Betting on Elections Can Tell Us a Lot. Why Is It Mostly Illegal?
選挙結果に関する賭博は、私たちに多くのことを教えれるでしょう。では、なぜ禁止されているのでしょうか?
The only such market of any size in the U.S. is on the verge of being shut down—even though studies suggest that such markets may predict elections better than polls do.
アメリカでは選挙結果に対する賭博が一部で実験的に認められていますが、閉鎖の危機に瀕しています。さまざまな研究によって、選挙結果に対する賭博は、選挙に対する関心を高め、投票率が高まる等のメリットがあることが明らかになっています。
By Danny Funt November 3, 2022
1.学術的、実験的に行われている選挙結果に対する賭博は禁止となりそう
1980年、ジョン・アリストテレス・フィリップス(John Aristotle Phillips)は、コネチカット州のとある選挙区で上院議員に立候補することを宣言しました。彼は、選挙の数カ月前に立候補の最低年齢である25歳になったばかりでした。フィリップスの父親は、エール大学の工学部教授でした。フィリップスは、4年前、プリンストン大学の3年生だった時に、原子爆弾の作り方に関する論文を書いたことで、マスコミの注目を浴びるようになっていました。その論文はFBIに押収されました。パキスタンの役人がその論文のコピーを欲しいと言ってきた際には、フィリップスは尊敬していたウィスコンシン州選出の上院議員ウィリアム・プロックスマイヤー(William Proxmire)にそのことを知らせました。フィリップスが立候補を表明した時、プロックスマイヤーは言いました、「ジョン・フィリップスはたぐい稀な才能を持った若者です。」と。伝えられるところによると、当時のジミー・カーター大統領(Jimmy Carter)とテッド・ケネディ上院議員(Ted Kennedy)は、いずれもフィリップスに自分を支持するように要請したそうです。当時、カーターとケネディは、民主党の大統領候補指名争いでしのぎを削っていました。11月の選挙で、フィリップスは選挙で敗北を喫しました。現職(4期)の共和党候補に25ポイントもの差をつけられました。その2年後、再び出馬しましたが、またもや2桁の大差で敗れました。
フィリップスは、選挙の票読みに関して見込み違いをしていました。しかし、その失敗から、彼は学びました。それは、選挙の票読みをするということにニーズがあるということでした。しかも、それは全く満たされていないニーズでした。1983年、フィリップスはMITを卒業した弟のディーンとともにアリストテレス・インダストリーズ社(Aristotle Industries)を設立しました。同社が最初に作ったのは、”Campaign Manager(キャンペーン・マネージャー)”というプログラムでした。得票数予測や世論調査や選挙活動資金獲得状況や戦略などを分析するものでした。それから1年以内に、フィリップスに選挙で2度勝利した共和党議員を含む200人近くの議員が顧客となりました。アリストテレス・インダストリーズ社は、本社をコネチカット州サウス・ノーウォーク(South Norwalk)から、連邦議会議事堂のすぐ近くに移転しました。「民主主義のおかげで当社のビジネスの成長は保証されている。」と、同社の最高経営責任者は語りました。
それから30年後、同社はフィリップスが 「今まで関わった中で最も面白いプロジェクト 」と呼ぶものに参画することとなりました。ニュージーランドのビクトリア大学ウェリントン校の複数のエコノミストが、選挙等の政治イベントに関連した将来の予測を売買することができるマーケット(取引所)の研究していたのですが、彼らは”iPredict”(アイプレディクト:2018年に閉鎖された)という実験的な取引所をつくっていました。しかし、ニュージーランドの政治に関する予測の売買しかしていなかったため、極めて少数の者しか売買に参加しませんでした。そこで、2014年にアイプレディクトはアメリカの商品先物取引委員会(Commodity Futures Trading Commission:略号はCFTC)にアメリカの選挙や経済指標に関連した将来予測を売買する取引所の運営許可を申請しました。その2年前、CFTCは、ナデックス(Nadex:名古屋市の同名の機械商社とは無関係)というアメリカの取引所から政治イベント(選挙等)の予測を売買したいという申請を却下していました。というのは、そのような予測の売買は連邦政府のギャンブルの定義である、「選挙等の結果という偶然の勝敗により財物または財産上の利益を賭けること」に正しく該当すると判断されたからです。2013年、CFTCはアイルランドを拠点とする取引所であるイントレード(Intrade)を事実上閉鎖させました。イントレードでは、米国の選挙の際には、数百万ドル規模の賭博
が行われていました。
しかし、賭博罪には例外があって、非営利の小規模なものは例外的に認められることもあります。アイオワ大学は、CFTCの許可を得て、1993年からアイオワ電子取引所(Iowa Electronic Markets)を運営していて、キャンパスの学生や選挙に関する予測の売買をすることができます。ビクトリア大学(Victoria University)は、このアイオワ大学が行っているモデルを発展させ、新しい取引所を一般に公開することを提案しています。宣伝は限定的に制限し、その取引所で提供されるいかなる賭けにおいても、掛け金は最大でも850ドルに制限するというものです。それでもアイオワ大学の掛け金制限500ドルよりは緩くなっています。この提案に対し、CFTCは公式な見解を出しませんでした。しかし、非公式な見解は出していて、ビクトリア大学が利益を得ない限り「情報収集と結果予測の学術的な研究をすること」は問題ないとしたそうです。それを受けて、ビクトリア大学は、新しいオンライン取引所の運営をアリストテレス・インダストリーズ社に委託しました。同社は、この取引所を「PredictIt(プレディクトイット)」と名付けました。
