Ukraine Faces a Crucial Moment in the War
重大な局面を迎えているウクライナ戦争
Two years after Russia launched its invasion, the fighting is shifting in its favor.
ロシアが侵攻を開始してから 2 年が経ち、形勢はロシア有利に傾きつつある。
By Joshua Yaffa May 26, 2024
ヴォフチャンスク( Vovchansk )は、ロシアとの国境からわずか 3 マイルのウクライナの小さな町である。農地とソ連時代からの工場が点在するこの町には、何度も侵略され占領されてきた痕跡が至るところに残っている。第二次世界大戦中には、ドイツ国防軍( the Wehrmacht )と赤軍( the Red Army )が近郊のハリコフ( Kharkiv )周辺で壮絶な戦いを繰り広げ(ハリコフの支配権は 4 度も変わった)、ヴォフチャンスクは 1 年以上もナチスに占領下に置かれた。ロシアがウクライナに侵攻して 2 年経過したが、ロシア軍は勢いを保って前進を続けようとしている。現在、この町で再び激しい戦闘が繰り広げられている。
2022 年 2 月にロシア軍が国境を越えて侵攻を開始して直ぐにヴォフチャンスクは占領された。ロシア軍はさしたる抵抗も受けずに町全体を掌握したものの、兵員不足、指揮系統の混乱、航空支援と砲弾の不足により、徐々に疲弊していった。同年 9 月にウクライナは反転攻勢を開始し、ロシア軍をヴォフチャンスクをはじめとするハリコフ地域の数多くの町から駆逐した。
今年 5 月 10 日に戦況が大きく変わった。ロシア軍が再び攻撃を仕掛けてきたのである。いわゆる「肉弾戦( meat storm )」を仕掛けている。戦線に次々と歩兵隊が送り込まれている。西側の情報機関の推定によれば、ロシア軍の死者数は 50 万人を超えているという。これはロシア軍の兵員の損失を厭わない冷酷な特質を現すものである。とはいえ、ロシア軍は以前よりも統率がとれている。クレムリンは徴兵制と財政的優遇措置によって兵員を補充できている。毎月 3 万人も新兵を採用している。国家予算の 3 分の 1 を国防と安全保障に費やしている。NATO の推定によれば、ロシアは年間 300 万発の砲弾を生産しているという。これは NATO 全加盟国がウクライナに提供できる数の 2 倍以上である。ウクライナは西側の技術を導入して対抗しようとしているが、一筋縄ではいかない。ロシア軍はドローン活用技術を高め、諜報戦を繰り広げ、電子機器も巧みに使いこなすようになっているからである。ロシア空軍はソ連時代に製造された時代遅れの 1.5 トン無誘導爆弾に動翼とGPSナビゲーションを取り付けて滑空爆弾を大量に製造している。それは、ウクライナ軍を駆逐し、多くの町を丸ごと破壊するために使われている。
一方、ウクライナはこの戦争で最も厳しい局面を迎えている。ここ数カ月間、アメリカの上下院で共和党が新たな支援策の成立を妨害したため、ウクライナではあらゆる種類の砲弾が不足する事態となっている。特に対空ミサイルが不足している。ウクライナ軍幹部は、砲弾数ではロシア軍が 10 対 1 で優勢だと見積もっている。防空ミサイルが不足しているため、ウクライナの多くの都市は継続的な攻撃にさらされている。中でもハリコフ( Kharkiv )の被害は甚大である。ロシア軍のミサイル攻撃によって国中の送電網が破壊された。4 月下旬にようやくアメリカ上下院で 61 億ドル規模の武器支援法案が可決されたが、戦争の趨勢は既にすっかり変わってしまっている。いずれにせよ、砲弾や兵器類や装備類が直ぐに戦場に届けられるわけではない。先週、ウクライナ政府は初めて全土で計画停電を実施すると発表した。
