習近平の“大粛清ショー” 人民解放軍と世界秩序を弄ぶのは独裁者の末期症状?

Q:トランプ大統領がここ数カ月、 NATO 同盟国との関係を悪化させている。これがアメリカの外交政策を根本的に変える可能性があるのではないかとの懸念を生じさせている。中国共産党は、トランプ政権が国際関係を劇的に変える可能性があると考えているのか?そして、それは中国にとって有利になる可能性はあるか?

A:習近平がここ数年主張してきたのは、現在の世界情勢は過去 100 年間で見られなかったほど大きな変化の渦の中にあるということである。そして、トランプ政権の最近の動きは、その主張を裏付けるものとなっている。つまり、中国共産党は世界が大きく変化していることを認識している。

中国共産党にとって、このことは良い面と悪い面の両面がある。中国は長年にわたって国際秩序に関するアメリカの存在感を可能な限り薄くすることを目指してきた。そうした中国の対外プロパガンダ戦略にとって、大きな好機となりつつある。現在、アメリカは多くの点で中国共産党のそうした目標の達成を支援する形になっている。トランプ政権は過去のどの政権よりも多くの支援を行っていると言える。しかし、同時に中国共産党はアメリカ主導で維持されてきた国際秩序から多大な利益を得ていた。おそらく中国共産党が最も懸念しているのは、国際秩序が崩壊して大混乱に陥ることだろう。中国共産党は、国際秩序維持におけるアメリカの存在感が徐々に低下することを望んでいるだろう。この機会を上手く捉えて自国の存在感を高める方策を練っていることだろう。実際、過去 10 年ほど既にそうしたことを非常に巧みに行ってきた。

Q:中国共産党はどのような行動をしてきたのか?

A:ご存じの通り、中国は国連での影響力を高めている。また、中国は台湾は不可分の領土であるとの妄想的な主張を繰り返しているが、グローバルサウス諸国にこの支離滅裂な主張への支持を求める活動に勤しんでいる。世界の大多数の国で、中国は台湾奪取のための布石を打っている。経済支援と引き換えに、「一つの中国」原則への支持を取り付け、国際社会での孤立化を防ぎ、着々と台湾問題は内政問題であるという認識を各国に浸透させている。例えばバイデン政権下で NATO が東京に事務所を開設し NATO がアジアに足掛かりを作るという計画があったが、それを中国は声高に批判した。中国共産党は、NATO のアジア進出は戦争のリスクを高めると主張する宣伝工作をねちねちと続けた。現在、トランプ政権のウクライナ対応やグリーンランド領有権主張の影響で、 NATO 加盟国とアメリカの間に軋轢が生じている。 NATO が崩壊するわけではないし、各国がアメリカという国を憎んでいるわけではないが、長年にわたる同盟関係に亀裂が生じる可能性がある。中国はそこに何とかしてつけ入る方法がないかと考えている。もし中国がロシアのウクライナ侵略を支援していなかったら、西側諸国に亀裂が生じた事態をもっと上手く活用できていただろう。

Q:中国がロシアを継続的に支援している件について質問する。中国がアメリカに取って代わり、ステータス・クオ・パワー( status-quo power:現状維持勢力。国際システムや既存の秩序において、現在の有利な立場やルール、勢力均衡を維持・防衛しようとする国や勢力)になったと主張する者が少なくない。実際、トランプが NATO 首脳の一部を疎外する中で習近平国家主席と接触したことで、 中国の存在感は増しつつある。しかし、中国が国際秩序維持で存在感を高めようとする際に大きな問題となるのは、ウクライナ紛争のさなかにあるロシアとの緊密な同盟関係である。中国はロシアを支援しているが、ロシアとの同盟関係から得られるものなど無いのではないか?

