ルワンダの著しい経済成長と潜在能力!現地では、コールドチェーンの構築が続く!虐殺の痕跡はもう無い?

Letter from Rwanda   August 22, 2022 Issue

Africa’s Cold Rush and the Promise of Refrigeration
アフリカのコールドラッシュと冷蔵設備の将来

For the developing world, refrigeration is growth. In Rwanda, it could spark an economic transformation.
発展途上国にとって、冷蔵施設の普及が成長の鍵です。ルワンダでは、それによって経済変革が引き起こされる可能性があります。

By  Nicola Twilley  August 15, 2022

1.

 ルワンダ北西部のルバヴ(Rubavu)で魚の卸売りをしているフランソワ・ハビヤンベレ(François Habiyambere)は、午前1時に氷を取り出し始めます。それは、たくさんの漁船が出港する数時間前のことです。ハビヤンベレの製氷機は、雪のように軽いフレーク状の氷(フレークアイス)を作ることができます。ハビヤンベレは、養殖業者の大切なティラピアを冷やすために製氷機を稼働させているわけですが、ルワンダでそんな朝早くから稼働している製氷機はその1台だけです。フレークアイスは、その柔らかく、ふわふわした質感で、魚介類を毛布のように包み込み、その繊細な身をつぶすことなく、包み込んでくれます。ハビヤンベレのフレークアイスを作る製氷機は、数年前、ウガンダのナイルパーチ加工工場から中古で購入したものです。ルワンダ南東部でコンゴ民主共和国(Democratic Republic of the Congo)と国境を接している市場町のルシジ(Rusizi)の幹線道路沿いのガソリンスタンドの裏手に設置されています。錆びついた巨大な機械です。1日に作られる量は、そこら辺のレストランで使われているゴミボックス1個分ほどです。それほど多くありません。養殖業者5社と取引があるのですが、必要な量よりかなり少ないのです。

 5月に私はハビヤンベレの仕事を見学させてもらいました。その時、彼は静かな口調で、少し諦めたような口調で言いました、「一番最初に来た養殖業者はフレークアイスを十分な量をもらえます。他の業者は十分な量を得られません。」と。その製氷機は彼の住む場所から車で5時間半ほど南下したところにあるので、彼は勤務を夜中に始めなければなりません。彼は、ルワンダではまだ数えるほどしかない冷蔵車に乗ります。それを運転するのは、ジャン・デ・デュ・ウンゲンガ(Jean de Dieu Umugenga)という28歳の男です。男前です。ネギやニンジンを積んで市場に行きます。市場までの道は曲がりくねっていますが、ラジオで音楽を聞きながら、ウンゲンガは頻繁にギアチェンジを行い、ヘアピン カーブを巧みに抜けていきます。

 夜中も3時を過ぎた頃になると、自転車がちょくちょく現れ始めます。ルワンダの田舎のいたるところで、筋骨隆々とした若い男性が、重いスチール製の変速機無しの自転車に乗って家を出発します。職人芸と言って良いほど巧みに自転車の荷台等に荷物を積み付けています。おそらく、十分な視界を確保できていないと思います。青いバナナの束は荷台に括り付けられ、トマトの入った袋が2〜3段積み上げられます。それだけではありません。10羽以上の生きた鶏もくちばしと両羽の先を縛った状態で積み上げられ、キャッサバの葉も夜明け前の光の中で、まるで低木が道端に転がっているかのように見えるほど大量に積まれています。自転車乗りたちは、4、5時間かけて運ぶわけですが、日が昇り始めて気温が上がるので、キャッサバの葉は徐々にしおれ、トマトも柔らかくなります。彼らの行き先は、首都キガリの市場です。そこには、あちこちから無数の自転車乗りが集まってきます。

 ルワンダは、”Le Pays des Mille Collines”と呼ばれています。英語では、”land of a thousand hills”(千の丘の国)という意味です。実際には、丘は少なくとも1万はあるはずです。早朝には、谷間は霧でかすみ、霧の上に緑豊かな段々畑や丘が顔を出しているように見えます。自転車に乗る者は、丘を下る時には惰性で楽ができますが、逆に上りになると自転車を降りて押します。舗装された道路に出ると、ウンゲンガのトラックの荷台に手を掛けて楽をしようとする自転車乗りもいます。

