What Does Xi Jinping Want?
習近平は何を望んでいるのか?
The machinations behind his recent military purge, and whether China sees an opportunity in Donald Trump’s aggression toward Europe.
人民解放軍幹部粛清の背後にある策略、そして中国がドナルド・トランプと欧州との対立を好機と捉えているかどうか。
By Isaac Chotiner February 12, 2026
ここ数年で習近平( Xi Jinping )国家主席は数十人の人民解放軍幹部を解任してきた。先月には人民解放軍の最高幹部だった張又侠( Zhang Youxia )を「重大な規律違反および法律違反( grave violations of discipline and law )」の疑いで捜査対象とした。習近平は長年にわたって中国共産党( Chinese Communist Party:略号 CCP )と人民解放軍( P.L.A. )の指導部における腐敗の蔓延を警告してきた。張のように朋友や腹心とみなされていた党や軍の幹部の多くを粛清してきた。こうして習近平は中国共産党内での地位を強化し、毛沢東( Mao Zedong )以来最も強力な指導者とみなされている。今回の動きで、彼は中国共産党内で具体的に何を達成しようとしているのか。また、軍部の再編は台湾に対する動きの前兆なのではないか。そのあたりが、現時点では読めないところである。
私は先日、中国関連のニュースレター「シノシズム( Sinocism )」を配信し、20 年以上にわたって中国を研究してきたビル・ビショップ( Bill Bishop )と電話で話をした。誌面の関係上会話は長さと明瞭性を考慮して一部編集している。私は彼と、習近平の攻撃的な統治スタイルの背景にあるもの、トランプ政権の NATO 同盟国軽視を中国が地政学的な機会と捉えているかどうか、中国共産党内での粛清が歴史的にどのように機能してきたかについて議論した。
Q:今日の中国において、「反腐敗運動( anti-corruption campaign )」はどのような意味を持つのか?それは実際に起こっていることをどの程度正確に表現しているのか?
A:私は 2005 年から 2015 年まで中国に住んでいた。つまり、胡錦濤( Hu Jintao )政権時代と、習近平政権の最初の 3 年間を中国で過ごしたことになる。胡錦濤政権最後の数年間、つまり 2012 年に幕を閉じた時期には、腐敗が制御不能なレベルで蔓延していた。事態が極めて危険な方向に悪化し続ける可能性を強く感じるレベルであった。だから、習近平の反腐敗運動を理解するには、実際に腐敗問題が存在していたことを理解するだけでなく、彼が中国共産党内の中央紀律検査委員会( Central Commission for Discipline Inspection )という機関をどのように利用していたかを認識する必要がある。この委員会は腐敗撲滅を目的としているが、同時にイデオロギーの強制や、中国共産党版のポリティカル・コレクトネス( political correctness )の重視も目的としている。(ポリティカル・コレクトネスとは、人種、性別、性的指向、宗教、身体的特徴などに基づく差別や偏見を防ぐため、中立的な言葉や表現を使用する考え方のこと)
習近平の反腐敗運動は、実際に蔓延っている腐敗に対処するものであったが、同時に、彼が中国共産党のイデオロギー的輪郭を再構築し、政治的・イデオロギー的強制力を強化するために利用してきた手段でもある。腐敗は、多少改善されただけで、依然として問題のあるレベルである。しかし、反腐敗運動は常に多面的な取り組みであり、腐敗撲滅以外の面では彼にとって多くの成果があったと言える。
Q:具体的に何が制御不能だったのか、そして誰にとって危険だったのかについて詳しく教えてもらいたい。
A:中国では、アメリカの金ピカ時代( Gilded Age )レベルに腐敗が蔓延していた。少数の特定の者たちが基本的に法を超越した存在になっていることが周知の事実であった。彼らはそれを公然と誇示していた。それは非常にあからさまな貧富の差であり、その格差は拡大し、それが真の社会的不満を引き起こす可能性が高まっていた。そして同時にインターネットが爆発的に普及し、突然、多くの中国人がとんでもない腐敗事件の数々を認識するようになった。ニューヨーカー誌で、エヴァン・オスノス( Evan Osnos)が 2012 年に素晴らしい記事を書いている。それは、警察署長が署内で働く 2 人の姉妹と不倫関係を持ち、経済的に支援していたとされるセックススキャンダルに関するものである(姉妹を公費で賄ったマンションに住まわせ、昇進させた)。警察署長が釈明に追われた。彼が釈明したのは不倫関係にあった 2 人の姉妹は双子ではないということである。「双子ではない」ことを強調したわけだが、残念なことに本人だけが問題はそこじゃないことを認識できていなかった。この話は言語道断の出来事であり、手に負えないものだったため、すぐさまオンライン上で拡散された。この事件は、腐敗を抑制できなければ、社会的緊張が悪化することを暗示していた。放っておけば政治体制が危うくなり、共産党自体が崩壊する可能性もある。ようやくそれを中国共産党が理解したのはこの頃である。
Q:しかし、中国共産党内部の腐敗は依然として続いている。習近平主席の家族も腐敗に手を染めていることは周知の事実である。ただ、目立たなくなっているだけなのか?
