ルワンダの著しい経済成長と潜在能力!現地では、コールドチェーンの構築が続く!虐殺の痕跡はもう無い?

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 ACESのプロジェクトは新型コロナが蔓延して以降に始まりました。今年5月にルワンダが持続可能なエネルギーに関する国連フォーラムを主催しました。そこで、ACESをはじめとするさまざまな取組が紹介されました。ACESに参加するメンバーの多くは、初めてそこで顔を合わせた人が多かったようです。カガメ大統領は、政治家、官僚、支援団体関係者、起業家、学識経験者など国際色豊かなフォーラム参加者に向けて開会の辞を述べました。カガメ大統領は、ACESは持続可能で公平な開発がアフリカでも可能であることを示すものになると説明しました。ルワンダの環境管理局を率いるジュリエット・カベラ(Juliet Kabera)は、「私は、その時、会場にいたのですが、感動して椅子から飛び出しそうになりました。」と言いました。

 ACESは、フォーラムのクライマックスとして、新しいキャンパスで参加者のためのオープンデーを開催することになっていました。先週末に、私はルワンダの既存の低温インフラを視察する研究チームに同行しました。新型コロナのパンデミックの影響で、3年前からルワンダの既存施設やニーズの調査が行われていたのですが、ヨーロッパから来た人の中には初めてルワンダに来た人もたくさんいました。最初に私たちが訪れたのは、キガリから南へ30マイル、タンザニアへ向かう道沿いに2019年に欧州連合(EU)の資金援助で建設された2つの冷蔵施設でした。地元の農業協同組合員の案内で、レンガ造りの低層の建物に入りました。中に入って一番最初に目に入ってきたのは、壁に張り巡らされた蜘蛛の巣でした。1つの区画は冷却装置が機能していませんでした。もう1つの区画には、唐辛子の入ったクレートが2つ置いてありました。冷却装置は機能していましたが、私たちが訪問したことを受けてスイッチを入れたようでした。床はきれいに掃除されていました。おそらく、頻繁には使われていないようでした。床は木製でした。低温施設の床に木を使うのは、良い選択ではありません。というのは、消毒しにくく、農産物のくずや汁が残りやすいので、真菌類やバクテリアの繁殖に最適な環境となるからです。世界有数の低温設備の専門家であるジュディス・エバンス(Judith Evans)は、冷静に設備上の不備を指摘しました。ドアにエアカーテンがないこと、壁に何十本もの釘が打たれていることなどでした。釘の穴から冷気が断熱材を通り抜けていました。

 ファラガンは、その区画を案内してくれた農夫が設備について説明するのを聞いて、「私、頭がおかしくなりそう・・・」とささやきました。その後、「湿度の調節ができないし、空気を循環させるファンも付いていないなんて信じられる?」と言いました。その農夫は可哀想に、研究チームの面々から質問攻めにされていました。その間に私はその施設の外に出たのですが、戸外の日陰に保管されていたいくつもの唐辛子のクレートを農業協同組合員が総出でピックアップトラックに積み込んでいるのを見ました。後に、キガリを拠点とする国連環境計画のコールドチェーンの専門家であるイッサ・ンクルンジザ(Issa Nkurunziza)から聞いたのですが、農夫たちが冷却装置を稼働させない理由は明確でした。単純にコストがかかりすぎるということだったそうです。

 2015年に国連総会で2030年までに一人当たりの世界の食品ロスを半減させると定められました。それ以降、急に多くのNGOや国際開発機関や慈善財団が開発途上国の低温施設プロジェクトに資金を提供するようになりました。エバンスは言いました、「しかし、現地の人たちはその使い方を十分には理解していないのです。作られた施設のメンテナンスは行き届いていません。」と。低温貯蔵施設だけを作っても、使い方の教育もされておらず、運営できる企業体もない状況ですので、外観が立派なだけで全く活用されていないということが多々あります。世界銀行はここ数年で、ルワンダの10カ所の低温貯蔵設備の建設に資金を提供しましたが、少なくとも近隣の農家の96%はそれを全く利用していないと推定されてています。

