻な不況が 2 度あった。現在のアメリカが生み出す GDP 1 ドルあたり消費エネルギーは、1980 年の約半分である。2022 年にロシアがウクライナに侵攻した直後には原油価格が急騰したが、それでもアメリカ経済は 1 年間緩やかな拡大を維持できた。しかしながら楽観視できるわけではない。むしろ悲観的にならざるを得ないのかもしれない。現在は雇用の伸びが 4 年前よりはるかに弱い。エネルギー業界のベテランアナリストの多くが指摘しているのだが、1990 年と 2008 年に原油価格急騰後に不況が続いたという事実を思い出さないといけない。フラワーズは、今回の原油価格急騰について「大きな懸念材料である」と述べている。「もし今年、ブレント原油が 1 バレル 100 ドルで推移すれば、世界経済成長率は 2% を下回る可能性がある。アメリカや欧州を含む主要な西側諸国が下半期に景気後退局面入りする可能性も十分にある」。
楽観的なシナリオが無いわけではない。トランプが一方的に勝利を宣言しエネルギーインフラへの被害が拡大する前に戦争を終結させる、原油価格が急速に下落する、それで長期的な経済的損害を防ぐことができるというものである。ちなみに、短期的な原油価格高騰は、長期的な価格高騰よりもはるかに被害が少ないことが明らかになっている。壊れたロジスティクスが正常になるには時間がかかるのではないかという点は気になるところである。フラワーズの見積もりによれば、湾岸の産油国が停止した生産の大部分を回復するには 2 〜3 カ月必要である。しかし、ロジスティクスが唯一の課題ではないと彼は指摘する。「トランプ政権は好きな条件で勝利宣言を出すことができるが、保険会社は平和が真に永続的なものであるという保証を求めるだろう」。この戦争の当事者であるアメリカ、イスラエル、イランの 3 者すべてから満足のいく保証が得られなければ、どの保険会社も海峡を通過する船舶や貨物の保険を引き受けることを拒否するだろう。それが原油供給の正常な状態、あるいはそれに近い状態への回復を遅らせる可能性がある。
トランプが何をやらかすかは誰にも予測できない。金曜日( 3 月 20 日 )には、戦争を「終結させる( winding down )」ことを検討していると語った。翌日( 3 月 21 日)には、イランが 48 時間以内にホルムズ海峡を開放しなければ、アメリカはイランの発電施設を「攻撃し、破壊する( hit and obliterate )」と語った。フラワーズは、週末を迎える頃にはどうしても楽観的になれなかった。イラン戦争による原油価格高騰を、自身が経験した過去のオイルショックと比較したからである。彼は私へのメールに書いた。「エネルギーの観点から見ると、最大の危機へと向かっている可能性が高い。現時点ではまさしく最悪の状況に向かっている。それは戦争を止めることが困難であることが判明することである。そうなるとほぼ全ての国で長期間にわたって石油、原油製品(肥料原料を含む)、LNG の信頼できる供給源を欠くことになるからである」。もしそれが現実のものとなれば、世界経済に関するあらゆる予測は覆されるだろう。♦
以上
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