Why Dizziness Is Still a Mystery
めまいが未だに謎である理由
Balance disorders like vertigo can be devastating for patients—but they’re often invisible to the doctors who treat them.
めまいなどの平衡感覚障害は患者にとって深刻な問題ですが、治療する医師もよく分からない部分が多い。
By Shayla Love October 10, 2023
1.
昨年の8月のある日のことだった。朝起きてベッドを整えていたのだが、視野全体が急激に左にずれた。映画を見ている時に、誰かが映写機にぶつかったかのようだった。だが、0.5秒後には私の視野は元に戻った。枕を手に立ちすくんだ。注意深く周囲を見回した。私の部屋の家具は全く動いておらず、何の異常も無かった。しかし、何か不安な感じがした。周囲のものが金具等で固定されていないことに一抹の不安を感じた。
ブルックリンのイースト・リバー沿いをジョギングした。頭上には雲、足元には木板を敷いた遊歩道があった。何もかもが今までと同じで、何の変化も無いように思えた。しかし、午前7時の日差しが普段よりも明るく感じられた。また、水面のさざ波が普段と違ってぎこちなく見えた。非常に解像度の低い動画を見ているような感じだった。頭も重い感じがした。矛盾するのだが、頭が浮いているような感じもした。
自宅マンションに戻って、ヨガマットの上でストレッチをした。身体を傾けて頭を足に近づけると、部屋が回転木馬のように回り始めた。以前にもめまいを感じたことがあったが、これほど激しいのは初めてだ。横になったが、回転は速まるばかりだった。私は体を丸めて祈った。ただひたすらに回転が終わるのを待った。だが回転は終わらなかった。スマホを手に取り、近くに住む友人に電話をかけた。
友人を部屋に入れるために、入口のドアまで這っていった。「何だか体が変なの。」と、私は友人に言った。
救急治療室では、車椅子に乗せられた。立っていることができなかった。1時間ほどで、救急治療室の医療スタッフが脳卒中など命にかかわる症状がないことを確認してくれた。しかし、どこが悪いのかは分からないと言われた。めまいの発作(dizzy spell)の原因を特定するのは難しい。というのは、めまいは感覚であり、疾病ではないからだ。めまいは、さまざまな条件によって引き起こされる。医療スタッフの1人が、おそらく迷路炎(labyrinthitis)、つまり内耳で炎症が起きているのだろうと言った。カルテにもそう書き込んだ。
額の奥あたりが渦巻いている感じが昼も夜も続いた。パソコンの画面を見ることもできなかった。1週間半後には、執筆の仕事をキャンセルしなければならなかった。
めまいに関連するクリニックを探しまくって、あらゆる専門医に予約を入れた。聴覚訓練士(audiologist)に耳や鼻や聴力をチェックしてもらった。耳鼻咽喉科医(throat doctor)は私の耳に光を当てた。神経科医(Neurologists)は私の眼の動きを検査した。理学療法士(physical therapist)は、目を閉じて片足立ちをするよう求めた。診察を受けるためとはいえ、あちこち回る際にもめまいがしていた。街中を歩く際には、転倒しないようにゆっくり歩を進めた。受けた検査の結果は、すべて同じだった。全く異常は無かった。聴力も視力も問題ない。MRIでも全く異常は無かった。
神経科医に診てもらった際には、問診で病歴以外のことも聞かれた。子供の頃に車酔いしたか、ジェットコースターは好きだったか、ボートに乗るのは好きだったか、直近で生活に大きな変化は無かったか等々を聞かれた。そこで、ちょっと前進したような気がした。私はジェットコースターが嫌いだし、昔から車酔いしやすかった。直近で生活に大きな変化があった。長年付き合っていた人と別れ、10年ぶりに気ままな一人暮らしをしていた。仕事も辞めようと思っていた。
その神経科医は、私のめまいの症状は、身体的な問題が原因ではないと考えているようだった。私のめまいの真因を理解するには、身体的なことだけでなく、頭の中で何が起こっているのかということも考える必要がある。私が光に過敏であるというテスト結果と問診に基づいて、前庭片頭痛(vestibular migraine)という診断が下された。
前庭片頭痛の症状は、世界がクルクルと回転し、痛みのないめまいが何日も続くというものである。それは私の症状と一致しているように思えた。しかし、その診断にはしっくりこないところもあった。医療報道に携わっている私でさえ、前庭片頭痛という病名は聞いたことがなかった。前庭片頭痛という病名が示唆しているのは、片頭痛(migraines)という扱いにくい神経症状が、平衡感覚(sense of balance)を司る前庭系(vestibular system)に何らかの問題があって発生しているということである。
めまいの症状、症例は何千年も前から記録されている。昔から、医者にかかる最も多い理由の1つである。多くの人に共通の不定愁訴の1つである。めまいは、子供でも簡単に認識できる。リング・アラウンド・ザ・ロージー(Ring Around the Rosie:かごめかごめに似た歌遊び)ができる年齢なら、めまいがどんな感じかわかるだろう。しかし、めまいは痛みと同様、レントゲンやMRIで直接見ることができるものではない。めまいは、それを感じた患者が医師に説明する必要があり、空間識失調(vertigo)や意識朦朧(light-headedness)などの症状とも微妙に異なっていて、十分に深く捉えることは大変難しい。また、めまいは非常に患者を不安定にさせるのだが、そのこともあまり理解されていない。多くの医師が、めまいの発作(dizzy spell)を原因不明の症状と捉えていて、その病理は十分に解明されていない。だから、めまいで受診すると、迷路炎(labyrinthitis)、異常発作性めまい(mal de débarquement)、良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo:
略号BPPV)、メニエール病(Ménière’s disease)、前庭神経炎(vestibular neuritis)、前庭片頭痛(vestibular migraine)などの診断を下されることが多い。私を診た神経科医は、私の症状を表す新しい語を教えてくれた。しかし、私の体の中で何が起こっているのか、なぜ起こっているのかは理解できていなかった。片頭痛についての解説書をカバンに忍ばせていたが、何の役にも立たなかった。理由が分からず、悶々とするしかなかった。