How Trump Is Debasing the Dollar and Eroding U.S. Economic Dominance
トランプはいかにしてドルの価値を下げ、アメリカの経済優位性を損なっているのか
The President’s coercive policies, including his latest threats against Greenland, are prompting some foreign investors to think twice about parking their money with Uncle Sam.
グリーンランドに対する脅しを含む大統領の強圧的な政策により、一部の外国人投資家はアメリカに資金を預けることを躊躇するようになっている。
By John Cassidy February 2, 2026
ドナルド・トランプとその取り巻きがグリーンランド問題でヨーロッパの同盟国を脅迫して屈服させようとしてから数週間経過した。その影響が今も残っている。「まさに決裂の瞬間を目撃しているという感覚があった」とスイスのダボス世界経済フォーラム( the annual World Economic Forum )に出席していたエスワール・プラサド( Eswar Prasad )は私に語った。プラサドはコーネル大学教授でブルッキングス研究所にも籍を置くエコノミストである。「ヨーロッパの人々が明確に認識した唯一のことは、軍事安全保障( military security )、経済安全保障( economic security )、その他すべての主要問題においてアメリカはもはや信頼できないということである」。カナダのマーク・カーニー( Mark Carney )首相は「中堅国( middole powers )」は自衛のために結集する必要があると警鐘を鳴らした。世界各国の政府がそのことを熟考しなければならない状況である。地政学的意味合いを理解しようと各国は躍起になっている。物事がより速く動く金融市場では、既に劇的な変化が起きている。アメリカの経済的リーダーシップに疑義が生じ始めている。ドルの長年にわたる支配的な基軸通貨としての地位も同様である。
欧州諸国がグリーンランドの領有権を主張したとしてアメリカを批判した。そうした国々に関税を課すとトランプが宣言した後、株式市場は急落した。ドルも下落した。しかし、ダボス到着直後に、彼は突如として関税の脅迫を取り下げた。どこにも根拠が無いように思えるのだが、彼は唐突に北極圏の領土をめぐって「長期的合意( long-term deal )」がもたらされたと宣言した。即時に株価は下落分の大部分を挽回した。一部の観測筋が指摘しているのだが、今回のトランプの方針転換は、昨年 4 月の騒動を彷彿とさせるものである。当時、トランプは約 100 カ国に高率関税を課すと発表した。だが、多くの投資家の反発を受けて 1 週間後に関税を大幅に引き下げた。トランプがどのような政治的混乱を引き起こしても、もはやウォール街は楽観視するようになりつつある。というのは、彼の極端な衝動は、市場によって抑制されるだろうという見方が広がっているからである。フィナンシャル・タイムズ( Financial Times columnist )のコラムニスト、ロバート・アームストロング( Robert Armstrong が編み出した TACO 理論のとおりである。そう、「トランプはいつも怖じ気づいて退く( Trump Always Chickens Out )」のである。
AI 熱にすっかりとりつかれた株式市場はグリーンランド騒動を素早く乗り越えた。一方、ドルは下落を続けている。先週木曜日( 1 月 26 日)までの下落幅は約 3% である。為替に詳しくない者には大した動きには思えないかもしれない。しかし、ドル相場は流動性が高く、常に何百万もの取引が行われているため、突然の下落は稀である。ダボス会議期間中は、GDP 成長率、金利、その他為替トレーダーに影響を与える大きな経済関連のニュースはなかった。「唯一のニュースは、アメリカ大統領が NATO 同盟国に対して軍事的脅威をひけらかし、アメリカへの大口債権国でもある他の同盟国にも追加の関税を課すと脅したことである」と、外交問題評議会( the Council on Foreign Relations )の国際経済担当シニアフェローのブラッド・セッツァー( Brad Setser )は私に語った。「気まぐれな大統領が、この事態を引き起こす上で重要な役割を果たした。つまり、彼が発火点である」。
