結語 グリーン成長政策を目指すべき
環境負荷の大きさと貧しい国々の窮乏状況を考慮すると、グリーン成長政策が唯一の選択肢のように思われます。しかし、しばしば、グリーン成長とい概念では、「成長」よりも「グリーン(環境負荷の少ないこと)」が強調されがちです。ケイト・ラワースは、長期的な経済成長率にどのように影響するかわからない場合でも、環境に配慮した政策を採用するべきだと提案しています。グリーン成長戦略を進めるために取りうるべき選択肢はいくらでもあります。まず、すべての主要国は、パリ協定で割り当てられた各国毎の削減目標を確実に達成するための行動を起こすことです。再生可能エネルギー関連への多額の投資、既存の石炭火力発電所の閉鎖、化石燃料の使用削減のための炭素税導入をしなければなりません。世界銀行の経済学者イアン・パリーによると、排出炭素1トン当り35ドルの炭素税を課すだけで、ガソリン価格は10%、発電コストは25%上がるので、中国、インド、英国を含む多くの国がパリ協定の削減目標を達成することが出来るだろうと主張しています。この種の炭素税を課すことで多額の資金を調達することが出来ます。その資金を環境に優しい投資に回したり、他の税金を減税したり、炭素を削減した配当金として人々に配賦する際の原資とすることも可能でしょう。
エネルギー効率を真剣に考えることも重要です。2018年のニュー・レフト・レビュー誌の記事で、マサチューセッツ大学アマースト校の経済学者であり、多くの州のグリーンニューディール計画の策定を支援した実績のあるロバート・ポーリンは、エネルギー効率を改善することが出来る実施可能な対策をいくつか列挙しました。古い建物の断熱化、自動車の燃費の向上、公共交通網の拡張、製造業でのエネルギー使用の削減等です。彼がその記事の中で述べているのは、エネルギー効率の改善への投資を拡大することは、生活水準の向上に寄与するということです。なぜなら、エネルギーのための支出が純粋に減らせるからです。
GDP成長率の鈍化の影響を少なくするためには、ワークシェアリングやベーシックインカムなどの政策も有効と思われます。人工知能によって沢山の人の職が奪われるという予測が現実となりそうですから、それらの政策はより重要になるでしょう。英国では、ニュー・エコノミクス・ファンデーションという団体が、週間労働時間を現在の35時間から21時間に減らすことを要求しています。これは、かつて、ビクターがコンピューターモデリングを使って提唱したことやケインズが1930年の論文で述べたことを彷彿とさせる提案です。それらの提案では、より高い税率にする必要があり、特に富者への税率は高くする必要があり、その税金を再分配する必要があります。経済成長率が低い世界で、不可欠なのは成長の果実が公平に分配されることです。そうでなければ、ベッカーマンが何年も前に主張したように、結果は壊滅的なものになる可能性があります。
最後に、経済成長を再考する際には、好き放題に消費することによって成り立っている現在の生活様式を維持しようという考えは捨てた方がよいかもしれません。好き放題に消費するためには、経済の拡大が必要です。かつて、耽美主義者でもあったケインズは、普通に生活する経済的基盤が出来ている人は、おのずと経済的な活動以外のものに興味を抱くようになり、芸術や自然を愛するようになるだろうと信じていました。それから1世紀が経ちましたが、それはいささか希望的観測であったようです。ラワースが主張していますが、これまでは、好き放題に消費を楽しもうという考え方が世界を支配してきましたが、それを転換しなければなりません。それは非常に大きな転換です。
以上