何故?どうしてFacebook社はコンテンツ・ポリシーを変えられないのか?

6.Facebook社の経営幹部は問題の重さを認識できていない

 Facebook社のコンテンツ・モデレーターは、福利厚生は不十分で、雇用保障もほとんどありません。彼らの労働組合はコリ・クライダー(ロンドンを拠点とする弁護士であり活動家)と懇意にしています。クライダーはテキサスの片田舎で育ち、高校卒業時にそこを出て、オ-スチンで学んだ後、ハーバード大学で法律を学びました。その後、ロンドンに渡り、小さな人権団体で10年間働きました。グアンタナモ基地の収容者、イエメンとパキスタンのドローン攻撃の犠牲者の親族の権利のために仕事をしたこともあります。彼女は次のように言います、「ドローンが引き起こす危険について調べていく中で、テクノロジーの引き起こす問題について重大な懸念を抱くようになりました。誰もが国防総省が安全保障の為に諜報活動する方針だということに懸念を抱いていますが、そんなことよりも、カリフォルニアの少数のIT企業が膨大なデータを持っていることの方が怖いことだと思います。どんな国が情報を集めようとしても太刀打ちできないほどのデータ量です。」と。

 昨年、彼女はFoxgloveという非営利団体の共同設立者となりました。といっても従業員は彼女を含めて2人のみです(Foxgloveはジキタリスとしても知られている野生の花)。ジキタリスは、摂取方法によって人間にとって毒になることも薬になることもあります。この団体の使命は、テクノロジー業界で最も脆弱な労働者の権利を強化することです。そのために、そうした人たちの職場の清掃をしたこともあるそうです。彼女の大きな目標は職場環境をより良くすることです。彼女は「The Age of Surveillance Capitalism(監視資本主義の時代)」の著者ショシャナ・ズボフの影響を受けています。その著書は、Facebookのような巨大な装置は、民主主義に潜在的な脅威をもたらすと主張しています。クライダーの分析によれば、どんなに優秀な技術者でもFacebookのガイドラインを確実に遵守した上で、Facebookの問題の核心に対処することは不可能です。Facebookのコンテンツ監視の方針は、Facebookの監視アルゴリズムが魅力的で感情を揺さぶるようなコンテンツを増幅させ続けている限り、変わることはないでしょう。Facebookの監視の方針を変えられるかといったら、それはもう別のビジネスみたいなものですし、あまり儲かりそうになビジネスではないでしょうから、そんなことは起こり得そうもないのは、クライダーにとってはやるせないことです。クライダーは言います、「ネット上で物騒な投稿で注目を集めてそれを収益化する行為に対して全世界で差し止め訴訟をしよう思います。それが実現するまでは、プレッシャーをかけるため具体的な行動を起こし続けるしかありません」と。

 2019年7月にクライダーは、1人のFacebook社のコンテンツ・モデレーターと知り合いました。Facebook社のシステムの全体像を把握している人でした。そのコンテンツ・モデレーターはクライダーに他のコンテンツ・モデレーターを紹介してくれ、更にそのコンテンツ・モデレーターが他のコンテンツ・モデレーターを紹介してくれました。クライダーは、情報を提供してもらうよう各コンテンツ・モデレーターに依頼しました。時には、ミーティングする場を作ったり、いろんなところまで出かけて行きました。すっぽかされたりすることもありました。クライダーに情報を提供した人達は、ほとんどの場合、録音するとか記録を残すことは厭いました。クライダーは、この聞き取り作業でイエメンやパキスタンで現地の人たちの信頼を得るために費やした日々のことを思い出しました。今回の聞き取りも、イエメンやパキスタンの聞き取りでも、相手には話す理由がほとんどありませんでした。もしくは、話さない理由をなんやかんやとこしらえていました。コンテンツ・モデレーターはまだ彼らの労働組合を結成するような準備はできていませんでした。そんな可能性はとても低そうな状況です。それでも、クライダーは彼らに階級闘争とか団結することの大切さを説いていこうと考えていました。

 昨年10月、クライダーはロンドンで開催された会議でクリス・グライと会いました。彼女は彼にジャーナリストや活動家を紹介し、彼の話題が広まるのを助けました。その2か月後、グレイは現地の法律事務所を使い、アイルランド高等裁判所にFacebook社を提訴しました。訴因は、非常に不快で、生々しく、暴力的なコンテンツを繰り返し容赦なく露出したことにより心的外傷を負わせたということです。その後すぐに、20人以上のダブリンのFacebook社の拠点で働いていたコンテンツ・モデレーターが、グレイが使った法律事務所と接触し、Facebook社に対して訴訟を起こすことが可能か否か相談しました。

 グレイはFacebook社を去った直後にザッカーバーグと同社の最高執行責任者であるシェリル・サンドバーグに5,300語のメモを作りました。Facebook社のコンテンツ監視のプロセスに対する批判を繰り広げました。彼はいくつかの修正すべきことも提案しました。細かい点で言えば、ホットキーシステムが分かりづらいので改善すべきであるということを挙げ、抜本的な部分では全てのユーザに対するプライバシーポリシーを書き直すべきだということも挙げました。しかし、彼が根本的な問題であると考えたことにFacebook社では誰も対処していません。クリスは、次のように思いました。Facebook社は全体としてコンテンツ監視に責任を持って取り組んでおらず、明確な戦略も無く、適切に対応する技術も能力も無い。それで、現場で仕事している人々は、必要な道具も無く正しい指示もなく大きなプレッシャーに晒されながらコンテンツ監視をしているのです。そこでは、リーダーシップも明確な道徳的指針もありません。グレイは作ったメモを電子メールで匿名のメールアドレスからザッカーバーグとサンドバーグに送りました。