月へ帰る人類、NASA は変わる——アルテミス Ⅱ が示す新たな宇宙時代!!

The Lede

What Will the Artemis II Moon Mission Teach Us?
アルテミス Ⅱ の月探査ミッションは私たちに何を教えてくれるのか?

Four astronauts are travelling deeper into space than anyone in history. NASA will never be the same.
4人の宇宙飛行士が、誰も行ったことがない深宇宙へと旅立つ。もはや NASA はこれまでと同じではない。

By David W. Brown April 6, 2026

 先週水曜日( 4 月 1 日)、フロリダ州のケネディ宇宙センターでアルテミス II ( Artemis II )の 4 人の乗組員が小さな金属製カプセルに乗り込んだ。それは、超高層ビルほどの大きさのロケットの先端にあった。数百万ポンドの推進剤による炎の柱が彼らを軌道に乗せ、月の裏側へと向かわせた。搭乗運用技術者( mission specialist )を務めるクリスティーナ・コック( Christina Koch )は、国際宇宙ステーション(略号:ISS )に約 1 年間滞在したことがある。その際に地球を振り返ったことがある。しかし、ISS は地球からわずか 250 マイル( 400 ㌔)の距離を周回しており、地球を俯瞰して見るには近すぎた。一方、月は 25 万マイル( 40 万㌔)離れている。コックは月に向かう途中で初めて地球を俯瞰して見ることができた。地球は最終的にゴルフボールほどの大きさまで縮小した。

 宇宙飛行士が月面を探査したのは、1972 年のアポロ 17 号( Apollo 17 )着陸以来のことである。アルテミス計画はさらにその先を目指している。人類を月へ送り込むだけでなく、恒久的な基地の建設を目指している。同計画初の有人飛行となるアルテミス II は、いわば予行演習である。計画では、インテグリティ( Integrity )というコールサインが付けられたオリオン宇宙船( Orion capsule )は、10 日間の日程で月面を周回した後に月に着陸せずに地球に帰還する。NASA は、宇宙船内トイレの信頼性や操縦士による手動操縦など、ミッションのあらゆる側面を評価している。アルテミス II は 4 月 10 日に太平洋に着水する予定である。

  打ち上げ直後に注意を要する問題がいくつか発生した。オリオンを地球周回軌道から月の周回軌道に移すための操縦をする直前、緊急メッセージが表示された。宇宙船内からの空気漏れの疑いがあったのである。このミッションに参加しているカナダ人宇宙飛行士ジェレミー・ハンセン( Jeremy Hansen )は、宇宙服を着た。乗組員全員が地球に帰還できる方法を考えようと思った。結局、この緊急メッセージは誤報だったことが判明した。その他に発生した問題は、もっと具体的なものだった。「 Microsoft Outlook が 2 つあるが、どちらも機能していない」と、司令官のリード・ワイズマン( Reid Wiseman )は管制センターに報告した。 今回の乗組員 4 人はいずれも宇宙船内での生活に慣れていた。パイロットのビクター・グローバー( Victor Glover )は、宇宙船内が不快なほど寒いと報告し、ニット帽を被った。また、無重力状態にあることから、どこでどうやって寝るかという問題もあった。コックはコウモリのように天井からぶら下がって寝ることにした。

 NASA の今回のミッションは記録ずくめである。多様なクルーによる偉業の中でも特筆すべきは、地球から最も遠く離れた場所へ到達することである。このミッションの重要な瞬間を記念する発言は、愛らしくもぎこちない台本通りのものであった。「エンジンを点火すると、月から地球に戻る軌道に乗せ、インテグリティと乗組員を安全に地球に帰還させることになる( When the engine ignites, you embark on humanity’s lunar homecoming arc and set the course to return Integrity and her crew safely home )」と、管制センターの交信担当クリス・バーチ( Chris Birch )は乗組員たちに告げた。コックは「この月への燃焼で、私たちは地球を離れるのではなく、地球に戻ることを選んだのである」と答えた。これは、この数十年で NASA の最も重要な有人ミッションである。これまでのところ文字通りの成功である。宇宙計画を注意深く見守ってきた人たちからすると、節目を祝いつつも、安堵の気持ちの方が強いだろう。アルテミス II の偉業は 30 年にわたる失敗の後にもたらされたものである。

