カリフォルニア州が偉業達成?再生可能エネルギーだけで電力需要を賄う日があった!春の数日のみだけどね?

Daily Comment

California Is Showing How a Big State Can Power Itself Without Fossil Fuels
カリフォルニア州は、化石燃料なしで電力を自給できる方法を示している

For part of almost every day this spring, the state produced more electricity than it needed from renewable sources.
この春、ほぼ毎日、カリフォルニア州は再生可能エネルギーだけで必要電力をまかなえた。

By Bill McKibben June 27, 2024

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 この春、カリフォルニアで奇跡に近いことが起きていた。3 月上旬にはほぼ毎日、太陽光、風力、地熱、水力発電などの再生可能エネルギーのみで同州の電力需要の 100% 以上を生み出していたのである。何日かはソーラーパネルだけで同州の需要を上回る電力を生み出していた。そして、夜間には過去数年間に設置された大量の電力供給用バッテリーが、しばしば送電網への最大の供給源となり、午後に蓄えられた余剰電力を州全体に送り出していた。こうした状況を作り上げるには、地道な設備投資と州政府の確固たるリーダーシップが必要だった。突如として果実を摘み取れるようになったことが明らかになりつつある。経済規模が世界第 5 位の国に相当するカリフォルニア州は、この数カ月でクリーンエネルギーのみで経済運営して繁栄することが可能であることを証明している。

 この偉業を見るのに良い場所は、マーク・ジェイコブソン( Mark Jacobson )が家族で暮らしている自宅である。スタンフォード大学のキャンパスのはずれにある典型的な郊外の袋小路の端にある光あふれる 2 階建てのモダンなデザイン住宅である。同大学でジェイコブソンは土木環境工学の教授を務めている。この家のエネルギー効率は非常に高い。それがこの家を見てみるべき理由の 1 つである。ソーラーパネルだけで、家族が使用する分をまかなうのに十分な電力を生み出すが、余剰分は送電網に送られる。ガレージには 2 台のテスラがある。1 台は 2009 年型ロードスターで、「 GHG Free(温室効果ガス排出ゼロ)」と書かれたナンバープレートが付いている。テスラ社製の家庭用大型バッテリーも 2 台ある。ジェイコブソンが見学者を最初に案内するのは機械室である。空気交換器が置かれている。家の外に押し出すよどんだ空気から 97% の熱を回収している。次に案内するのはキッチンである。IH クッキングヒーターは、お湯を沸かすスピードがガスに比べて 2 倍速いにもかかわらず、エネルギー使用量は 60% 少ない。次に、彼は屋根に設置されたソーラーパネルで発電された電力の使用量を示すスマホアプリを見せてくれた。数秒おきに更新される。「昨日は、屋根のソーラーパネルが発電した電力の 17% がガレージのバッテリーに蓄えられた。」と彼は言う。「私はその内の 8% を家で使い、79% は送電網に売った」。

 しかし、ジェイコブソンの家に行く最も大きな理由は、彼に話を聞くことにある。彼は 2009 年に通俗科学誌「サイエンティフィック・アメリカン( Scientific American )」に共同執筆した記事を寄稿して以来、一貫して 100% 再生可能エネルギーの実現を訴えてきた。それは決して容易なことではなかった。2015 年に彼がそのビジョンを示した論文でアメリカ科学アカデミー( the National Academy of Sciences )の賞を受賞した際には、21 人のエネルギー研究者が同アカデミーの紀要に反論記事を寄稿した。彼らはジェイコブソンのモデルには瑕疵があると指摘し、「実現不能で、裏付け不十分な仮定でしかない」と非難した。そんな酷い扱いを受けてきたわけだから、彼がちょっとぐらい自慢げにしても許されるべきである。この春、彼はソーシャルメディアに毎日のように再生可能エネルギーが急増していることを投稿していた。

 「昨年、何度か 100% を達成した。」と、彼は自宅のリビングルームで私に言った。「しかし、今年は、新しい大規模な太陽光発電所が稼働したため、太陽光発電による電力が 32% 増加し、風力発電も 11% 増加している」。また、送電網からの電力需要は 3% 減少している。減少した主たる要因は、ジェイコブソンのように、多くの人が自宅の屋根にソーラーパネルを設置したことである。彼らは、自宅で使う電力の多くを賄えるようになった。再生可能エネルギーは、カリフォルニア州で変曲点( inflection point )を迎えつつある。十分な設備容量が備わり、それが威力を発揮し始めている。明確なメッセージがアメリカ全土に伝わっている。今年 1 月から 4 月の間で見ると、アメリカの送電網に新たに追加された電力の 99% を再生可能エネルギーが占めている。「完全に潮目が変わった。」とジェイコブソンは先週ツイートした。「化石ガス、石炭、原子力は急速に 『代替エネルギー( alternative  energy ) 』になりつつある」。

