パンデミックへの耐性が強い社会を作るためには何が必要か?

Annals of Medicine 

What Will It Take to Pandemic-Proof America?
アメリカをパンデミックに対する耐性の強い国にするには何が必要か?

When the next virus strikes, we’ll look back on this moment as an opportunity that we either seized or squandered.
次にウイルス性感染症が蔓延した時、私たちは今回のパンデミックから得た教訓をいかすことが出来るのか?それとも、全く生かすべき教訓は無かったと嘆くことになるのか?

By Dhruv Khullar April 15, 2021

1.アメリカはパンデミック対応の失敗で多くの教訓を得ることが出来る

1982年9月29日、12歳の少女メアリー・ケラーマンは朝起きると、風邪をひいているのが分かりました。彼女は両親から貰ったタイラノルを何錠か飲みました。それから3時間後に、彼女は亡くなりました。同じ日に、ケラーマン家と同様にシカゴ郊外の町に住む27歳の郵便配達員アダム・ヤヌスも気分が悪くなりタイラノルを服用し、数時間後に亡くなりました。ヤヌスの兄とその妻がヤヌスの家に弔問に訪れましたが、共に頭が痛くなったので、タイラノルを服用しました。アダムが服用したのと同じボトルから取り出したものでした。その後2人も亡くなりました。他にも同じような死者が3人でました。当局によってシカゴ周辺で迅速な調査が行われた結果、ほどなく、タイラノルにシアン化合物が混入していたことが判明しました。何者かがボトルを薬局の棚から持ち去り、タイラノルのカプセルの中に毒を入れて棚に戻していたのです。
 1週間後には、米国人の90%以上が、シカゴでシアン化合物が混入したタイラノルを飲んで数人が死んだということを知っていました。タイラノルの売上は8割減となりました。製造元のジョンソン&ジョンソン社は、1億ドル以上の費用をかけて米国内のすべてのタイラノルを回収しいました。米国食品医薬品局と協力して開封できないパッケージの開発を開始しました。当時、タイラノルはカプセルの中に薬剤が入っていました。カプセルには飲み込みやすいという利点があります。しかし、開けることができるので、異物を混入させることが可能でした。同社はカプセルの使用を止め、caplet(ソフトカプセル)にしました。そうすることにより、異物の混入を防げるからです。そして、子供でも取り出せるように、そのソフトカプセルをPTP包装(表は透明で薬が見え、裏はアルミ箔ホイルで密封されている)しました。その後間もなく、米下院は小売店の商品の中身に異物を入れることを連邦犯罪とすることを決めました。また、米国食品医薬品局はすべての医薬品で異物混入を防止できるパッケージにすることを義務化しました。その事件以来、同様の犯罪が数件企てられましたが、しかし、タイラノルの事例のように死者が出たことはありません。今日、米国では自分が飲む薬や食料品店の商品に毒が盛られているのではないかと心配することはほとんどありません。
 米国では、問題が発生してもこのように上手く対処できたこともあります。そうでないこともありますが、その一例は銃による犯罪の蔓延です。米国では平均すると毎日100人以上が銃によって殺されていますが、それでも銃を規制する法案が成立することはありません。米国人の600人に1人がSARS-CoV-2ウイルスによって亡くなっていますし、感染症のパンデミックはこれから先、何度も発生するでしょう。したがって、今回のパンデミックが終わる時、次のパンデミックが発生した時に有効となる教訓を得られたか否かということが重要になります。新型コロナへの対処で問われているのは、医薬品に異物を混入出来ない仕組みを作れた時のように上手く対処できるのか?、それとも、銃により大勢が殺される状況が続いているように拙い対処しかできないのか?ということです。
 次の感染症のパンデミックが発生する際には、現在経験しているよりもかなり悲惨な状況に陥る可能性があります。SARS-CoV-2ウイルスがCOVID-19を引き起こしますが、2002年に流行し感染者の11%を死に至らしめたSARS-CoV-1ウイルスに比べれば致死率は高くありません。また、SARS-CoV-2は感染力も強くなく、はしかの10分の1とされています。また、HIVのようなワクチンが開発されていない感染症もありますが、SARS-CoV-2は既に有効なワクチンが開発されています。次の感染症のパンデミックの最中には、私たちは現在のバイデン政権下の対応を振り返ることになるでしょう。今回のパンデミックは、次に発生するパンデミックに対して準備する良い機会だと捉えることができますが、この機会を上手く生かせられたのか、生かせられなかったのかは将来明らかになるでしょう。パンデミックに対する耐性の強い米国を作りあげるために、今が一番重要な時です。