ドルの急落は、セッツァーも指摘しているのだが、それ自体では特に何かを壊すほど大きな影響は及ぼさない。金曜日( 1 月 27 日)にドルは直近の下落分の大部分を取り戻した。トランプが FRB のジェローム・パウエル( Jerome Powell )議長の後任に共和党寄りの経験豊富な銀行家ケビン・ウォーシュ( Kevin Warsh )を指名したことが大きい。市場が即時の反応を示したわけだが、ウォーシュがインフレタカ派( inflation hawk )であり、FRB における彼の影響力がドルを高くする可能性があるという認識が反映している。しかし、今後ドルがどうなるかは現時点では見通せない。議長選のオーディションで、ウォーシュはトランプに低金利を支持すると述べている。それは、大統領がまさに望んだことである。もしマーケットがウォーシュをトランプのイエスマンと見なすようになれば、ドルへのネガティブな影響が大きくなるだろう。それ以外にも大きな懸念がある。それは、海外の投資家が連邦政府の経済運営に対する信頼を失うことである。それによってさらにドル安が加速される懸念がある。プラサドが私に語ったのだが、トランプは就任後 12 カ月でアメリカの経済力の源泉である経済基盤をことごとく毀損し続けてきた。NATO を弱体化し、強圧的な関税を利用しているだけではない。法の支配、抑制と均衡のシステム、FRB の独立性なども蔑ろにしようとしている。
この数十年間、ドルの支配的通貨の地位が揺らいだことは一度も無かった。海外の多くの金融機関や中央銀行は、アメリカの金融資産に多額のポジションを築いてきた。理由は、高い収益を生み出すからである。また、不安定な世界における安全資産として広く認識されているからでもある。現在、欧州諸国はアメリカへの最大の投資家である。推定で 8 兆ドル相当の米国株と米国債を保有している。こうした投資は、巨額のアメリカの貿易赤字と財政赤字を埋め合わせるのに役立っている。1960 年代にフランスの財務大臣(後に大統領)であったヴァレリー・ジスカール・デスタン( Valéry Giscard d’Estaing )は、アメリカ政府には低金利で多額の外貨を吸い寄せることができる「法外な特権( exorbitant privilege )」があると指摘した。それゆえ連邦政府が財政能力を超えた生活を送ることが可能であると揶揄した。この特権は今もなお続いている。しかし、トランプがグリーンランド侵攻の脅威をちらつかせていた時、ドイツ最大の銀行であるドイツ銀行( Deutsche Bank )の外国為替調査責任を務めるジョージ・サラベロス( George Saravelos )が顧客向け報告書の中で示唆しているのだが、トランプの脅迫は欧州の投資家がアメリカの金融資産を蓄積し、アメリカの双子の赤字の補填に協力する意欲を低下させる可能性がある。「西側諸国の同盟の地経学的安定が存亡の危機に瀕している状況下で、欧州諸国がこの役割を担うことに積極的であり続けるかは不明である」とサラベロスは記している。
30 兆ドル以上の債務を抱え、昨年は 1 兆 8,000 億ドル近くの財政赤字を計上した国にとって、海外投資筋にアメリカの資産の追加購入をためらう兆候が見られるとしたら、決して軽視できない問題である。ダボス会議にも出席していたスコット・ベセント( Scott Bessent )財務長官が某紙に語ったのだが、アメリカ国内でも大規模な事業を展開するドイツ銀行のクリスティアン・ゼービング( Christian Sewing ) CEO から直接の電話があり、サラベロスの報告書を支持しない旨を伝えられたという。しかし、サラベロス自身は自身の悲観的な分析を否定していない。それなりに自信があるのだろう。結局のところ、ドルの優位性はアメリカの経済的覇権とアメリカ政府への信頼に負うところが大きい。トランプはその 2 つを傷つけることに余念がない。
現時点では、誰がドルを売り浴びせたのかは完全には明らかになっていない。「この値動きは、多くの欧州の機関がアメリカの金融資産の積み増しを継続するか否かを真剣に検討していることを示唆するものである」とセッツァーは述べた。「また、ヘッジファンドや他の投機筋など、いわゆるファストマネー( fast money )がこの傾向を予測し、先行して取引を行っている状況とも一致している」。為替市場でドル安に賭けることは「ティベースメント・トレード( debasement trade )」として知られている。それは、法定通貨(ドル等)の価値が将来的に下落することを予想し、そのヘッジとして金やビットコインや株式などの実物資産や代替資産に資金を移す投資戦略である。先週初めまでにドルは大幅に下落した。某メディアの政治部記者がトランプに「ドル安が行き過ぎではないか」と尋ねた。「全く問題無い。素晴らしい状況である」とトランプは答えた。「ドルは至って絶好調」。この発言がさらなるドル売りを促し、ドルは 4 年ぶりの安値をつけた。ベセントは上司の発言を釈明せざるを得なくなった。翌日、彼は CNBC に出演し、「我々は強いドル政策をとっている」と強調した。トランプ政権の減税策と関税は、時間の経過とともにアメリカへの資金流入を増加させ、ドル高をさらに加速させると主張する。
たしかにドル高が加速する事態になる可能性は皆無ではない。2007 〜09 年の世界金融危機( the global financial crisis )以降、アメリカ経済は他の主要先進国よりも速いペースで成長している。海外投資家にとってアメリカ経済の魅力はますます高まっている。今後数カ月、あるいは数年の内に、AI 推進派が主張する通り GDP の成長と生産性の向上がもたらされるならば、アメリカ経済の現在の健全な成長が持続する、もしくは加速する可能性がある。ベセントが主張するようにドルが反発する可能性が全く無いわけではない。