 このように無駄に大金を投じることは、意図せぬ結果を引き起こす可能性もあります。ケニアで食糧安全保障を研究していて、ACESの支援を受けた低温輸送拠点の開発責任者のキャサリン・キレル(Catherine Kilelu)が私に教えてくれたのは、ある僻地の農村の事例でした。ビル&メリンダ・ゲイツ財団(Bill and Melinda Gates Foundation)が同国の酪農産業の発展のために大規模投資の一環として低温貯蔵設備への出資をしたのですが、その結果、設備ができにもかかわらず、その近隣の子供たちの食生活の質が低下したというのでした。そうした事例が何箇所かで発生したとのことでした。キレルの説明によると、以前は、夕方に搾乳していて、得られたミルクは市場に出荷されず、各々の家庭で消費されていたそうです。しかし、夜間に搾乳したミルクが販売に回せるようになったので、子供たちの栄養源では無くなってしまったのです。彼女は言いました、「ミルクが余計に売れて収入が増えるのだから、それが子供の食事のために使われると思うかもしれません。しかし、必ずしもそうなるわけではないのです。増えた収入は、屋根を修理したり、スマートフォンや必要なものを買ったりするので、それほど残らないのです。」と。

 世界銀行の援助を受けて2017年に建設されたその施設には、野菜が詰まったプラスチックのクレートが詰め込まれていました。天井まで12段も積み上げられていたのです。「今はちょうどいい広さですが、計画では生産量が増えていく予定ですので、半年後には手狭になってしまいます。」と、物腰柔らかなコールドチェーンの専門家であるイノセント・ムワリム(Innocent Mwalimu)は、私たちを案内しながら言いました。新型コロナの苦境からルワンダは脱却したのですが、急増する財政赤字が深刻な問題となっています。また、ルワンダ政府は、2025年までに同国の生鮮品の輸出額を倍増させるという目標を掲げています。低温施設を利用する企業には、手数料が課されるのですが、輸出する食料品1キロ当たりたったの7セント以下です。実質的には、農業関連企業にとってはコールドチェーンに関連して補助金が出ているようなものです。同様のモデルはケニアでもそれなりに成功しているようです。ケニアでは、最近は果物や野菜や切り花の輸出が増えています。旧来、ケニア政府の最大の外貨獲得手段は、コーヒーや紅茶の輸出と観光がメインでした。取って代わられた感じがします。

 しかし、このようなコールドチェーンのための投資による恩恵には、均等に分配されないという欠点があります。ケニアでは、輸出される果物や野菜の4分の3は、7つの大規模農場(ほとんどが白人所有)から調達されたものであることが、ある調査で明らかになりました。それらの農場は、厳しい国際食品安全基準をクリアするのに必要な資本と資源を持ち合わせています。そのため、そうした企業のみが支援による恩恵を受ける形になりがちです。電気を必要としない安価な冷却システムを導入し、収穫後の農産物の劣化を遅らせ、農村地域を支援することを使命として設立された企業でさえ、ケニアの小規模農家と協力することは困難であることを認識しています。そうした企業の1つであるインスパイラ・ファームズ(InspiraFarms)社のCEOであるジュリアン・ミッチェル(Julian Mitchell)は言いました、「経済的な視点で見ると、より大きな低温施設を導入せざるを得ないのです。残念ながら、零細農家には何の支援もありません。ケニアの果物や野菜の90%以上を栽培するのは、そうした零細農家です。彼らは、低温設備の恩恵を受けられないので、収穫したものの内の半分を腐らせてしまっています。」と。

 世界銀行グループの国際金融公社(World Bank’s International Finance Corporation)幹部のセルチュク・タナタルが私に説明してくれたのですが、コールドチェーンの運営には、ナイロビでもニューヨークと同じか、ちょっと少ないくらいのコストがかかります。つまり、先進国のトマトはコールドチェーンのためにコストが1%程度増えるのに対し、途上国では30%程度増えるのです。タナタルは言いました、「誰もそんなお金は払えません。」と。その結果、途上国でコールドチェーンを構築する際には、先進国が欲しがる果物や野菜(ブルーベリー、マンゴー、インゲン豆)を栽培する農家と協力することが必要となります。コールドチェーンのコストを負担することができるのは、発展途上国ではそうした農家だけです。しかし、それでは現地の人々の食の安全には繋がらない、とタナタルは指摘しています。先進国に送られる農産物はコールドチェーンの恩恵を受け、市場により安く、より良い状態で届けられます。しかし、国内向けの農産物はそうした恩恵を受けません。

 ルワンダでは、人口のほぼ半数に当たる600万人が、平均1.5エーカー(60アール)以下の土地で小規模な農業を営んでいます。コールドチェーン関連の支援をしても、そうした人たちに全く恩恵が無いのであれば、良い支援策であるとは言えません。発展途上国では、コールドチェーンを整備することの波及効果で、富める者はさらに富み、相対的に貧しい者はさらに貧しくなっています。その一方で、先進国では安価なスーパーフードのスムージーを楽しむことができます。