ルイジアナ州の受刑者の死亡率は全米で最も高い!アンドレア・アームストロングはそうした実態を暴き続ける!

American Chronicles August 23, 2021 Issue

A Fight to Expose the Hidden Human Costs of Incarceration
外からは見えない刑務所内の悲惨な状況を暴くための戦い

The law professor Andrea Armstrong is documenting the loss of life inside jails and prisons in Louisiana, the state with the highest in-custody mortality rate.
法律学者のアンドレア・アームストロングは、ルイジアナ州の刑務所内での亡くなった者を調査し記録しています。ルイジアナ州は、刑務所内での死亡率が全米で最も高い州です。

By Eyal Press   August 16, 2021

1.アメリカの刑務所には死者等のデータベースさえ存在していない

 2016年7月、バトンルージュ市(米国ルイジアナ州の州都)で数千人のデモ参加者がアルトン・スターリングの死に関して抗議活動を行いました。スターリングは黒人で、よくコンパクトディスクをコンビニエンスストアの外で販売していたのすが、そこで1人の警察官に組み伏せられた後に撃たれて死亡したのです。抗議行動はおおむね平和的に行われましたが、完全武装をした警官隊にデモ隊は蹴散らされ、150人以上が逮捕されました。ACLU(全米市民的自由連合)ルイジアナ支部等の人権擁護団体が連名で、バトンルージュ市警がデモ参加者の憲法修正第1条が保証する権利を侵害したとして訴訟を起こしました。1年後、ロヨラ大学ニューオーリンズ校の法学部教授のアンドレア・アームストロングが報告書を他の執筆者と共同して発表しました。それは、その時のデモで逮捕された者の多くが入れられた東バトンルージュ刑務所の悲惨な状況を克明に記したものでした。デモで逮捕された者たちは不潔で過密な房に詰め込まれ、水とトイレットペーパーは与えられませんでした。中には催涙スプレーを噴霧された者もいました。また、衆人環視の元、ストリップサーチ(全裸での検査)をされる者もいました。負傷したデモ参加者も沢山いましたが、何の治療を施されなかった者が多かったようです。そうした扱いで死者は出ていなかったものの、アームストロングが思ったのは、自分たちが調査しただけでもその刑務所で行われている不当な収容者の扱い事例が数多く判明したので、調査していない時には、さらに酷い運営が為されているのだろうということでした。

 2018年、ニューオーリンズに本拠を置く人権擁護団体Promise of Justice Initiative(正義の約束イニチアティブ)の支援を受けて、アームストロングは新たな報告書「東バトンルージュ刑務所での死者について」を共同執筆しました。その報告書では、2012~2016年の間にそこで死亡した25人に関しての調査が為されていました。死者は若者から年配者までさまざまでした。17歳で亡くなったタイリン・コルバートは、同房の囚人に絞め殺されました。助けを求めて叫びながら息絶えました。70代の海軍の退役軍人のポール・クリーブランドは、看守が彼を独房の床に裸のまま放置した後、心臓発作で亡くなりました。報告書によれば、多くの人が証言しているのですが、クリーブランドは心臓に持病があり精神的な問題も抱えていましたが、そんな状態で放置されたのです。亡くなった人の約3分の2が黒人でした。最も驚くべきことに、亡くなった者の約90%(男性22人)は、収監されていましたがまだ有罪判決を受けていませんでした。彼らは裁判前の身柄拘束者であり、法廷で裁かれる日を待っている状態でした。彼らは、保釈金を支払う余裕がないために拘束されていたのです。

 アームストロングが法曹活動をしているルイジアナは、米国で人口当たりの受刑者数が最も高い州です。また、米国司法省によれば、受刑者の死亡率も最も高いのです。しかし、アームストロングが刑務所ごとの死者数を調べるために、より詳細なデータを収集しようとした際に、彼女は何もデータを得ることが出来ないことに気付きました。他の州も同様なのですが、ルイジアナ州にはそのようなデータを連邦司法支援局へ報告する義務があります。しかし、多くの人権擁護団体が問題視していますが、司法支援局に集まった生データは公表されていません。司法支援局は一貫して、各州から集めたデータの公開を拒んでおり、州ごととか、施設ごととか、死因別とか、人種や性別とかで分解したデータも一切出していません。ですので、刑務所ごとの死者数とかを知ることは不可能なのです。

 公的なデータベースが無いことに業を煮やしたアームストロングは、教鞭をとっているロヨラ大学法学部の学生たちの手を借りて、自らの手でデータベースを作ることにしました。彼女の指導の下、学生たちはルイジアナ州の全ての刑務所や拘置所等に記録の開示請求を行いました。今年(2021年)6月、そのデータベースはWeb上に公開されました。サイト名はIncarcerationTransparency(刑務施設の詳細)です。ルイジアナ州64地区を表す地図が表示されており、いずれかの地区をクリックすると、その地区内の全ての刑務施設の名前が表示され、それぞれの施設でここ数年で亡くなった人の名前も合わせて表示されます。その名前の横には、人種と性別も表示されています。個々の名前にはリンクが貼られていています。ルイジアナ州の刑務施設で拘留中の者が死亡した際には、死亡報告書の提出が必須となっていますが、リンク先でそうした文書を確認することができます。また、死者を地区別に見るのではなく、死因別(自殺、事故、薬物摂取、暴力等々)に見ていくことも可能です。

 アームストロングは刑務施設内で死者が沢山出ていることを明らかにしましたが、多くは防げたのではないでしょうか。看守たちの不適切な対応があったり、暴力が死につながっていることが多いと思われる故、防げる死も多かったと推測されます。アームストロングは死者を増やさないためには、刑務施設内の透明性を確保することが重要だと信じています。ジョージ・フロイドが窒息死した際も同様でしたが、2020年5月のアルトン・スターリング事件(2人の白人警察官に武器を持っていない黒人男性アルトン・スターリングが射殺された)でも、一部始終を記録していた目撃者たちがいたおかげで、後に事件を世界中が認識することとなりました。拘留中に死ぬ者のほとんどは、刑務所等にいるわけですから外にいる者が状況をうかがい知ることは出来ません。アームストロングは言いました、「死者の状況は全く見ることが出来ません。わざと見えないにしているのでしょう。さまざまな法律が存在していて、刑務所内の状況は秘匿されているのです。」と。

 アームストロングが公開したデータベースによって、アメリカでは沢山の人が刑務所などで死んでいることが明確になりました。最近ではリベラル派の人たちが刑事司法改革についてさかんに議論していて、刑期を短くするとか全ての刑務所を廃止することによって、受刑者の数を減らすことを検討したりしています。まあ、それも大事なことですが、もっと現在の刑務所の中のことにも注目が集まって欲しいところです。アームストロングがデータベースを公開した目的は、200万人以上が閉じ込められている米国内の刑事施設内の危険で悲惨な状況に少しでも注目してもらいたいということです。受刑者たちの生命も重要で軽視することはゆるされません。であるならば、刑務施設の状況を非人道的なままで放置することは許されません。それを改善する道義的責任も法律的責任もあります。