プレディクトイット(PredictIt)は、現在、約8万人のアクティブユーザーを抱えています。2020年の大統領選挙を前に、1億5千万ドル近くの資金が流れ込みました。研究のために世界中の数十人の研究者と膨大なデータを共有しました。時にはそうした研究者の依頼を受けてさまざまな事象に対する予測を賭博対象としたこともありました。しかし、規模を拡大し続けるアリストテレスインダストリーズ社と規制当局の間で対立が起こるようになりました。CFTCは、アリストテレスインダストリーズ社が行っている選挙に関する予測の売買は非常に賭博と類似しており、参加する者はどの候補者がより儲かるかという視点で投票を決める可能性があると判断し、それは公共の利益に反すると判断しました。フィリップスが主張したのは、スポーツに関する賭博をする人たちは、賭博をしない人と比べると約2倍の試合数を観戦していることが判明しているということで、であるならば、選挙結果を賭博対象とすることは、市民の政治への関心度を高めるという効果があるということでした。「選挙結果を賭博対象とすることは、普段は政治に関心が無い人が、新聞を読んだり、テレビで見たことを批判的に分析したりするようになるわけで、それは非常に素晴らしいことです。」と、彼は言いました。もちろん、選挙結果を賭博対象とすることは、政治を単なる遊びか何かと同じものとして扱っているわけで、そうしたことを批判する者も少なくありません。プレディクトイット(PredictIt)の熱心なユーザーであるトレバー・ボークマン(Trevor Boeckmann)は、ニューヨーク在住の34歳の公選弁護人ですが、選挙結果に関する賭博をするようになってから、より政治に関心を持つようになり、情報を収集するようになったと語っていました。彼は、アイオワで育ったのですが、以前から政治に興味があったのですが、選挙結果に関する賭博をするようになってから、選挙制度の細かいルールにも精通するようになったそうです。
2019年、フィリップスはCFTCに書簡を提出し、選挙結果を賭博の対象とすることで情報の収集が盛んになり、選挙に関心のある者にとってもそうでない者にとっても利益となると主張しました。同時に、賭博であるからといって一律に禁止するのではなく、選挙結果に関する賭博に対してはもっと大々的に許可すべきであるとも主張していました。しかし、その書簡に対する返答は現時点ではありません。それどころか、今年の8月には、CFTCは突然ビクトリア大学が選挙結果を賭博対象としていることは違法であると主張しだしました。以前にビクトリア大学がノーアクションレター(民間企業が新たな事業活動などについて合法性を行政庁に事前に文書で確認できる制度のこと)を出した際には問題無いとしていた見解を撤回しました。CFTCは、何が違法であるかという点を明確には示しませんでした。ブルームバーグの報道によれば、複数のCFTCの委員が情報源なのですが、CFTCはプレディクトイット(PredictIt)の規模が大きくなり過ぎたことを問題視したようです。そもそも学術研究を促進するために小規模で予測の売買をして調査研究をするという建付けだったものが、本来の姿からあまりにも大きく逸脱してしまったと判断されたようです。CFTCに報道に関するコメントを求めましたが、一切の回答を拒否されました。CFTCは、プレディクトイット(PredictIt)に対して、来年2月中旬までに予測の売買の取引所を停止するよう命じました。CFTCの市場監視部門の元ディレクターで、現在はアリストテレスインダストリーズ社のアドバイザーをしているリチャード・シルツ(Richard Shilts)は、この思い切った措置に驚いたと言っていました。また、具体的な理由が述べられていないことにも驚いていました。彼が指摘していたのですが、CFTCがノーアクションレターを見直す必要があった場合には、撤回しなくても、何らかの形で修正することもできたはずです。フィリップスが私に言ったのですが、CFTCの決定は寝耳に水だったそうで、その日は人生最悪の日だったそうです。フィリップスは、2024年の大統領選に関する予測の売買取引をどのように閉鎖するかについてCFTCに相談したそうです。その予測の売買には既にかなりの資金が流入していて、その額は5千万ドルを超えているそうです。
3週間後、CFTCはまたも驚くべき発表を行いました。中間選挙で上下院でそれぞれ共和党か民主党のいずれが過半数を確保するかという予測を売買したいとするスタートアップ企業カルシ(Kalshi)の要請を受けて、パブリックコメントを受け付けはじめました。カルシ(Kalshi)のトップのタレク・マンソア(Tarek Mansour)は、選挙結果の予測を売買することは、政治への関心も高められるし、取引額も膨大になる可能性があると言っていました。カルシ(Kalshi)では、売買に参加する者は、1つの予測の売買に対して最大2万5千ドルを投じることができます。この額は、プレディクトイットが受け入れている額をはるかに超えています。もしカルシ(Kalshi)の要請が承認されれば、既にCFTCと30回以上も打合せをしているそうですが、選挙結果に対する予測の売買が実質的には初めて認められるわけで、選挙結果に関する予測の売買が選挙結果にどのような影響を及ぼすのかといったことが議論されることとなるでしょう。
一方、カルシ(Kalshi)の要請を支持するアリストテレスインダストリーズ社は、CFTCがプレディクトイットの閉鎖を指示したことに関して、異議を唱えました。ボークマンなどの多くのプレディクトイットのユーザーや学者たちも異議を唱えています。アリストテレスインダストリーズの異議は、「CFTCは、合理的な説明もなく、プレディクトイットの閉鎖を決めました。また、既に1万人以上が予測の売買に資金を投じていたのですが、それをどうやって締めるかということについても何の解決策も提示していません。この決定によって取引所を閉鎖した場合に発生する混乱や経済的損失に対して何の対応策を検討しないままにこの措置を取ったことは遺憾である。」というものでした。CFTCは現時点では、こうした異議に対して、何の反応もしていません。アリストテレスインダストリーズは、仮処分申請をしており、数週間以内に判断が下されるものと予測されます。この件は、アメリカにおける選挙結果に関する予測の売買や賭博の行方を左右することになるかもしれません。