4.市や郡管轄の刑務所は、州や連邦政府管轄の刑務所よりも悲惨
私は最近、バトンルージュ市に車で行って、リンダ・フランクという人物に会いました。リンダ・フランクは最後に息子のラマーに会った時のことを話してくれました。2015年5月26日、当時27歳だったラマーは、丸い顔でドレッドヘアを肩まで伸ばしていました。ガールフレンドとの間に子供が出来ていましたが、3人で一緒に家に来たそうです。彼は満面の笑みを浮かべていたそうです。その日遅くになって、ラマーは祖母を迎えに行く途中で、1人の警察官に車を停めさせられました。理由は車のウィンドウが過度に着色されていたからです。その警察官が乗っていた車の車載カメラに記録された映像を見ると、警察官は身元紹介を行ってから、数年前に違法に500ドルの小切手を現金化した事件に関与していたのでラマーを拘置所に連行すると言っていました。それで、その警察官はすまなそうにラマーに話しかけていました、「素直に私の指示に従ってください。速やかに車から降りてください。そうすれば悪いようにはしません。」と。
ラマーは東バトンルージュ刑務所に連れて行かれました。彼は、Q-8という房に入れられました。そこでは暴力が蔓延しているとの噂がありましたが、共有エリアでは100人近くの男の囚人を1人もしくは2人の看守だけで監視していました。ラマーは肩幅が広く筋肉質の体系でしたが、房に入れられるとすぐに不安そう表情になりました。さまざまな目撃者の証言による、彼は独り言を大声で言うようになり、偏執症患者のようになりました。そうなった理由は、彼が刑務所内で誰でも入手可能だった合成マリファナを摂取したのが原因だった可能性もあります。結局、彼は監視していた看守に、Q-8房から出して欲しいと申し入れしました。その看守はラマーに房に戻るよう命じましたが、従わなかったので”重大な違反”を犯したと見なし攻撃を加えました。後に2人の囚人がその時のことについて証言しましたが、最初に暴力行為を行ったのはラマーではなく、その看守を含む数人の看守でした。看守たちは催涙スプレーを噴霧したり、殴ったりしていました(刑務施設側は、そうした事実は無かったと主張しています)。
ラマーの家族は訴訟を起こしました。ラマーの精神面の不調が明らかであったにもかかわらず、何の治療行為も為されずに独房にい入れていたのです。それで、母親のリンダ・フランクスは病状を確認するために数時間ごとに刑務所に電話をかけていました。何回か電話をかけていたところ、ラマーが医療施設送りになってから1週間も経った頃になって、彼女はラマーに事故があって病院に運ばれたことを知らされました。それを知らされて時、彼女は電話に向かって「状況を教えてください。どんな状況なんですか?どんな事故なんですか?息子は交通違反でそこに連れていかれただけなんですよ!」と大声で叫んでいました。彼女が後に知らされたのは、独房は常に監視されていたのに、そこで自殺を図ったということでした。ラマーはICUに入れられましたが、すぐに死亡が確認されました。看守の1人は、リンダの夫(ラマーの父親)のカールに、淡々と言いました、「死因は明白です。息子さんは自殺されました。」と。この訴訟を起こした弁護士デビッド・アッターは私に言いました、「ラマーの死因は公式には自殺となっています。しかし、そうではなく、彼は間違いなく刑務所で殺されたんだと確信しています。」と。
アンドレア・アームストロングが東バトンルージュ刑務所に関して2018年に共同で作成した報告書では、ラマー以外にも死んだ受刑者がいることが明らかになっており、受刑者が死んだ事例は25件もありました。アームストロングが私に教えてくれたのですが、その刑務所の幹部は、25人も亡くなった原因は元々病気の者や精神的に病んでいる者が多いことにあると主張していたそうです。しかし、彼女が公開したデータベースの数字を見ると、ルイジアナ州の他のいくつかの刑務所では2015年~2019年の間に1人の死者も出ていないことが分かります。収監前の病気等が死の原因であるなら、刑務所間で死者の数にこれほどの差が出るのは不思議なことです。アームストロングは東バトンルージュ刑務所を「米国内で最も致死率の高い刑務所」と呼びました。2021年6月10日、そこで40歳の受刑者が亡くなりました。ソール・ディアスという名で、死因は自殺とされていました。2012年以降、その刑務所での46人目の死者でした。(その刑務所の幹部の1人は、自殺をしないよう常時監視をしていると私に言っていました。また、暴行による死亡は問題では無いと言っていました。)
アームストロングが調査する中で分かったことは、州や連邦政府管轄の刑務所よりも、市や郡が管轄する刑務施設の方が、施設内の状況を記録している文書が少なく、その中で何が起こっているか把握しづらいということでした。テキサス大学オースティン校のリンドンB.ジョンソン公共政策研究科で矯正施設運営の専門家であるミケーレ・ディッチは私に言いました、「刑務施設の中のことを把握することは非常に困難な状態です。刑務施設は必須の施設で重要な役割を果たしているにもかかわらず、その中で何が起こっているのか全く見当もつきません。」と。アームストロングは、初めて刑務施設の状況に関するレポートを書き始めた時には、多くの刑務施設を調査していましたが、バトンルージュ市の刑務所の調査を行って以降は、2つのタイプの施設、州管轄の刑務施設と市や郡管轄の刑務施設の差異も調査分析するようになりました。実は、ルイジアナ州では1990年代半ばに刑務施設の運営で大きな変更が為されました。州は連邦裁判所から州が管轄している刑務所の過密状態を改善するよう命令されたことを受け、州管轄の刑務施設の収容者を減らし、その代わりに市や郡の管轄する刑務施設に沢山の受刑者を受け入れさせるようにしました。また、州は沢山の職員を新規に採用し市や郡の刑務施設の運営に割り当てました。今日、ルイジアナ州の受刑者のほぼ半分は市や郡の刑務所に収容されています。そうした施設は、囚人1人につき1日26.39ドルを州から収容費用として受け取っています。この額は刑務施設の看守を雇う資金としては十分な額ですが、質の高い医療を提供するには十分な額ではありませんし、リハビリ費用なども考えると全く足りない額です。アームストロングが私に言いましたが、州管轄の刑務施設はアンゴラ刑務所以外も似たような状況で決して良いとは言えませんが、市や郡管轄の刑務所の状況はさらに悲惨です。理由は州管轄の刑務所に比べると圧倒的に投じられている資金が少ないからです。