 今週のミッションは、始まりの象徴であり、終わりの象徴でもある。NASA は、退役・廃棄予定の ISS (国際宇宙ステーション)以外の目標を作ろうとしている。宇宙開発競争の再燃の舞台が整った。今回の主なライバルは中国である。中国は、2030 年までに人類を月面に着陸させる嫦娥( Chang’e:ジョウガ)計画を進めている。規律正しく効率的に取り組んでいる。アルテミスと同様、嫦娥も月の女神にちなんで名付けられたものである。また、アルテミスは、何か重要なものの終わりをも象徴している。アルテミス II は、間違いなく旧 NASA の産物であり、アポロ計画に携わった者たちにとっては今でも馴染み深いものだろう。最先端の合金( alloysx )、炭素繊維複合材( carbon-fibre composites )、デジタルアビオニクス( digital avionics )を採用しているものの、ミッションの管理は昔から変わらず NASA の管制センターが行っている。アポロ計画のハードウェアを製造した多くの請負業者が、同じ建物でアルテミス II の製造も担当した。

 アルテミス III 以降では、NASA は効率化の名の下に月探査計画の主要部分をスペース X ( SpaceX )やブルーオリジン(  Blue Origin )などの民間企業に委託する。NASA は次世代の月着陸船を建造しない。所有もしない。基本的には、宇宙飛行士を月周回軌道から月面まで運ぶためにライドシェアサービスを利用することになる。宇宙服さえもアクシオム・スペース( Axiom Space )という請負業者からのレンタルとなる。トランプ政権が組んだ 2026 年度予算では、アルテミス計画の中で計画されていた超大型次世代ロケットのスペース・ローンチ・システム( Space Launch System:略号 SLS )の開発中止が決まっている。スペース X のスターシップ( Starship )などの商業的な代替案が優先されたのである。しかし、それらはいずれもまだ開発中である。かつての NASA の拠点は、多くのコミュニティがその投資からの恩恵を受けられるように全国に分散していた。しかし、新しい宇宙計画ではますます民営化が進められ、テキサス州とフロリダ州への集中が進むだろう。NASA の長年のモットーである「すべての人々の利益のために( For the benefit of all )」を果たせるかどうかは疑問である。

 1969 年に 2 人を初めて月に送り込んだ頃の NASA は、約 40 万人の職員を擁していた。わずか 3 年後にアポロ計画は終了した。数百万個の部品を製造、組み立て、運用する技術力は急速に衰退した。1980 年代後半にジョージ・H・W・ブッシュ( George H. W. Bush )大統領が NASA の体系的な目標を打ち出した頃には、もはや以前のやり方を再現することは不可能になっていた。ブッシュは、宇宙ステーション( space station )、月への帰還( return to the moon )、火星着陸( Mars landing )といった複数の目標を掲げていた。しかし、再び月面に降り立つには、技術的にも精神的にもほぼゼロからやり直す必要があった。「 NASA ​​の計画には、長年にわたる政治的支援と財政的支援が不可欠である」と、スミソニアン国立航空宇宙博物館( Smithsonian’s National Air and Space Museum )の現代宇宙飛行学芸員、エミリー・A・マーゴリス ( Emily A. Margolis )は語る。「長年にわたって歴代大統領と議会の宇宙飛行を評価する視点はぶれ続けてきた。NASA は、こうした困難な状況下で活動しなければならなかった」。

 クリントン政権はブッシュの計画を破棄した。最終的には国際宇宙ステーションを優先した。2004 年、ジョージ・W・ブッシュ( George W. Bush )大統領は、月探査ミッション、そして火星への宇宙飛行士着陸に進む前に宇宙ステーションを完成させることを目指すコンステレーション計画( Constellation program )の創設を呼びかけた。バラク・オバマ( Barack Obama )大統領はコンステレーション計画を中止し、小惑星着陸を優先し、次に火星を目指すことにした。しかし、第一次トランプ政権はオバマの計画を中止し、代わりに月探査に焦点を当てたアルテミス計画を立案した。ジョー・バイデン( Joe Biden )大統領の支持により、アルテミス計画は NASA 内で確固たるものとなった。「アルテミス計画はなんとか生き残った」と学芸員マーゴリスは語る。「乗員が乗り込むオリオン宇宙船はコンステレーション計画の一部だった。ロケットの 4 基のエンジンのうち 3 基はスペースシャトルミッションでの飛行で使われたものである」。アルテミスの打ち上げロケットは、コンステレーション計画向けに設計された超大型ロケットのアレス V ( Ares V )の設計を引き継いでおり、そのブースターロケットはスペースシャトル時代の改良版だった。「 NASA ​​は、最終的に政権交代後も存続する技術をしばしば再利用する」とマーゴリスは語る。

