脅威?サル痘(MONKEYPOX)の感染拡大は防げるのか?ウイルスの重症化率は低いが、初動対応が重要!

Medical Dispatch

What’s at Stake in the Fight Against Monkeypox
サル痘の封じ込めで重要なこと

There’s still time for a forceful global response to shape the future of the disease.
サル痘を封じ込めるためには、全世界が協力して対策を打つ必要がある。いつやるのか?今でしょ!

By Dhruv Khullar  July 15, 2022

1.アメリカでもサル痘感染者が出た!

 5月12日、マサチューセッツ総合病院の感染症担当医ネスリ・バスゴズ(Nesli Basgoz)は、不可解な症状を呈している31歳の患者を診ました。その患者は、カナダへの旅行から戻った直後から性器の周りがかゆくなり、その数日後から発熱があり、リンパ節が腫れ、汗がびっしょり出るようになっていました。カナダに滞在中には盛んに性交渉をしたということだったので、バスゴスは、淋病、梅毒、ヘルペス、HIVなどの可能性を検討しました。しかし、いずれとも症状が一致しませんでした。抗生物質と抗ウイルス剤を投与したのですが、患者の腕や足には小さな水疱ができ、直腸の付近には潰瘍ができ、体内にも炎症が起きていて、座るのも眠るのも困難なほど痛がるようになりました。バスゴズは、州の保健当局に問い合わせを行ったのですが、同様の疫病の報告は受けていないとの回答があっただけでした。

 バスゴズは、その患者が入院中は、1日2回の診察をしました。ある日の午後、彼女は診察していて、その患者の水疱の中心に独特のくぼみができているのに気づきました。その翌日の朝、彼女は5時前に目が覚めたのですが、インターネットでオルトポックスウイルスについて調べ始めました。オルトポックスウイルスは、動物種間で感染するウイルス属で、天然痘もそのウイルス属に含まれます。彼女が得た情報は、最近、英国でサル痘と診断された4人の男性がいるということで、公衆衛生上の勧告が出されているということでした。バスゴズは、私に言いました、「当時、私は少し危惧していました。というのは、多くの人に影響が及ぶと思ったからです。」と。例の患者は、特殊病原体病棟に移されました。バズゴスは、サル痘に感染したか否かを確認するために、まず州の公衆衛生研究所へ、さらに、疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention.)にその患者のウイルス等のサンプルを送りました。

 医師というのは、何千時間もの時間をかけて、症状や徴候を病態や治療法と照らし合わせるパターン認識の技術を磨いています。私がマサチューセッツ総合病院での研修中に知ったことですが、バスゴスはベイズ推定の伝説的な実践者でした。彼女は、まず一連の仮説を立てます。いわゆる事前確率(priors:条件付き確率の一種で、証拠がない条件で、ある変数について知られていることを確率として表現するもの)です。新しい情報が得られるとそれを更新していきます。彼女は、患者の症状を説明できる医学的兆候をリストアップし、検査や診察や感染症治療の試みから分かったことを、リストに加えたり減らしたりし、もっともらしい病名を上に、ありそうもない病名を下に移動させます。「それでも正しい診断が下せそうにないと感じた時には、『これは新しい病原体では?新しい感染症なのでは?』と疑います。」と。バスゴスは言いました。

 バスゴスがさまざまな分析をして患者がサル痘に感染しているという確証を得たわけですが、それはまさしく医学の発展していく過程と同じでした。サル痘で特徴的な症状は、従来は発熱と発疹であると理解されてきました。感染してから1〜2週間後にインフルエンザのような症状が現れ、その後、広範囲に発疹が現れます。数週間後には、疱が痂皮化して治癒します。その時点では、感染者からは感染による症状が消えます。しかし、今回の流行では、これまでの医学の常識が覆されました。バスゴズが治療した患者を含め、何人かの患者は感染後わずか数日で症状が出ていました。サル痘では発熱する前に発疹が出ることもあるのですが、発疹は広範囲に広がることはなく、性器周辺に限られると認識されていました。バスゴスは言いました、「サル痘の治療指針を示すガイドラインがあるのですが、他の感染症と同様に、このガイドラインは過去に経験したことを基に作成されています。」と。学会での情報交換やツイッターでの情報の共有をすることも重要ですし、他の研究者の論文などできるだけ多くの情報を得るようにして、常に情報をアップデートする必要があります。

 現在までに、サル痘の感染者数は、アメリカの1千4百人以上を含め、全世界で数十カ国合計1万1千人となっています。ヨーロッパでは、ここ数週間で感染者数が3倍以上になりました。検査が十分に行われていませんし、サル痘感染に対する認識は高くないので、実際の感染者数はもっと多いと推測されています。6月下旬、世界保健機関(WHO)は、サル痘の感染拡大を「進行中の公衆衛生への脅威」と位置づけました。それは、2番目に高い警戒レベルです。その翌週、世界保健機関(WHO)は緊急会合を再び開催し、サル痘について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に当たると宣言しました。

 サル痘は、新型コロナのような大流行を引き起こすことはないと推測されています。サル痘ウイルスは新型コロナのウイルスよりもはるかに重症化率が低く、感染力も弱く、既存のワクチンで容易に沈静化することが可能だからです。しかし、もし迅速かつ強力に、そして世界的規模での対応が為されなければ、サル痘は多くの国々で恒久的に定着することになるかもしれません。そうなると、医療機関と公衆衛生当局が労力を大規模に割かなくてはならなくなります。毎年、サル痘ウイルスが何千人もの人々に痛みを与え、時には跡が残るような発疹ができ、何人かは死に至る可能性も出てくるでしょう。積極的に全世界が協調してサル痘の撲滅について手を打つ必要があります。過去の感染症の感染拡大を防げなかった事例から学ぶべきです。そして、そうした状況に陥らないようにすべきです。