4.
検査室で歩き始めて1時間後、私は左の太ももにしこりを感じた。私はむくんだ拳を痙攣する足にこすりつけた。さらに10分後、刺すような頭痛が起こり、頭がボーッとした。一瞬パニックになり、息が苦しくなった。私の体温は華氏101度(摂氏38.3度)を超え、心拍数は毎分160回になった。ランガンが、大丈夫か?と聞くので、私は弱々しく親指を立てた。彼は、「もう少しだ」と言った。トレッドミルの上を歩き続けた。体温が華氏102度(摂氏38.9度)まで上昇した。心拍数が毎分170回に跳ね上がった。私はトレッドミルからステップアウトした。
その後には分析のステップが待っていた。私はシャツや短パンやタオル等を大きな黒いバスタブに放り込んだ後、その中に入った。マーティンとランガンは、巨大な容器に入った水を私の頭、肩、胸にかけた。それを繰り返した。私は疲れ果て、水と汗が入り混ざった中に座っていた。ちょっとだけ気持ちいいと感じた。
その日の内に、マーティンとランガンはバスタブの水を抜き、その水を分析した。2人によれば、この実験での私の成績は及第点だった。私の体温が危険域に達しなかった一因は、1時間当たり1リットル近くの水分を汗として排出したことにある。その一方で、私の汗にはナトリウム(sodium)が多く含まれていた。おそらく、私の体が高温状態に適応していない証拠だろう。推測だが、暑さへの準備ができていなかったのかもしれない。
帰路の準備ができていなかった。これは、推測ではなく事実だ。アムトラック(Amtrak)の駅では頭痛が悪化した。物憂げになり、倦怠感に襲われた。トイレで尿が驚くほど濃い琥珀色をしていることに気づいた。しつこい喉の渇きを癒すため、水を立て続けに飲んだ。サンドイッチを買ったが、吐き気がしてダメだった。電車内はエアコンがよく効いていた。座ってノートパソコンを開いた。その日放置していたメールに返信しようと思ったが、ぼんやりして気が遠くなった。電車は多くのマンションの横を通り過ぎる。ほとんどの部屋にエアコンが付いているように見える。だが、付いていない部屋もある。おそらく、温室みたいな暑さだろう。寝るつもりはなかったが、眠ってしまった。
しばらくして電車が止まった。顔に温もりを感じ、目を開けた。ガラス越しの太陽光が眩しい。花柄のワンピースを着た女の子が母親と一緒にホームに立っていた。女の子は母親に寄りかかり、母親は厚紙で女の子をあおいでいた。女の子はリュックサックに手を入れ、小さな水のペットボトルを取り出した。ゆっくり口に含んだ。ドアが開くと、2人は急いで電車に入ってきた。♦
以上