 夜明け前の5時半頃になると、キガリから北西に数時間走ったところにあるルリンドでは、野菜出荷組合の組合員たちが畑に向かいます。ルワンダ人はきれい好きなことで有名なのですが、ちょっと田舎に行くと、丘の斜面に整然と段々畑が作られています。唐辛子や緑豆がきれいな列になって植えられています。谷底の肥沃な赤土は雑草が全て抜かれていて、隅々まで丁寧に耕されていました。

 ハビヤンベレとウンゲンガは、この時までにキヴ湖の東岸線を140マイル(224キロ)も走っていました。キヴ湖は、内陸国であるルワンダの漁業の中心地です。湖には、岩の多い島々が点在し、伝統的な木製のカヌーを使った漁が行われています。サンバザという銀色に輝くイワシのような魚の漁が行われています。サンバザは、フライにするとビールにぴったりです。3人一組でカヌーに乗って漁をするのですが、昆虫の触角のように船首と船尾からユーカリの長い枝を突き出させて、それに網を付けて移動します。ハビヤンベレとウンゲンガがルシジに到着すると、まず市場に立ち寄って野菜等の荷下ろしをします。それらは、コンゴの業者に売り渡されます。それが終わると、2人は製氷機に向かい、そこで冷蔵車を念入りに掃除した後、貴重なフレークアイスを山盛りに積み込みます。午前6時45分には、船着き場付近の日陰に車を止め、居眠りをしながら漁師たちが上陸するのを待ちます。

 そこよりも北の方、ウガンダとの国境付近では、シャーロット・ムカンダマゲ(Charlotte Mukandamage)が若雌牛の乳房を拭いています。彼女は、泥レンガの自宅建物の裏にある木造の小屋で若雌牛を飼育しています。プラスチックの容器の上にしゃがんで、ムカンダマゲは牛から1ガロン半(5.7リットル)の温かく泡立ったミルクを小さな金属製のバケツに入れます。そして、丘の斜面の急で滑りやすい泥道を慎重に進み、牛の絵が描かれたコンクリートの標識の前に向かいます。そこにはミルクが集まってくるのを待っている業者が数名いました。

 ある朝、私はムカンダマゲに同行したのですが、私たち以外に6人いました。ピンク色の大きなバケツを持って中折れ帽を被った老人や、自分の身体の半分ほどの大きさの黄色い缶を持ったガリガリに痩せた7歳の女の子などがいました。近くの家々のトタン屋根に朝日が当たり、家々の薪ストーブから出た煙が丘から立ち上る霧と混じっていました。しばらくすると、黒いゴム長靴を履いた禿げ頭の男が現れました。ピエール・ビジマナ(Pierre Bizimana:農民、副業でミルクの収集をしている)でした。彼は自転車を押していました。自転車には13ガロン(49リットル)強のミルクが入るスチール製の缶が2つぶらさげられていました。それから2時間、湿度の高い中、ビジマナと彼のアシスタントと私は、ミルクが集まっているところを何箇所も回りました。数十軒の農家から1ガロン(4.5リットル)とか1/2ガロンを受け取りました。坂道をとぼとぼと歩きました。それから、近くのジクンビ(Gicumbi)という町へ向かいました。そこには冷却装置を備えた集乳センターがありました。

 ビジマナは午前9時半には自分の家に戻り、飼っている牛を世話したり、ソルガム、トウモロコシ、豆を栽培している小さな畑の手入れをしました。何百マイルも離れたところでは、フランソワ・ハビヤンベレとジャン・デ・デュ・ウンゲンガが、ルバヴ市場向けの新鮮な魚を満載したトラックで北上していました。汗だくになって帰途を急いでいる自転車乗りもあちこちにいたでしょう。行きに積んでいたキャッサバや鶏を降ろした自転車の荷台には、誰かを乗せていました。ルリンドの農家の何人かが、採れたてのピーマンや豆をクレートに入れて畑から戻ってきていました。翌朝には、収穫物はルワンダ航空のイギリス行きフライトに積み込まれる予定です。それらは、スーパーマーケットで販売されます。それまで、農産物の入ったクレートは太陽光発電で動いている保冷庫に積み上げられます。しかし、この保冷庫は華氏65度(摂氏18度)で、本来あるべき温度よりかなり高くなっています。