A :そのとおりで、汚職が全く存在しないと考えるとしたら、それは無知すぎると思う。今は以前よりはるかに隠蔽され、見えにくくなっている。これは社会の安定という観点からすれば重要である。汚職が起こっていても、人々がそれに気づかないようになっている。ある意味で隠蔽されていると言える。隠蔽は情報統制を厳しくすることで可能になっている。6、7 年前と比べたらはるかに統制が厳しくなっている。中国の汚職について 1 つ言えるのは、胡錦濤時代後半の数年間は甚大な汚職が蔓延していたが、中国では機能不全はそれほど見られなかったということである。そこは他の多くの汚職が蔓延して制御不能になった国々と違う点である。当時、中国は高速鉄道網を建設したが、指揮した劉志軍( Liu Zhijun )は汚職で終身刑に服している。つまり、確かに汚職は存在するが、それは実際に物事を成し遂げるのを妨げるものではなく、物事を成し遂げるための税金のようなものだったのである。真のリスクは、政治の腐敗ではなく、社会の安定と世論への影響の可能性である。軍隊だけでなく民間でも昇進を金で買う人がいた。昇進は金儲けのチャンスだったからである。
Q:この反腐敗運動にはさまざまな段階があったのか?また、その輪郭は習の政治的優先事項について何かを明らかにしているか?
A:当初、習は人民解放軍の文職幹部(背広組)に狙いを定めていた。手始めに必ずしも自分を支持していない文飾幹部の人脈を解体し、自らの側近を送り込んで支持基盤を築いた。独裁者として自身の地位を確固たるものにしたいのであれば、最終的には制服組の中の不満分子を駆逐し統制する必要がある。文職幹部は習近平にとって最も手頃な標的であった。制服組に比べれば赤子を捻るようなものである。人民解放軍は長年にわたって、多くの改革や粛清に抵抗することに成功してきた。そこで習近平はまず文職幹部を標的とし、その後、人民解放軍の制服組に狙いを定めた。
Q:中国人民解放軍でそれが始まったのはいつか?
A:何か大きな出来事が起こる兆しとなった真の転機は、2014 年の秋である。1929 年、毛沢東は古田会議( Gutian Conference )を開催した。これは、中国共産党が軍を掌握し、毛沢東自身の権力を強化するための会議だった。習近平は 2014 年に事実上これを再現した。古田村で、軍幹部が一同に会する全軍政治工作会議を開催した。この会議で発せられたメッセージと、その後の習近平の行動から、これが人民解放軍内部における大規模な反汚職運動の始まりであったのは明らかである。これには複数の目的があった。当時、人民解放軍には深刻な汚職が蔓延していた。ある地位に昇進するためには、現実的には昇進を買収するしか手立てがないという深刻な状況に陥っていた。様々な人たちが昇進を願う者に資金を提供するようになった。その人物が昇進すれば、利得の機会が広がり、おこぼれで利益が得られると考えたのである。人民解放軍の多くの将校がエンジェル投資を受けているような状況だった。
習にとって喫緊の課題は、いかにして人民解放軍内の人脈を解体し、自分の息のかかった人物を差し込むかであった。それは究極の目標、つまり人民解放軍を統制し、強固な軍にすることにも繋がる。
Q:張又侠の粛清はこの戦略の中で意味があるか、それとも何か新しいことのように思えるか?
