めまいは辛い?だが、原因が特定されることはほぼ無く、適切な治療も施されない!治療法が確立するのはいつ?

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 何人もの医師を訪ね歩いて診てもらった。いろいろ調べたりもした。グーグル検索で、めまいの駆け込み寺(dizziness utopia)のようなものがあることを知った。ミュンヘンにあるドイツめまい平衡障害センター(the German Center for Vertigo and Balance Disorders:略号DSGZ)である。この施設はもともとドイツ連邦政府の資金で設立されたもので、2019年からはミュンヘン大学病院(the University Hospital of Munich)の学際的研究施設として運営されている。

 私は2月にそこに行った。ミュンヘンから電車に乗った。街の中心部から30分ほど離れていた。その施設は医療関連の研究施設が集積した巨大なキャンパス内にあった。DSGZにたどり着くために、地面に表示された色付きのラインと番号を頼りにした。非常に分かりやすく合理的な仕組みであった。迷路のように入り組んだ順路であったが、廊下や階段を抜け、脳と内耳や骨迷路のイラストが描かれたドアにたどり着いた。神経科医でDSGZ所長のアンドレアス・ツヴェルガル(Andreas Zwergal)が待っていた。彼は白衣を身にまとい、豊かな茶色の髪を蓄えていた。彼が動くと、その髪が躍った。

 ツヴェルガルはめまい専門医を目指したわけではないが、人生のほとんどにおいてこの症状と個人的な関わりを持ってきた。彼の父親は50代後半でめまいを感じるようになり、高校教師を定年前に辞めざるを得なかった。直近では、彼の妻が起床時にめまいに襲われた。彼はその場で症状を調べざるを得なかった。それで、前庭偏頭痛と診断した。私と同じ症状だ。

 私はノートを取り出して、ツヴェルガルに見せた。私は、めまいの原因と推測されるものを長年にわたって記録してきたのだ。迷路炎から低血圧まで、十数項目が記してあった。彼は特に驚くような感じではなかった。「どんな人でも長年生きていると、既往歴のリストは長くなるもんです。」と、彼は言って、椅子の背もたれにもたれかかった。優しい口調で、彼はこう付け加えた。「幸運にも、あなたは精神的に正常な状態を保って乗り切っている。しかし、患者の多くがうつ病や不安症を患ったりする」。

 めまいにもさまざまな症状がある。ツヴェルガルは、それを身振り手振りを交えて詳しく説明してくれた。良性発作性頭位めまい症(BPPV)のような前庭障害は、平衡感覚を狂わせ歩行に影響を与える。彼はよろめき歩きをした。一足ごとに腕を振りながら片側に傾いた。また、治療持続性姿勢知覚性めまい(PPPD)やメニエール病では、めまいが頭部に影響を及ぼし、知覚に不具合が出ることもある。彼は、今度は、片方のこめかみに手を当て、眼窩の中で目をぐるぐる回して実演し説明した。真剣に説明していた。ふざけやユーモアのかけらは全く無かった。彼が言うには、慢性的なめまいは、ほとんどの人が想像している以上に深刻だという。そうした症状がある者の半数は、パートタイムでしか仕事をできないか、仕事を辞めざるを得ないほどである。「良性発作性頭位めまい症(BPPV)の障害の重さを心臓発作(heart attack)と比較して評価するとしたら、ほとんどの人はめまい症の方が辛い気分だと言うでしょう。」と、ツヴェルガルは言った。

 DSGZには診察室がいくつもあり、それらは円弧形に配されている。めまいを測定する装置が置かれているが、それは診察室ごとに異なっている。「ここには、あらゆる測定装置が揃っています。」と、ツヴェルガルは言った。患者の大半は200マイル(320キロ)以上離れたところから来る。施設内を見せてもらった。1人の年配の女性が、スクリーンに映し出された黒と白のラインが水平に動くのを見ていた。別の患者は、看護士が持っている回転するシリンダーを見つめていた。これらの検査は目に異常がないかを調べるもので、めまいが目の動きに起因するものか否かが分かるという。 歩行検査室(gait room)もあった。 特殊なカーペットが敷かれている。患者を歩かせて、正確に加重、位置、速度を測定する。

 DSGZの目的の1つは、あらゆる種類のめまいの分類法を確立することである。私のような患者を正確に診断する時代がもたらされる可能性がある。近年、めまい専門医はTiTrATEと呼ばれる標準化された診断プロセスを使い始めている。TiTrATEは、めまいの性状が回転性か非回転性には拘らず、発症様式が急性に発症して持続するのか/発作性に繰り返し起きるのか(Timing)と、症状発現に誘引があるか/誘引なく突然起きたのか(Trigger)によって症状を区分し、それを区別するための眼球運動検査(targeted bedside eye examinations)を組み合わせたプロセスである。DSGZは、世界中のめまい専門医に患者の様子を記録した動画を送るよう要請し、臨床医と研究者が協力できるオンラインの仕組み”DIZZYNET”も立ち上げた。 いずれ、めまい専門医が患者の眼球運動、歩行パターン、視覚や聴覚の障害などをデータベースに登録された他のすべての患者と比較できる日が来るだろう。DSGZの分析担当のヴァージニア・フラナジン(Virginia Flanagin)は、眼球運動を測定・分析する方法を研究している。姿勢や立位について研究している者もいる。

 廊下でツヴェルガルが指差したのは、パウル・クレー(Paul Klee)が1922年に描いたセネシオ(Senecio:幾何学的な形と大胆な色使いで描かれた顔の肖像画です)のレプリカだった。オレンジ色の背景の前に、抽象化されて少し間抜けな感じで愛嬌のある顔が浮かんでいる。赤い瞳が象徴的であるが、それは一直線上にない。ツヴェルガルは、これは典型的な前庭の異常の1つで、斜偏倚(skewed deviation:眼球が垂直方向にズレている状態)と呼ばれるものだと説明した。「目は脳への入口である。」と、彼は言った。