新規雇用者数は今後どうなるか?そんなん予測できるはず無い!全てはパンデミックの状況次第である!

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When It Comes to Jobs: It’s the Pandemic, Stupid
雇用者数の増減はどうなるか?って、そんなもんは予測できるはずが無い!全てはパンデミックが収束するか否かに掛かっている!

More than any other factor, the spread of COVID is limiting how many Americans are able to find work.
他のどの要因よりも、新型コロナの感染状況は、アメリカの雇用情勢に影響を及ぼしています。

By John Cassidy October 8, 2021

 共和党は、失業手当を削減することで、より多くの米国人が求職して復職するようになるだろうと主張しています。レイバー・デイ(9月5日の月曜日)に、米連邦政府は、新型コロナ対策の失業手当の上乗せ分の給付を打ち切りました。1週間300ドルが上乗せされていました。上乗せの打ち切りの目的は、失業給付を貰っている者に重い腰を上げさせ、求職して職を得てもらうことでした。というのは、政府発表の統計で明らかになっているように、米国では記録的な人手不足状態にあるからです。金曜日(8日)に労働省が9月の雇用統計を発表しましたが、労働力人口(就業者+完全失業者)は、18万3千人減少していました。失業給付の上乗せの打ち切りは全く効果が無かったようでした。多くのエコノミストが、8月に弱かった雇用者数は、9月には回復するものと予測していましたが、9月の実際の新規雇用者数は19万4千人で今年に入って最少でした。

 新型コロナパンデミックは、その当初から米国経済に大きな影響を及ぼし続けています。しかしながら、その影響を予測するのは非常に困難で、今後どのような影響が出るかを予測するのも簡単なことではありません。デルタ変異株の感染者数が今年の夏に急激に増加し始めた時には、多くの評論家が、米国経済に大きな影響を与えることはないと予測していました。しかし、生産年齢人口の約3分の2がワクチン接種を受けていルにもかかわらず(3分の1はワクチン接種を受けていないことが影響して)、実際には経済は大きな影響を受けました。新型コロナウイルスへの感染が再び広がることへの懸念と、子供を預ける施設が不足している等の懸念とが相まって、職に就くことを思いとどまる人が多く、景気回復の足枷となっています。9月の雇用統計が明らかにしたのはそういうことです。

 労働省の雇用統計は、2つの異なる調査に基づいています。1つは、毎月の家計調査を行っていて、その中で求職活動についても調査しています。今年2月以降は、新型コロナが理由で失業していると答えた者の数は一貫して減っていましたが、9月は増加に転じました。巷では、賃金上昇が続いており、特に低賃金部門でそれが顕著で、また、求人も豊富にある状況でしたので、失業手当の割増を無くしても雇用者が増えるだろうと予測するのは妥当なことでした。雇用者数が増える要因が出揃っていたにもかかわらず、9月の労働参加率は若干ですが低下しました。ほぼ5月の数値と同じでした。5月と言えば、ちょうど全ての成人がワクチンを接種できるようになった頃です。労働市場は、ワクチンの効果がデルタ変異株の出現によって相殺されたような形になってしまいました。

 もう1つの調査は、企業に雇用環境について聞いているのですが、そこで明らかになったのは、新型コロナの影響を最も直接的に受けた業種の新規雇用者数が少なかったということでした。居酒屋やバーやレストランといった業種で顕著でした。1月~7月の間は、飲食業界では多くの店舗が再開したり制限を少なくしたりしたので、飲食業界の新規雇用者数は毎月20万人ほどで推移していました。それが9月には、わずか2万9千人でした。ほぼ8月と同じでした。レジャー娯楽産業全体では、就業者数は依然として新型コロナパンデミック発生前よりも160万人少ない状況で、2020年初頭と比べると約10%少ない状況です。9月の雇用統計をつぶさに見ると、新規雇用者数が少なかった(もしくはマイナス)のは、食品小売店や自動車製造関連でした。食品小売店は人々が出歩かなくなっている影響があり、自動車製造関連は新型コロナの影響でサプライチェーンの不具合の影響がありました。

 労働省が発表した雇用統計の数値は悪い数字ばかりではありませんでした。失業率が下がっており、久々に5%を下回りました。もっとも、これには労働力人口の減少も少なからず寄与したようです。9月の新学期到来に合わせて、小売業界は5万6千人も雇用者数を増やしました。また、法律、建築、技術コンサルティング等の専門的な職種で雇用者数が6万人増えました。また、新型コロナによってリモートワークが普及したことの恩恵を受けて、配送業と倉庫業で合わせて2万7千人雇用者数が増えました。全体としては、民間セクターの雇用者数は31万7千人増加しました。これはかなり良い数字です。

 雇用統計の数値が悪かったのは、州等の地方自治体の教育関連の雇用者が16万6千人も減ったことが主因です。新型コロナの感染者数が再度増えたことによって、多くの学校が閉鎖されましたが、それによって教育関連の雇用者数はそれなりに減りました。しかし、統計上で教育関連の雇用者数が急激に減った原因は他にもあります。労働省が月次の数値を報告する際には、数字を比較可能にするために季節の変動を補正しているのですが、それも一因のようです。「公立および私立の教育機関において新型コロナ関連で大幅な雇用者数の増減があり、今期の雇用統計は他期との比較が困難な状況である。」との注記がついています。

 9月の雇用統計には、もう1つの明るい面がありました。タイムズ紙によると、9月の雇用統計に関する家計調査と企業の雇用状況調査は9月12日(日)から始まる週に実施されたのですが、それ以降、新型コロナの週毎の新規感染者数は約40%の割合で減少していきました。感染者数が減少するにつれて、いくつかの経済指標が改善しています。レストランの予約数などが改善しているのです。感染者数が減り続けるようであれば、年末に向けて消費支出は力強く増えて、求人も増えるでしょう。求人口コミサイトのグラスドア(Glassdoor)でシニアエコノミストを務めるダニエル・ザオはツイッターで「今後数か月間は求人が増えるでしょう。感染者数は減り続けると予測されます。」とつぶやきました。

 新型コロナの感染状況が今後どのように推移するかは依然として予測不可能です。9月の雇用統計が発表された後、大統領経済諮問委員会はのブログを更新し、「新型コロナの感染状況が制御可能な状態となるまでは、景気は完全には回復しないだろう。」と記しました。最初のロックダウンが始まって以来、今もそうした状況は何ら変わっていません。ビル・クリントンは、1992年に大統領選挙戦を戦った際に、選挙参謀を務めたジェームズ・カービルが作った言い回しをちょっと変更した”It’s the economy, stupid(経済こそが重要なのだ、愚か者)”という言い回しを使いました。その言い回しは非常に有名になったので、米国では改変して評論家などによって繰り返し用いられるようになっています。現在の状況を示すには、”It’s the pandemic, stupid(パンデミックこそが問題なのだ、愚か者)”という言い回しがピッタリです。

以上