9.王滬寧(ワン・フーニン)の影響力は強いのか?
Q.王滬寧(ワン・フーニン:Wang Huning)の話が出ましたが、彼の影響力はかなり大きいのでしょうか?
A.それは大きな謎で、明らかになっていません。彼は江沢民(Jiang Zemin)が総書記を務めていた際に重要理論の起草に関与し、胡錦濤(Hu Jintao)にも仕えました。しかし、彼は習近平(Xi Jinping)が総書記に就任するまで共産党指導部には入れませんでした。彼は党内きっての理論家だったので、これまで3人の国家主席の目玉となるスローガンを考案したのですが、シンクタンクのような役割を果たしてきたものの、次官級、大臣級の役割だったわけで、特に強い権力を持っていたわけではありません。しかし、習近平が地位を上げていくのに伴って、彼は共産党政治局員になりました。これは彼のような学者出身の者にとっては異例の抜擢と言えるもので、序列も考えられないほど高いものでした。そして、共産党第19回全国代表大会で共産党政治局常務委員に昇進しましたが、学者出身の者が常務委員になったのは初めてのことでした。彼のキャリアのスタートは復旦大学の教授だったことを考えると驚くべきことです。私はいつも教えている学生たちに、「彼は世界で最も権力を持った教授である」と冗談で言っているわけですが、実際その通りです。そして、彼がなぜそれほど高位まで登りつめることができたのかは大きな謎です。彼はとても信頼されているようです。彼が信頼されている理由の1つは、彼自身に政治的な野心がないことだと思います。そのことは非常に明白で、彼が信奉者を増やそうとしていないことからも明らかです。彼が何十人もの信奉者を育てているのを目にすることは無いでしょうし、彼が自分の信奉者を重要な地位に押し上げるようとするのを目にすることも無いでしょう。
彼がそのようなことに興味が無いのは明らかなようです。習近平が彼を降格させようと思えばいつでもできますし、昇格させるのもいつでも簡単にできるでしょう。おそらく、彼が自分の序列を上げるためにロビー活動したりすることは無いでしょう。彼には政治的野心が全く無いわけですが、そのおかげで彼は比較的客観的な意見を言うことができるのでしょう。ゼロコロナ政策が見直されたわけですが、習近平は彼の提案をきっかけに考え方を変えたのかもしれません。意外かもしれませんが、安易に習近平が王滬寧の提案に乗っかったというのが事実なのかもしれません。習近平は心の中で呟いたに違いありません、「王滬寧には政治的野心が無いのは明白で、裏に複雑な動機があるわけでもなく、この提案は信用する価値があるに違いない。ならば、提案どおりゼロコロナ政策の見直しに踏み切るのも手かな。」と。そんな感じでことが進んだのだと思います。
10.今後、中国で抗議デモが増えるのか?
Q.今週、中国がゼロコロナ政策の見直しを公表したことは賢明なことだったのかもしれません。というのは、権威主義的な国々は往々にして状況に適切に対応しないことで批判されることが多いのですが、即座に適切に対応するという姿勢を示したのですから。同時に、中国国民が抗議デモによって政府を動かすという結果を得ることができると考えるようになってしまうと、長期的に見るとリスクが高まった可能性があるかもしれません。中国の政治的変化を願う者たちが、勇気づけられたように感じて活動を活発化させるかもしれません。習近平政権は、そうしたことが起こると危惧していないのでしょうか?危機感のようなものは持っているのでしょうか?
A.中国政府にとっては、抗議デモによって政府を動かせるという認識が国民の間に広がることは、非常に大きなリスクとなるでしょう。現在、中国政府は、人々が他の都市で抗議デモが発生していることをどのようにして知ったかということと、抗議デモがどうやって全土に波及していったかということを膨大な労力を割いて調査しています。中国政府は、半日とは言わないまでも1日あれば、抗議デモを沈静化することができます。検閲することも可能です。いわゆる機械学習のテクノロジーも非常に進化していますので、抗議デモに関連したメッセージが拡散されると、それを自動的に認識することが可能で、それが検閲強化に繋がっています。検閲はリアルタイムで行われています。ですので、中国政府にとって都合の悪いメッセージは1分も経たずに削除されてしまいます。上海や他の都市で発生した抗議デモを見て、即座に自分の街でも抗議デモを起こそうと考える人もいるでしょう。ですから、中国政府は今後そうしたことが起きないようにするために、今回発生した各地の抗議デモをつぶさに研究しているのです。しかしながら、抗議デモを将来に渡って発生させないことは、ほぼほぼ不可能であると言わざるを得ません。というのは、今回の抗議デモに参加した者の多くが、抗議デモによって政府の政策を変更させることができるという認識を持つに至ったからです。そのことに勇気づけられた彼らが抗議デモという手段を捨てることはないでしょう。
忘れてはならないことは、中国のほとんどの人は、過去30年間、政治的な抗議デモをしようと考えたことが無かったということです。そもそも、ほとんどの中国人は、抗議デモをすることが可能であるとは考えていませんでした。そして、今回の抗議デモで明らかになったのは、政治的な抗議デモをすることも、大きな変化を要求する抗議デモをすることも、それが不可能ではないということです。抗議デモをすると逮捕拘禁される危険性がかなりあります。それでも、今後は抗議デモに賛同して加わってくれる人も出てくるでしょう。長年に渡って、抗議デモに賛同して声をあげる者は全く居ませんでした。正しいことを言いたくても逮捕されることが怖かったからです。今回は、多くの人たちが抗議の声をあげました。そして、危険を顧みず多くの者が抗議デモに加わりました。今後抗議デモをしようとする者は、多くの同調者が存在していて、その中からたくさんの者がデモに加わってくれるに違いないと考えるでしょう。ですから、もっと積極的に抗議デモをするようになるはずです。たとえ、逮捕拘禁されたとしても、いつかは釈放されます。何らかの危機が訪れれば、彼らは再び抗議デモをするはずです。政治的な要求を掲げた抗議デモの回数が増えるだろうと私は推測します。あちこちの都市で抗議デモが頻発するでしょう。それは1989年以降見たことのない光景です。♦
以上