A:おそらく中国共産党は、アメリカの後ろ盾のない NATO 加盟国を骨のない相手であると思っているだろう。中国共産党はロシアとの関係、特にプーチンとの関係を非常に重要だと考えている。プーチンがウクライナ戦争で負けたり、権力の座から滑り落ちれば、習近平にとっては悲惨な結果となるだろう。中国はロシアと国境を接している。ロシアがウクライナと対峙している状況は中国にとって好都合である。ロシアはウクライナに完全に集中せざるを得ないし、中国はロシアの豊富な資源を欲しているからである。また、ロシアが保有していて中国が保有していない潜水艦関連の技術を中国が入手したがっているという話もある。習とプーチンが非常に親密な関係に見える理由の 1 つは、ソ連崩壊が 20 世紀最大の悲劇の 1 つだという認識で両者が一致していることにある。また、習の反西側諸国的、反米的な傾向もプーチンと一致している。。

欧州と中国の緊密な関係構築を阻むもう 1 つの大きな障害は、中国の重商主義的な貿易政策である。自国の経済的利益の大部分が中国との競争によって損なわれていることを各国が認識し始めている。特にドイツは大きな被害を被っている。しかし、私の知る限り、中国は、欧州各国に真摯に対応する姿勢を見せていない。「仕方がない。中国は台頭し、巨大化し、中国経済は強力になった」と主張するばかりである。欧州各国の非難に耳を傾けることはないし、「自国の重商主義的な政策を見直す」という姿勢は全く見せていない。アメリカは中国のこうした行動を見て、ほくそ笑んでいる。中国のこうした頑固さは他国の反発を招くだけで利益は全く無い。もし中国が重商主義的な政策を改めることができれば、欧州諸国との関係を今よりもはるかに進展させることができるはずである。

Q:習近平の腐敗撲滅運動、不満分子粛清について質問したい。解放軍幹部や中国共産党指導者層の裁判は時間がかかると先程あなたは言ったが、とても興味深いことである。なぜなら、独裁体制を敷く国がいくつか存在しているが、独裁者が何かを望めば一夜にして実行されるという国も少なくないからである。

A:たしかに習近平は最高指導者であり、責任者であり、ボスでもある。しかし、中国は巨大な国であり、非効率ながら巨大な官僚機構が存在し、形式的ではあるが文民統制が図られている。経済改革の取り組みを見れば、習が何かを言ったからといって、それがすぐに実現するわけではないことが分かる。官僚機構の末端に行くほど、事態はより歪んでいく。

これは中国共産党だけの問題ではない。中国のこの問題は数千年も続いているもので、古代中国の皇帝制度においても事例がたくさんある。習近平は独裁者なので何でもできる、と考える者がいる。一方で、習近平は巨大な官僚機構を統率しているだけで、独裁者ではないと考える者もいる。この単純な二元論で論じることは誤りである。どちらも厳密には正しくないからである。習は望むことを多く実現できる。しかし、命令を発すれば何も考えず全員が即座に従うわけではない。

Q:習近平に関する情報を入手するのは、前任者と比べると難しいのか?

A:現状では、はるかに難しくなっている。外国のメディアだけでなく、中国のメディアや国民でも難しい状況である。習に関する情報は統制されており、国の内外を問わず大幅に制限されている。彼は、中国が最も豊かで強力であると言える時代を率いた指導者である。そういう意味で、中国では非常に稀な存在である(少なくとも近現代では)。彼には大国ゆえの影響力、実行能力、資源・資金が備わっている。それらは彼の前任者の多くには無かったもので、彼らは大国に蹂躙され続けるしかなかったのである。

メディア、特に西側諸国のメディアはあまり取り上げていないが、中国は経済的なデカップリングを推進している。多くの分野で自立を求めることは、アメリカが中国の主要技術へのアクセスを制限していることを考えると、全く正当なものである。習近平主導で、中国は知的分野でもデカップリングを推進する構えである。中国共産党は中国の近代化の理念を高らかに語る。それは西洋の近代化とは一線を画すものだと主張している。西洋の近代化は、植民地主義的略奪、帝国主義的略奪が付き物であった。中国共産党は、経済学、哲学、社会科学など、あらゆる分野において、過去数世紀にわたって科学の発展を主導してきた西洋のシステムから効果的にデカップリングしようとしている。中国独自の知識体系を構築しようと目論んでいる。習が夢見ているのは、強力な軍事力を持ち、経済的に豊かな国にすることだけではない。裏にもっと大きな野望があるはずである。♦

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