What Does Putin’s Nuclear Sabre Rattling Mean?
核戦略をちらつかせているプーチンは、何を考えているのか?
The Russian leader’s incendiary references to the bomb have revived fears from a bygone era.
ロシアの指導者が核戦略をちらつかせたことで、過去のものと思っていた原爆の脅威を再び認識せざるを得なくなりました。
By Robin Wright March 1, 2022
ウラジミール・プーチンは、ロシア国内での支持率も下がっている中で焦っているようです。また、ウクライナよりロシア軍は圧倒的に軍事力で勝っているという驕りもあるようです。そうした状況下で、彼はウクライナ侵攻後の膠着状況を打開すべく、核兵器の使用を仄めかしました。ロシア軍と直接対峙しているのはウクライナだけですが、プーチンの侵攻は全世界に影響を及ぼしています。先週、プーチンは侵攻を宣言しましたが、その際には不吉な言葉が使われていました。ウクライナだけでなく世界中が震撼しました。プーチンは、「ロシアの企てを妨げようとする者がいれば、それが誰であってもロシアは即座に対応するだろう。歴史上経験したことのないような悲惨な結果となることを認識するべきだ。」と、脅しました。また、彼は、「ロシアは現在も最も強力な核保有国の一つである。」と付け加えました。
プーチンは日曜日(2/27)に、セルゲイ・ショイグ(長年国防相を務めてきた)とヴァレリー・ゲラシモフ将軍(伝説的な軍事戦略家)と会談し、さらに踏み込んだことを指示しました。プーチンは晩餐会用の長いテーブルの端に座りました。プーチンと会談した2人は、テーブルの反対の端に座っていました。2人はハンターに追い詰められた鹿のように気圧されているようでした。プーチンは、戦略核を運用する部隊を「特別態勢」に置くよう命じました。そのような言葉が使われたのは史上初のことでした。プーチンの目的は、ロシアが最悪最凶の兵器の発射の準備段階に入ったことを世界中に認識させることでした。とにかく、ロシア以外の国をビビらせるのが目的だったようです。
バイデン政権は、プーチンの脅しに怯むことはありませんでした。プーチンの挑発に冷静に対応しています。月曜日(2/28)に、米国人は核戦争を心配する必要があるかと尋ねられたバイデンは、冷静沈着に「ノー」と答えました。米国は核戦力の態勢を変えていませんし、警戒レベルも上げていません。ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は、「米国は自衛能力を有している。」と述べました。国防総省のある高官は「米国の抑止力は万全であり信頼できる。」と述べました。ロンドンでは、英国のベン・ウォレス国防大臣が、プーチンの発言は西側諸国を怯えさせることが目的で、単なる威嚇であると述べました。
プーチンの核兵器の発射準備段階に入るとの宣言は、ロシアの侵攻に対する世界の関心をそらすことが目的で、壮大なハッタリのように思えます。プーチンのそのようなハッタリは、ロシア軍の侵攻が思ったほどの戦果を挙げていないことを考慮すると、ロシアの強さではなく弱さが反映されたものに見えます。元駐ロシア大使のマイケル・マクフォールは「侵攻で思う通りの戦果が挙がっていれば、プーチンはあんな発言はしなかっただろう。」と、言いました。しかし、プーチンは、繰り返し繰り返し核兵器使用の可能性を仄めかしています。その結果、原爆の脅威は過去のものであると何十年も思い込んでいた世界中の人々が、再びその脅威を認識せざるを得なくなりました。直近まで、冷戦の終焉によってその脅威は去ったと思い込んでいました。ロシアの紛争を厭わない姿勢は顕著で、戦術核の配備を着々と進めてきました。12月には、ベラルーシが憲法を改正(先週承認された)し、ロシアが戦術核を配備するのを認めるという決定を下しました。私は、ワシントンの軍備管理協会のダリル・キンボール会長に、尋ねてみました。世界は核時代に入りつつあるのか否かを。彼は答えました、「核時代は決して終わったわけではありません。核時代は新たな局面に入ったのです。」と。
地球上には、約1万3千発の核兵器があります。9カ国が保有しています。冷戦が終結して以来、その数は約80%まで減少しました。しかし、核兵器分析の専門家であるケルシー・ダベンポートは昨冬、私に言いました、「核兵器保有を制限し、核兵器拡散を防ぐための世界のシステムは機能していません。」と。新たな核軍拡競争の脅威が高まっているのです。国防総省は、中国の核爆弾の保有数は2030年までに1,000個に達すると推定しています。また、インドとパキスタンは現在でも間違いなく競うように核兵器を充実させているでしょう。また、北朝鮮は既に60個の核爆弾を保有していると推定されています。
軍備管理協会によると、現在、全核爆弾の90%はロシアと米国の管理下にあるそうです。ロシアの方が保有している数は多く、およそ6,000個と推定されています。軍備管理協会によれば、ロシアと米国の核爆弾のほとんどは、広島と長崎を破壊した原爆の10倍以上の威力を持っています。ちなみに、1945年の夏に広島と長崎に落とされた原爆によって、その年の末までに約21万4,000人が命を落としました。1981年に、私はローマ法王ヨハネ・パウロ二世とともに日本に行き、広島にも長崎にも行きました。長崎の原爆記念公園にある病院も訪ねたのですが、原爆投下から35年経っていましたが、放射能汚染が原因で亡くなられた人がいました。「多くの被爆者が、現在でもなお、苦しんでおり、死にかけています。」と、キンボールは月曜日に言いました。