しかし、武器の不足はウクライナの問題の 1 つに過ぎない。それよりも兵員の不足が深刻である。この戦争が始まった頃には兵士になることを希望する者が後を絶たなかった。しかし、今では熱心な新兵を見つけることははるかに困難になっている。徴兵されるのは、地方出身者、教育水準の低い人、比較的裕福でない人が多い。徴兵されれば前線に送られることが確実であるため、戦況が不利になるにつれ徴兵を拒む者が増えている。ヴォロディミル・ゼレンスキー( Volodymyr Zelensky )大統領はこの問題を解決する特効薬を持っていない上、ウクライナ議会は 1 年以上兵士の動員に関する法案の改正を可決できなかった。先月、ゼレンスキーはようやく動員を拡大する一連の法律に署名した。彼は動員がより透明で効率的なものになったと主張している。しかし、兵士の兵役解除のプロセスはまだ確立されていないため、召集された兵士が片道切符を渡されるのではないかと恐れている状況である。兵員を集められないとなれば、激しい消耗戦に陥っているウクライナ軍にとって痛手である。アメリカの諜報機関によれば、既にウクライナ軍の犠牲者は 7 万人を超えており、このことが徴兵をより困難にしている。長らく遅れていたアメリカの武器支援と同様に、改正した動員法も戦争の趨勢を変えるには時間を要するだろう。
ロシア軍が攻勢をかけているのは、それらの効果が現れる前を好機と捉えているからです。ヴォフチャンスク市街では激しい戦闘が続いている。ウクライナ軍は、「敵の砲火と攻撃の結果、より有利な位置にウクライナ軍の一部の部隊が移動した」と敗走したことを婉曲的に表現した。ロシア軍が「戦術的成功」を収めたことについては否定しなかった。ロシアのヴォフチャンスク侵攻は、軍事用語で「固定化 」作戦と呼ばれるもので、1 つの地域に敵部隊を拘束することで他の地域で優位に立つことが目的である。ウラジーミル・プーチンの当面の優先事項は、ウクライナ東部のドンバス地域全域の占領である。
プーチンの当初の戦争目的はキエフ制圧とゼレンスキー打倒であった。彼は侵攻すれば直ぐにそれらを実現できると踏んでいた。しかし、プーチンは侵攻初期には何も成し遂げられなかった。当時、戦争が長期化すれば、戦況はウクライナに有利に傾くと推測されていた。ゼレンスキーは逃げずに戦う道を選んだ。ロシア軍は機能していなかった。西側諸国の結束はプーチンが想像していた以上に固かった。しかし、今では固かった西側諸国の結束にも綻びが見られる。まもなくウクライナに続々とアメリカ製の兵器が届けられるが、それが永遠に続くわけではない。ドナルド・トランプが再び大統領になった場合には、それが途絶えてしまう公算が高い。アメリカやヨーロッパ諸国は、ウクライナが支援を絶たれれば存亡の危機に陥るのにも関わらず、この 2 年間、兵器増産や支援拡大に真剣に取り組んでこなかった。
バイデン政権は、エスカレーションを恐れて、アメリカ製兵器をロシアの主権がおよぶ領土内の標的に使用することを禁じている(先週、ロシアは国境付近で戦術核兵器の使用を想定した訓練を行った)。しかし、ウクライナ政府関係者は、現在ロシアは自国領土内から攻撃を仕掛けていると主張している。ゼレンスキーは、プーチンが核使用をほのめかしているが、あくまで威嚇であると考えている。彼が先日のタイムズ紙とのインタビューで語ったのは、ロシア軍は西側諸国がウクライナに供与した兵器をロシアの領土内の攻撃に使用することを許可していないことを認識しているということである。
ヴォフチャンスクが陥落すれば、ロシア軍はそこからハリコフを砲撃するようになるだろう。ウクライナ第二の都市(侵攻前の人口は 150 万人でほぼアムステルダムと同じ)を居住不能にする攻撃は激しさを増すだろう。プーチンがしばしば口にしているのだが、彼はロシア軍が激しく攻撃し、破壊を尽くし、ハリコフを焼け野原にすれば、西側諸国はウクライナ支援を打ち切るだろうと考えている。また、その結果、ゼレンスキー政権が倒れ、ロシア寄りの人物が大統領になると考えているようである。しかし、必ずしもプーチンの思い描くとおりにことが進むわけではない。ヴォフチャンスクで何度も攻守が入れ替わったことが示唆しているように、戦争の趨勢は何度も変わる可能性がある。♦
以上
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