本日翻訳して紹介するのは、the New Yorker の March 8, 2021 Issueに 掲載された記事です。Joshua Rathmanによる記事です。人工心臓の開発に関しての記事です。英題は、”How to Build an Artificial Heart”(人工心臓開発の歴史)です。
私は2002年に渡米して角膜移植を受けたことがあり(当時、日本では角膜の提供がほとんど無い為、移植できる可能性はほぼゼロ。)、臓器移植等に関する記事には興味があって必ず目を通しています。今後は、そういった記事があったら翻訳して投稿したいと思います。
60年代米国では、国の威信をかけて2つの事業に巨費を投じて取り組んでいました。アポロ計画と人工心臓開発です。人工心臓開発は、巨費を投じた割には成果が大きくないような気がします。おそらく、移植したら死ぬまで交換不要な人工心臓を開発するという目標自体が誤っていたのだと思います。そもそも不可能だったのではないでしょうか。ただ、一時的な延命のための人工心臓は開発されていますので、これが洗練されていって、移植を受ける方の生活の質(quality of life)が高くなることを祈るばかりです。この記事には、人工心臓の開発初期から現在までの状況までが記されています(全体像がボヤっと見えるだけですが)。詳細は和訳全文をお読みください。
非常に長い文章ですので、要旨の後に和訳全文を掲載します。要旨は次のとおりです。
要旨
- 初めて人工心臓の移植手術が為されたのは1969年。ヒューストンの心臓外科医ダントン・クーリーが執刀。手術後60時間強生存した(大成功)。60年代の米国は、宇宙開発(アポロ計画)と同様に、国家の威信をかけて人工心臓開発にも取り組んで巨額を投じていた。アポロ計画は期待通りの成果が出た。残念ながら、それに比べると人工心臓の成果は小さかった。
- それから50年以上経っているが基本設計はほぼ変わらず。人の生命がかかっているとはいえ、FDA(米食品医薬品局)の承認のハードルが高すぎ、既存の製品の改良が細々と行われるのみで、新機軸が生まれない状況。
- 人工心臓開発の技術的な難易度は高い。胸部に収まるサイズ、稼働し続けなければならない、5リットル/分もの血液を循環させる動力が必要、血液凝固を防ぐために過度な圧や陰圧が掛からないようにしなければならないこと等が理由。
- 現在の人工心臓は、永続的(死ぬまで)な使用は不可能である。一時的に延命させ、本物の心臓の移植手術の順番が回ってくるまでの一時しのぎでしかない(永続的に使用可能な人工心臓を開発するというのは、そもそも不可能?)。
- 残念ながら、本物の心臓の移植手術の順番を辛抱強く待っていても、回ってくることはほとんど無い。というのは、心臓移植を望む心不全患者の数は膨大だが、移植可能な心臓の提供はほとんどない為である。
- 幸いにして本物の心臓の移植を受けられたとても、その心臓の寿命は長くない(30年存命は5%以下)。
- 人工心臓の市場はニッチ市場で、市場規模も小さい。現在、人工心臓を販売しているのは1社のみとなってしまった。しかし、体内にすっぽり収まって線や管が体外に出ていない人工心臓が開発されれば市場が拡大する可能性はある。かつての携帯電話がサイズが大きい時には誰も買おうと思わなかったが、小さくなって爆発的に普及したように。
※では、以下に和訳全文を掲載します。