3.選挙結果に関する賭博では、ベッティング状況は正確に結果を暗示する
今年初めに、プレディクトイット(PredictIt)を趣味で使っているトレバー・ボークマン(Trevor Boeckmann)は、11月の中間選挙に関してプレディクトイットで賭けをしました。共和党が上院で49議席を維持するという予想に賭けたのですが、1口6セントで賭けることができるのですが、それを約2,600口分購入しました。プレディクトイット(PredictIt)の賭け(予測の売買)では、1口1セントから99セントまであり、それは賭けの際のオッズのようなものです。つまり、6セントで購入したということは、その時点では共和党が議席を減らす可能性がわずか6%しかないと予想されていたことを意味し、それをボークマンは買い付けたのです。共和党が議席を減らすという予想が少なかった時点でも、ボークマンは、今年の中間選挙では、2018年の中間選挙の結果を参考にして予測していたのです。彼が言うには、2018年もトランプには激しい逆風が吹いていました。それでもポイントとなる数州で民主党の対立候補がすべからく大した人物でなくて共和党が勝利をおさめていまいた。彼は、今回の中間選挙では、民主党はアリゾナ州、ジョージア州、ネバダ州、ペンシルバニア州で議席を獲得し、ウィスコンシン州でも勝利する可能性があると考えたのです。
今年6月に最高裁がロー対ウェイド判決(Roe v. Wade)を覆した際には、民主党が中間選挙で躍進する見通しがいくぶん高くなり、ボークマンが1口6セントで購入していた予測の価格は1口13セントまで上昇しました。それから数週間後、彼はファイブサーティーエイト(FiveThirtyEight)の予測をチェックし、民主党が過半数を占める確率が11%と記されているのを見ました。つまり、プレディクトイット(PredictIt)で中間選挙の結果に関して賭博をしている者は、民主党が勝つ可能性を少しばかりファイブサーティーエイトよりも過大に評価していたのです。そこで、ボークマンは購入した6セントよりも高い価格で売却することにし、プレディクトイットでの年間利益を約3千ドルまで伸ばしました。彼は、非常に良いタイミングでそれを売り抜けたといえます。その後、プレディクトイットで中間選挙の結果に関する賭博では、再び共和党が過半数を維持するという予想が多くなりました。
プレディクトイット(PredictIt)で投じる額には上限がありますし、5%の出金手数料がかかりますし、利益に対して10%の手数料がかかることを考慮すると、そこで賭博することは、それほど魅力的なことではないのかもしれません。その結果、選挙で確実に勝利しそうな候補者がいても、その人物に賭ける者がそれほど増えず、過小評価されるという事象がしばしば発生します。たとえば、プレディクトイットではJ.B.プリツカー(J. B. Pritzker)がイリノイ州知事で再選される確率は94%になっていましたが、さまざまな調査でその確率はもっと高いと出ていました。ちなみに、ファイブファイブサーティーエイト(FiveThirtyEight)の予測では、ブリッカーが勝利する確率は99%以上となっていました。ボークマンは、2つの差に着目して、非常に時間と手間のかかる方法で利益をあげる戦術(time-intensive strategy)を採用しています。たくさんのクレジットカードを使って、プレディクトイットで見返りは少ないものの確実に勝てる方に賭けるのです。プレディクトイットで賭けている額が、クレジットカードを限度額いっぱいまで使うことで、7万9千ドルに達することもあります。ですので、クレジットカードのポイントも驚くほど貯まっています。今年の夏に私と話をした後、ボークマンは1週間ベルリンで過ごしました。彼が言っていたのですが、その際のホテル代と航空券代はすべてプレディクトイット(PredictIt)でのクレジットカード利用の際のポイントで賄えたそうです。
プレディクトイットで稼ぐことを生業としている者(トレーダー)にとって、選挙結果に関する予測の売買(賭博)で、勝つ確率が高いのにそれに見合わないほど安くなっているものを見つけるのは実はそれほど難しいことではないのです。間違いなく、スポーツの結果に対する賭博でそうしたものを見つけるよりはずっと簡単なことなのです。プレディクトイット(PredictIt)に参加している者たちの間ではドーマー(Domer)と呼ばれているトレーダーがいます。彼は、昨年1年間でプレディクトイットで選挙結果や時事問題に関する賭けで約50万ドルを稼いだと言っていました。彼は、プレディクトイット(PredictIt)に加えて、海外の予測売買の取引所、ポリマーケット(Polymarket:暗号資産を使った予測サービスを提供する取引所)、カルシ(Kalshi)でも賭博をを行っています。現在、カルシ(Kalshi)では、さまざまな予測が売買されていて、例えば、バイデンの支持率が賭博対象となっていたりします。主要法案が議会を通過するか否かといったことも賭博の対象となっています。しかし、選挙結果に対する賭博は行われていないようです。ドーマーは、2006年に大学を卒業してすぐにイントレード(Intrade)で選挙結果等に関する賭博を始めました。すぐに、彼はさまざまな賭博に手を広げ、トレード用のスマホを1台新たに購入して職場に持ち込むようになりました。それから1年もしない内に、就職していたところを辞めて、オンラインポーカーと賭博で生計を立てるようになりました。彼は言いました、「ポーカーで勝とうと思ったら、基本的にはパターン認識が重要です。選挙結果に対する賭博でも同じです。」と。しかし、トランプが大統領になって以降、選挙結果の予測は以前よりも難しくなったと彼は言っていました。ドーマーが言っていたのですが、最近では、予測が難しくなってしまったので、大穴狙いをして一攫千金を狙ってみるのも手だと言っていました。トランプ大統領の出現によって、経験豊富なプレディクトイット(PredictIt)の専業トレーダーたちの中にも一攫千金を狙う者が増えているようです。プレディクトイットでは、トランプの熱烈な支持者によって、選挙に関する賭博のベッティング状況がいびつになりつつあります。というのは、彼らは、あり得るかあり得ないかということに関係なく、とにかくトランプの勝利に賭けるからです。例えば、バイデンが1期目の終了前に辞任する確率も賭博の対象となっているのですが、その数字はトランプの熱烈な支持者の行動を受けて23%まで押し上げられていました。