国務省のネッド・プライス報道官は、プーチンが核兵器の発射準備を指示したことは、単なる挑発で本当に発射する意図は無いと論じましたが、偶発的なリスクを高めるものだとして非難しました。ウクライナでのプーチンの行動は、常軌を逸したものです。国際法を犯すものであり、また、21世紀の常識からも逸脱しています。何より、彼自身が過去に決めた政策からも逸脱しています。プーチンとバイデンは昨年6月にジュネーブで首脳会談を行って、共同声明を発表しました。その際には、1985年に当時のレーガ大統領とゴルバチョフ書記長が会談で確認した原則に立ち返ることが必要であるということが再確認されました。原則は、「核戦争に勝利はなく、核戦争は起こしてはならない。」というものでした。
一方、クレムリンで長年に渡って報道官を務め、ロシアのテレビ番組で最も胡散臭い人物の一人として知られるドミトリー・キセリエフは、日曜日に国営テレビ局の番組に出演していました。彼は、ロシアの核兵器の概要を説明しました。「我が国の潜水艦は合計で500発以上の核弾頭を発射することができ、確実に米国とNATO加盟国すべてを破壊することができる。明白なのは、ロシアを排除しようとする者は、その報いを受けるということだ。既にプーチン大統領が警告しているが、ロシアに脅威をもたらす者は無慈悲な攻撃を受けることとなる。」と、彼は言いました。
プーチンが核兵器の準備を指示した目的は、西側諸国にウクライナから手を引くように圧力をかけることでした。ロシアは、時に下手に出ておだててくることがありますが、時に強硬に脅かしてくることもあります。しかし、そうしたやり方がいつも上手くいくわけではありません。キンボールは言いました、「プーチンが意図した通りにことが運ばず、誤算が生じることによって、緊張がより高まる可能性があります。そうすれば、プーチンは軍の警戒レベルを上げなければならず、さらに状況は悪化するでしょう。」と。ロシアがウクライナに侵攻した時点で、既に緊張は高まっていて、世界の多くの国が警戒度を引き上げています。金曜日(2/25)に、NATOは、危機が現実になる前に警戒活動に乗り出しました。4万人規模の即応部隊の展開を決めたのです。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は日曜日(2/27)にCNNとのインタビューに応じて、プーチンに事態の沈静化を促しました。「ウクライナに対して戦争を仕掛け、本格的な侵攻を行っている上に、核兵器の使用も辞さないと脅迫すれば、事態をさらに悪化させるだけだ。」と、彼は言っていました。
現在、プーチンは、悔しくて怒り心頭に達しているのではないでしょうか。というのは、当初の想定では、ロシア軍はすぐに首都キエフを占領できると考えていたからです。ロシアのRIAノーボスチ通信社は、長年に渡ってロシア政府寄りの記事を掲載し、時代遅れのプロパガンダを発信し続けています。ロシアが侵攻してからわずか2日後の2月26日(土)には、ロシア軍の勝利を祝う記事を早々に配信していました。記事には、「反ロシア的なウクライナはもはや存在しない。」と華々しい戦果が記されていました。続いて、「ウクライナの国家が消滅するわけではない。ウクライナは再建され、より洗練され、再び偉大なロシアの一部となるのです。 再び、本来の姿に戻るのです。」と記されていました。
その記事を読んで、プーチンがウクライナに侵攻した意図が少しだけ分かりました。プーチンがウクライナに侵攻した理由は、ウクライナを実効支配したいということにあります。また、西側諸国に対して彼が対抗意識を持っていたことにもあります。RIAノーボスチ通信の記事には、「この戦争は、ロシアと西側諸国の間の戦争である。ロシアはNATOの拡大という地政学的な問題に対処しただけである。それが事実であるし、世界各国はそのことを正確に理解しているだろう。」と記されていました。また、「ロシアの領土が再び本来の形、あるべき姿に戻ったのです。」との記述もありました。しかし、皮肉なことに、プーチンの侵攻によって、西側諸国の結束はより強まりました。また、NATOへの支持も高まっています。30年前にソビエト連邦が崩壊して以来、西側諸国の結束がこれほど強まったことはありませんでした。
プーチンと側近は、西側諸国を非難し続けています。土曜日(2/26)に、ドミトリー・メドベージェフ前大統領は、2010年に署名され、プーチンとバイデンが2021年に延長することに合意した新戦略兵器削減条約から脱退する可能性があると主張しました。それは、米露二国間の最後の砦となるべき重要な武器に関する協定です。また、メドベージェフはソーシャルメディア上で、ロシアは米国やその同盟国との外交関係を断つことも辞さないと主張していました。
いまやロシアは世界の多くの国から非難されて孤立が深まっているわけですが、プーチンは、国内向けにも国外向けにも強硬な姿勢を示すことを止めていません。欧州外交問題評議会というシンクタンクの主任研究員グスタフ・グレッセルが私に言ったのですが、プーチンは、他国の世論や政策決定に影響を及ぼしたいと考えているようです。グレッセルは言いました、「プーチンが他国に影響を与えようとしても、実際には有効な手段はほとんど何もないのです。唯一できることと言ったら、核の使用を仄めかして欧州諸国の恐怖心を煽ることぐらいです。しかし、それは、瀬戸際外交(緊張を高めることにより交渉相手に譲歩を迫る政治手法)でしかありません。得られるものは多くないでしょう。」と。
以上
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