 アポロ計画は中央集権的に計画され、厳格に体系的に取り組まれた。当時、月への道はほぼ一直線だった。それに比べると商業宇宙飛行は比較的自由放任主義的である。スペース X とブルーオリジンはそれぞれ独自に技術開発を進めている。一方の企業がブレークスルーを達成しても、他方の企業にとってはブレークスルーとはならない。両社とも計画が何年も遅れている。スペース X は 2028 年にアルテミス計画の宇宙飛行士をスターシップシステムで月面に着陸させる予定だが、依然として大きな技術的障壁が残っている。スターシップはまだ月面に到達することすらできず、ましてや着陸船を月面に届けることなど到底不可能である。一方、中国国家航天局( The China National Space Administration )のここ数年の成果には目を見張るものがある。月の裏側に探査車を着陸させ、研究のために月の岩石を回収した。約 4 年前に中国は独自の高度な宇宙ステーション「天宮( Tiangong )」を建設し、類まれな有人宇宙飛行能力を誇示する。中国の月への道はアポロ計画とよく似ている。次に月面に掲げられる国旗は、五星紅旗になる可能性が高い。

 NASA のミッションは高尚なものに見えるが、この機関には親しみやすく共感できる部分も多い。毎年、100 万人以上がヒューストンのジョンソン宇宙センター( Johnson Space Center )を見学し、数万人がアラバマ州ハンツビルのスペースキャンプに参加する。スペースキャンプとは、NASA の施設で宇宙飛行士訓練シミュレーションやロケット制作を体験できる世界的な教育プログラである。「 NASA ​​が一般の人々、つまりアメリカの納税者やその他の人々を歓迎していること、彼らの活動を見てもらうことは、非常に素晴らしいことである」と学芸員マーゴリスは語る。「 NASA ​​の業務は宇宙探査であって、もてなしではないが、ビジターセンターは、このプログラムに資金を提供している人たちにも好評である」。一般の人々はさまざまなミッションに投資しようとしている。投資を受けたことでマゼランは世界一周航海をすることができた。NASA は月に行った。NASA の宇宙飛行士が一私企業でしかないスペース X の月着陸船から降りてくる時、私たちは同じように自分たちの投資のおかげで成功に導けたと喜ぶことができるだろうか。現在のアメリカの商業宇宙開発競争は、協力ではなく秘密主義と競争によって特徴づけられている。テキサス州のスペース X のスターシップ研究開発施設には、武装した警備員が張り付いている。外の看板には、見学したいならここで仕事に就くべきだと書かれている。

 深宇宙( deep space )まで飛行した有人宇宙船は、アポロカプセル( Apollo capsules )、アポロ着陸船( Apollo landers )、そして今回のオリオン宇宙船( Orion capsule )の 3 種類だけである。NASA はオリオンの内部をウィネベーゴ( Winnebago )社製キャンピングカーに例えている。ジョンソン宇宙センターで訓練シミュレーションに使用されているレプリカに座ってみたところ、1 人でも狭く感じられた。4 人が乗ればかなり窮屈である。アルテミス II の宇宙飛行士は、誰にも触れずに腕を伸ばすことができない。しかも、これは彼らの心配事の中で最も小さなものである。宇宙船は、平方フィート当たり約 1 トンの圧力に晒されている。宇宙は真空状態であるので、基本的にオリオンは爆発しようとする。暖房システムが故障すれば、乗組員は凍死する可能性がある。彼らは二酸化炭素中毒や低酸素症で死なないために、再呼吸装置( rebreathers )に頼っている。再突入時に彼らの足と宇宙船の外側を隔てているのはわずか数インチの耐熱シールドのみである。外側は 5,000 度まで加熱される。これは太陽の表面温度の約半分である。たとえ万事が順調に進んでいる時でも、飛行中の宇宙飛行士は、驚くほど死の淵に立っている。

 アルテミス II の 4 人の宇宙飛行士は、4 月 6 日に管制センターとの通信も視界からも途絶える前提で、今回のミッションでの最遠点に近づいていた。月の裏側は地球からは決して見ることができない。それが、腕を伸ばした距離でバスケットボールほどの大きさに見える。約 40 分間、彼らは真に孤独な存在となった。宇宙からのインタビューで、頭の周りに冠のように髪をなびかせたコック飛行士は、NBC ニュースに対し、今回の宇宙探査に関して 2 つのことを言及した。宇宙を猛スピードで駆け抜けるという稀な体験をしているわけだが、彼女は普段と変わらない感覚も保持していた。ある瞬間には、見慣れない月の表面を眺めながら、「これは私が見慣れている月とは違う」と考えていた。次の瞬間には、もっと現実的なことを考えていたという。「うーん、靴下を履き替えた方がいいかな」と彼女は語った。♦

以上