2.米国の刑務所は暴力が満ち溢れている
米国の刑務所の致死率は新型コロナのパンデミックの影響で高まりました。JAMA(医学雑誌)に掲載された記事によると、全米の刑務所の受刑者の新型コロナの感染率は一般の人たちと比べると5倍も高いのです。また、感染した際の致死率は3倍ほど高いのです。そうした差が出る一因は、刑務所内の房は世間一般の居住空間に比べて人の密集度が高いということにあります。空気感染してしまうウイルスの感染を防ぐのはなかなか難しい状況です。しかし、ホーマー・ベンタース(疫学者で、元ニューヨーク市の刑務施設の医長)は、受刑者の安全と衛生が軽視されていることも一因である言っていました。パンデミックが始まって以降、ベンターズは全米各地の25の刑務所で現地調査を実施してきました。どこの刑務所に行っても、刑務官たちは、毎日受刑者の健康状況を観察し、米疾病管理予防センターが出した基準に沿って社会的距離を確保していると証言していました。しかし、受刑者たちに話を聞くと、それは事実では無いようでした。受刑者の証言はさまざまでしたが、トイレには石鹸も無く、シャワーの際の石鹸も不十分で、体調不良で医師の往診を要望しても無視された等々の不満を漏らす人が沢山いました。カリフォルニア州ロンポックの連邦刑務所で新型コロナによる死者が4人出た際には、ベンタースは、衛生状況が著しく低いことで感染が拡がったと結論付けました。今年(2021年)3月には、彼が調査した結果を知って、上院議員3人(エリザベス・ウォーレン、コリー・ブッカー、ディック・ダービン)が司法省に書簡を送り、連邦刑務所の全ての新型コロナによる死亡者について調査を行うよう求めました。
新型コロナの死者数は、現在のところ、アンドレア・アームストロングが公開したデータベースでは分かりません。しかし、データベースを見ると、心臓発作、呼吸器疾患、癌による死者が非常に多いことが分かります。また、データベースに記載のある死亡者の大半の死因は病気でした。一部の刑務施設幹部は、薬物乱用者や糖尿病などの既往症のある者の割合が世間一般より桁違いに高いのだから、収容者から病死者が沢山出ても仕方がないことだと主張していました。しかし、アームストロングは、2015~2019年でルイジアナ州の刑務施設で死亡した786人について調査した報告書を先日発表しましたが、次のように語っていました、「病死とされた死者の半数は元々病気持ちで健康ではありませんでしたが、残りの半数は、既往症など無く健康でした。」と。
ルイジアナ州は、仮釈放なしの終身刑を宣告された人の数が米国内で最も多く、多くの受刑者が服役中に病死しています。そうして亡くなった人たちは適切な医療を受けたのでしょうか。それは憲法で保障された権利です。今年の春、アームストロングはルイジアナ州の刑務施設で受刑者に施される医療行為の質に関するレポートの作成を支援しました。そして、その内容をルイジアナ州議会で説明しました。レポートを作成する際には、刑務施設外の病院やクリニックの医師へのインタビューも含まれていました。多くの医師が、刑務施設の受刑者を診た際に手遅れで何も出来ない状況であったと述べていました。ある外科医は証言していました、「これまで見た中で最も癌が進行した状況でした。あんなに進行した癌を見たことがある医師はいないでしょう。その患者は若いのに癌で末期症状でした。早期に治療していれば十分治癒が可能でした。」と。そのレポートには、集団代表訴訟が起こされて有名になったケース(ルイジアナ州立刑務所(通称アンゴラ刑務所)が適切な医療を提供することを怠り12名が亡くなったことが訴因)も記されています。その訴訟では、2021年3月31日に連邦裁判所判事のシェリー・ディックによって原告の主張は認められました。また、数々の不適切な対応があったことも認定されました。不適切と認定された一例をあげると、ある受刑者(男)は腹部に痛みが有ると2年間訴え続けていました。徐々に症状が悪化し、痛みで歩けない状況に陥りました。それで彼はようやく病院へ連れていかれたのですが、結腸癌がかなり進行している状況であると診断されました。その後まもなく、彼は亡くなりました。その裁判では、早期に診断が為されていれば男性の死を防ぐことができたはずだと結腸癌の専門家が証言しました。シェリー・ディック判事は判決で指摘しました、「アンゴラ刑務所の幹部は、受刑者に適切な治療が必要であることを故意に見逃していた。受刑者に必要な治療を受けさせなかったことは、憲法が禁じている残忍で尋常でない刑罰にあたり違憲である。」と。