5. ファージ療法も万能ではない
1月中旬、ナポレオン・デル・フィエロは腕に1日2回ファージを注射で入れ始めました。4つのファージを注射していました。4つともデル・フィエロが治療を受けていたウォルターリード陸軍医療センターに近い廃水処理施設の汚水から分離したものでした。私がデル・フィエロを訪ねた時、1月末の午前中でしたが、うたた寝をしていました。ちょうどオートミールの朝食を食べ終えたところでした。2週間ぶりにベッドから出ることが出来るようになっていました。ヴィオレタは言いました、「さっきまで、上体を起こしていたんですよ。どんどん回復しているような気がします。」と。ヴィオレタと私はベットの横に腰かけていました。ヴィオレタはデル・フィエロとどうやってマニラで出会ったかとかいろいろなことを話しました。しばらくすると、看護師がやって来て、毛布を整えました。そして、デル・フィエロの判明したばかりの血液検査の結果を教えて、ヴィオレタを喜ばせました。シュードモナス菌が劇的に減っていました。
2月10日までに、担当医たちは、デル・フィエロは退院して自宅で治療を継続しても問題ないと判断しました。しかし、退院する直前に、暗褐色の液体を吐き始め、体温が高くなりました。彼は胃からの出血があり、腹液が肺に入り、誤嚥性肺炎を引き起こしていました。また、血中のシュードモナス菌のレベルが再び上昇していました。彼は言葉を発することは出来ない状態でしたが、激しい痛みに苦しんでいることは明らかでした。2月22日の午後、彼の家族がベッドサイドに集まって、人工心臓は停止されました。数分後に息を引き取りました。
葬式の後のことですが、ディヴィナはファージ療法は効果が高いと確信していると言っていました。彼女は言いました、「今回はたまたま効果がなかっただけだと思います。条件が悪すぎました。非常に高齢で、合併症もありましたから。ファージ療法をしていただいたことに非常に感謝しています。」と。一方、アスラムは非常に落胆していました。彼女は言いました、「私がファージ療法を行った中で、シュードモナス菌の感染がバイオフィルムで発生したのは2度めです。いずれも患者は亡くなりました。全ての人の命を助けようと努めていますが、ファージ療法が有用でない場合に何が原因なのかを知るための臨床試験が圧倒的に不足しています。」と。IPATHの医師たちによって、デル・フィエロの治療が何故上手くいかなかったのかを研究するために、分析を開始しましたが、COVID-19の影響により、現在は保留中となっています。
ベイラー医科大学で、研究者らがジョセフ・ブネヴァッツの大腸菌感染に対して有用であるファージの分離に成功しました。非常にうれしいニュースでした。南カリフォルニアで、今年の晩春にスパーブルーム(異例の降雨により、砂漠地帯に一斉に野花が咲く現象)があった時、フィロメナは私に写真を送信してきました。ヒナゲシで覆われた丘の中腹で寄り添っているカップルが写っていました。結局のところ、新型コロナウイルスの流行によって、すべてが遅々として進まなくなってしまいました。ブネヴァッツの治療が米食品医薬品局に承認されたのは秋も終わりになる頃でした。ようやく、今月(2020年12月)、ブネヴァッツのファージ療法が始まります。「私の人生は素晴らしいものでした。そして、もう少し頑張りたいと思います。」と、彼は私に言いました。♦
以上