しかし、逆に下降スパイラルに陥る可能性もある。ベセントの釈明とは相容れないわけだが、実際にはトランプ政権はドル安を歓迎しているところもある。さらなるドル下落を政権が望む理由はいくらでもある。ドル安は、アメリカの輸出品の海外競争力を高める。キャタピラー( Caterpillar )製の掘削機や GE バルノバ( G.E. Vernova )製のタービンなどの輸出が増える。輸出業者の業績が良くなる。貿易赤字の削減につながる。その反面、ロンドンやパリを訪れるアメリカ人はホテルや食事代が高くなることに気付き、国内では既に関税の影響を受けている輸入品価格がさらに上昇する。トランプは明らかにこの筋書きが好ましいと考えているようである。為替に関する発言の中で、彼は中国や日本と必死に戦ってきたと主張したことがある。両国が常に自国通貨を不当に切り下げて競争上の優位性を得ていたと指摘している。
大統領を支持する一部のエコノミストは、強い通貨を志向する論理に公然と疑問を呈している。「経済不均衡の根源は、ドルの持続的な過大評価にある」と、昨年 9 月までホワイトハウス経済諮問委員会( the White House’s Council of Economic Advisers )委員長を務めていたスティーブン・ミラン( Stephen Miran )は、2024 年の大統領選挙直後に発表された政策概要に記した。トランプの指名を受け、現在は FRB 理事を務めるミランは、この政策概要の中で、貿易赤字を削減し、アメリカの債務問題を解決するためのいくつかの選択肢についても論じている。最も注目を集めたのは、一部の海外債権者に、短期国債を低利回りの超長期国債にさせるという案である。「この提案は一見シンプルに見えるが、その破滅的な結果には、米国債のテクニカルデフォルト( technical default )と同等の弊害が伴う」と、欧州連合( EU )と密接な関係を持つブリュッセルに拠点を置くシンクタンク、ブリューゲル( Bruegel )のアナリストの 1 人が昨年指摘した。ちなみに、テクニカルデフォルトとは、債券の発行元(国や企業など)が、守るべき誓約条件に反したことによって、資金面では支払い能力があるのに元本の償還や利払いが滞った状態のことである。トランプ政権がそのような計画を真剣に検討しているという兆候があれば、ドルと債券市場は大混乱に陥る可能性がある。今のところ、この提案は具体的に進展していないが、関税やその他の政策を総動員して可能な限り外国から利益や貢物を掠め取ろうとするトランプの魂胆が見え見えの状態である。海外の投資家がアメリカに資金を振り向けることに二の足を踏んでいるとしても不思議ではない。
ドルがさらなる下落に見舞われても、抑制されていれば必ずしも悲惨な事態にはなるわけではない。しかし、世界的な交換手段および価値保存手段としてのドルの永続的な役割に深刻な脅威が及べば、甚大かつ予測不可能な結果がもたらされる可能性がある。ドルの価値下落を効果的に防いでいる要因がいくつかある。アメリカ経済の相対的な強さと、米国債に代わる適切な資産の不在である。先週末まで、金などの貴金属が高騰していたが、利回りは期待できない。また、価格変動も激しい。ビットコイン( Bitcoin )支持者はビットコインをドルの代替として推奨しているが、ここ数カ月の値動きを見ると安全資産( safe haven )としては相応しくないようである。昨年 10 月初旬以降で価値が 3 分の 1 下落した。欧州の債券市場は依然として分断されたままである。現在、中国の債券市場が世界第 2 位の規模を誇るが、同国への投資には大きな地政学的リスクが伴う。こうした状況から、多くの大規模投資家はドルを手放すことに慎重になっている。 「数十億ドル程度の投資であれば、ドル建て資産以外にも分散投資できるものは簡単に見つけられる」とプラサドは主張する。「しかし、数百億ドル、あるいは数千億ドル規模の資産を運用するとなると、他に選択肢はない」。
惰性的にこうした状況が続いているわけだが、このことはドルの優位性や米国債に対する海外からの需要が依然として旺盛であることを意味している。全世界で経済が混乱しつつある中で、この混乱を考察すべくプラサドは先日” The Doom Loop (未邦訳)”というタイトルの著書を出した。彼が主張しているのは、現在のアメリカが進めている経済政策、つまりトランプが推し進めようとしている政策は長期的に持続可能ではないということである。「アメリカ政府の債務は以前と変わらず足元で粛々と増加している。それを抑制する計画は全く見当たらない」とプラサドは書いている。「現在、ドルの優位性を支えてきた数々の制度が、目の前で粉々に砕かれつつある。こんな状態が続けばドル基軸通貨制度は完全に崩壊してしまうだろう」。
以上
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