A:張又侠は胡錦濤が国家主席をしていた頃の極度に腐敗が蔓延していた時代に成功し昇進した人物である。彼は一時期、人民解放軍の装備部門と兵器開発・調達プログラムを統括していた。過去数十年にわたる人民解放軍の予算の増大を考慮すると、莫大な汚職の機会があった。そして、14 年の全軍政治工作会議以降、共産党は人民解放軍の幹部に対する徹底調査を継続してきた。現在、かつては 7 人いた中央軍事委員会のメンバーは 2 人まで減った。残っているのは習近平と副主席の張勝民( Zhang Shengmin )のみである。
しかし、なぜ今それが起こっているのか、なぜ習が性急にことを進めているのか?それについては、私は明確な答えを持っていない。おそらく、明確な答えを持っている者は存在していないだろう。今回のような粛清をするには、しっかりと根回しをして、十分な根拠を持たないといけないと主張する者もいる。たしかにそのとおりで、それは地位が上がれば上がるほど難しくなる。張又侠が習近平に対するクーデターを企てていたという噂もある。しかし、私はそれはデタラメだと思うし、結局のところ、誰にも本当のところは分からない。まさにブラックボックスである。
Q:あなたはまだ言及していないが、習による解放軍幹部粛清の背景には、彼が自身の外交政策の優先事項に合致する人材を配置したいという魂胆があるか?
A:かつて習近平は、能力の高い軍を組織するためには、腐敗を一掃する必要があると述べた。これが粛清の理由の 1 つである。人民解放軍を統制すること、人民解放軍指導部に自分の息のかかった人物を配置することはいずれも重要である。同時に、人民解放軍を優れた武器を持ち、戦闘能力も高い、強固な軍隊にすることも重要である。共産党指導部は常に戦闘と勝利について言及している。習近平が夢想している人民解放軍の究極の姿は、高い戦闘能力を備えて戦闘では必ず勝利する、世界に誇れる軍隊である。
Q:習近平が強い軍を欲していることは確かである。しかし、民主主義国家であろうと非民主主義国家であろうと、どんな国の指導者でも、有能な軍を保持することを望んでいる。これは万国共通である。しかし、外交政策の優先事項が何であれ、それと明確に合致する人物を軍幹部に据えたいと習近平が望んでいるわけだが、これは万国共通ではない。彼は他国の指導者と何が違うのか。
A:あなたがそのような質問をする背景には憶測があると推測する。それは、今回の一連の粛清は、例えば張又侠が台湾問題で習近平と足並みを揃えていなかったことがきっかけであるとするものである。たしかに、習近平が人民解放軍に求める行動と軍指導部の要求との間に隔たりがあったとする憶測が飛び交っている。可能性としてはあり得るが、私はそうした見方には懐疑的である。というのも、現在の中国共産党の体制を考慮すると、人民解放軍の幹部たちが習近平に実際に刃向かっていたとしたら、もっと衝撃的な事態になると思うからである。可能性としてはあり得るが、真相は分からない。中国では、真相がわからないことこそが問題なのである。
Q:粛清された解放軍幹部に何が起こるか知っているか?
A:背広組の場合、通常の裁判が行われ、その後、数年の懲役刑、あるいは終身刑が宣告される。背広組では高位の者であっても処刑されることは稀である。財務会計サービス部門の人物が処刑されたケースがいくつかあるようである。粛清と言ってもおそらくは北京郊外にあるクラブ・フェド( Club Fed:アメリカの収容環境の緩い連邦刑務所。クラブ・メッドのもじったもの)のような施設で、かなり快適な刑務所生活を送ることになる。制服組で粛清された幹部については、過去に事例がなくどうなるかは不明である。