何故?どうしてFacebook社はコンテンツ・ポリシーを変えられないのか?

4.Facebook社はフォロワーが多い政治家のアカウントは、ヘイトな書き込みをしても凍結されなかった

 グレイ夫妻がが入社した頃、英国の白人至上主義政党であるブリテン・ファーストのFacebookページには約200万人のフォロワーがいました。テレサ・メイ(当時の首相)のフォロワー数50万人と比べてもわかりますが、非常に多数でした。ブリテン・ファーストは恐ろしい行動をとっていました。ロンドンのイスラム教徒の居住地域を戦場仕様のジープで運転し、緑の迷彩服を着てモスクに突入していました。クリス・グレイによると、ブリテン・ファーストのメンバーのフェイスブックでは、好戦的な風貌をした集団がロンドンの街中を行進する動画が何度も投稿されていました。その集団は、イスラム教徒向けの肉屋やイスラム教のモスクがあちこちにあることを示し、あんなものはロンドンから無くそうと呼びかけていました。Facebookの投稿内容を検討する権限を付与されていたコンテンツ・モデレーターがブリテン・ファーストが暴力的な言動をしていると判断することは可能でした。なぜなら、ブリテン・ファーストという名前は、かつて米国のナチスのシンパサイザーによって使用されたスローガンであるアメリカ・ファーストにあやかっているという事実がありますし、彼らはreclaim(取り戻す)というという不吉な意味合いを持つ言葉を掲げていました。しかし。クリス・グレイには、コンテンツの内容をチェックすることは許可されていませんでした。ただ目の前のことだけをチェックして指示されたことだけに集中するよう指示されていました。ブリテン・ファーストの投稿は絶えず報告されていましたが、そうした投稿をクリス・グレイたちが削除すべき内容であるかどうかをチェックするよう指示されることはありませんでした。そうした投稿を削除するか否かチェックしない理由は、投稿の中の言い回しがあやふやすぎて判断できないからだということでした。

 イスラム教徒排斥主義者であり、ブリテン・ファーストの協力者の1人であるトミー・ロビンソンは、しばしば雑誌等のインタビューに応じています。インタビューでは、彼は自分の考えを率直に話します。ニュースウィーク誌とのインタビューでは、「イスラム教徒のヨーロッパへの侵略は許されない」と語っています。しかし、Facebookの投稿では、彼は明らかにもっと抑制的なトーンですし、イスラム教徒排斥をあからさまに訴えるようなことはありませんし、Facebookがヘイトスピーチと判断するだろうと思われるような表現は避けています。時々、クリス・グレイは次のように思うことがあります。コンテンツ・モデレーターは意図していないものの、ヘイトスピーチをする者にどこまでの内容なら許容されるかを示すコーチのような役割をしているのではないか、と。ロビンソンやブリテン・ファーストの代表が何か問題がありそうな投稿をすると、Facebookのコンテンツ・モデレーターは、削除すべきコンテンツには印を付けます。それを上位職の監査員がチェックしますが、その内のいくつかは、削除しなくても良いという判断を下されます。そうなると、コンテンツ・モデレーターが目にするのは、自分の評価点が下がっているということです。評価点は28点以上を維持していないとコンテンツ・モデレーターの職を外されてしまうのです。

 通常、Facebookページで複数回の規約違反をすると、そのページは封鎖されます。しかし、ブリテン・ファーストとトミー・ロビンソンのFacebookページは一度も封鎖されたことがありません。明らかに、彼らのFacebookページは保護(shielded)されています。保護(shielded)とは、メンロ・パークのFacebook本社によって削除することを制限されているという意味のFacebook社内の隠語です。しかし、Facebook社がコンテンツ・モデレーターに、どういう基準で保護(shielded)するページを決めているか説明することは一切ありません。しかし、どういうページが実際に保護(shielded)されているかというと、フォロワー数が非常に多いページであったり、文化的、政治的な影響の大きい人のページであったりすることが多いようです。そういうページを遮断することは、結果として収入の大幅な減少を招くからだと思われます。