 これはアメリカだけの話ではない。イギリスのエネルギー関連のシンクタンクのエンバー( Ember )の新しい報告書によれば、EU では 2023 年にロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、初めて再生可能エネルギーによる発電量が化石燃料を上回る月があったという。エンバーが 5 月に出した報告書によれば、現在、風力発電と太陽光発電が歴史上のどのエネルギー源よりも急速に成長しており、1960 年代から 70 年代にかけての原子力発電の成長率をも上回っているという。今週発表された新しいデータによれば、世界の炭素排出量は昨年もわずかに増加している。けれども、ロッキーマウンテン研究所( the Rocky Mountain Institute )が先週発表した報告書によれば、再生可能エネルギーの急増が成長著しいアジア圏の経済成長によるエネルギー需要の急増さえもカバーできるという。その報告書は、今年中に全世界の化石燃料使用量がピークを迎える可能性があると示唆している。ロッキーマウンテン研究所は、過去 10 年間で「太陽光による発電量は 12 倍、蓄電池の容量は 180 倍、EV の販売台数は 100 倍」に成長したとしている。この成長は主として中国が牽引している。同時期に中国では、「太陽光による発電量は 37 倍、EV 販売台数は 700 倍」に成長した。中国は 「世界で初めての電化国家( electrostate )になる準備が整っている」。

 ジェイコブソンはスタンフォード大学の研究者チームを率い、2035 年までに風力発電、水力発電、太陽光発電を 100% 普及させる計画のモデル化を行っている。今春、そのデータベースに追加された最新の国は、マダガスカル、ルワンダ、ウガンダ、エスワティニ(旧スワジランド)である。それぞれの国について、ジェイコブソンは温暖化予測を考慮に入れた数十年先の天気を30秒ごとに予測できるモデルを持っている。2050 年の 6 月の任意の日にマダガスカルの山間部で気温が 80 度(摂氏 26.7 度)の時に家の中を 70 度(摂氏 21.1 度)にしたい場合、彼はマダガスカルの平均的な住宅の壁の断熱材を考慮し、冷房にどれだけのエネルギーが必要かを示すことができる。その上で風力、水力、太陽光をどのように組み合わせて電力を供給すべきかを正確に示すこともできる。ごくまれに、土地面積が狭すぎて、その土地で必要なエネルギーを産出できないような場所を見つけることもある。ちなみに彼のモデルでは、太陽光発電や風力発電に使用する面積を国土の約 2% に限定している。「シンガポールやジブラルタルなどでは、国土が狭すぎて再生可能エネルギーで全ての電力を賄うことをできない。」と彼は言う。「その場合、沖合を活用する」。そして送電網の安定性のために、彼は風力と太陽光を比較的均等に組み合わせるように努めている。「そうするのには、理由がある。熱波の時は気圧が高くなり、太陽光がたくさん降り注ぐが、風は弱まりがちである。」と彼は言う。 「そして、低気圧がやってきて嵐になると、太陽エネルギーは減るが、気圧の谷ができるので強風が生み出される」。水力は安定したエネルギー源であり、その電力は必要なときに送電できるため簡単に貯蔵できるという利点がある。実質的には送電網における最大の蓄電設備である。しかし、干ばつによって水力発電の能力は著しく低下する。その際には、ほぼ間違いなく太陽光がたくさん降り注ぐはずである。「世界中どこでも、供給と貯蔵によってエネルギー需要を満たす方法を見つけ出すことができる。」と彼は言う。

 ここで重要なのは、再生可能エネルギーが拡大し続けるかどうかということではない。拡大が続くのは間違いないだろう。というのは、太陽光発電、風力発電、バッテリーのコストが劇的に下がり続けているからである。問題は、地球温暖化という不可解な現象に追いつくのに十分なスピードで拡大が続くかどうかである。ちなみに、世界の気温は、今年の 5 月には 12 カ月連続で過去最高を記録した。国際エネルギー機関( IEA )の最新の調査によると、現在のペースが続けば 2030 年までに再生可能エネルギーの発電能力は 2 倍以上になるが、パリ協定で設定された目標を達成するためには 3 倍にする必要がある。IEA 事務局長のファティ・ビロル( Fatih Birol )が指摘しているのだが、3 倍という目標は野心的であるが達成不可能ではない。ただし、各国政府が目標を達成すべく行動を起こす必要がある。より安全で手頃な価格の持続可能エネルギーシステムの構築が不可能な国は無い。どの国も取り組みを加速させることが可能である。

 しかし、残念ながら全ての国の政府や自治体等が再生可能エネルギーの拡大に熱心なわけではない。民主党支持者が多い州でも熱心でないところがある。今月初め、ニューヨーク州知事のキャシー・ホーチュル( Kathy Hochul )は、マンハッタンへ流入する自動車に通行料を課し、公共交通機関の資金を調達することを目的とした渋滞課金制度を廃止した。カリフォルニア州では、知事のギャビン・ニューサム( Gavin Newsom )が、屋上に設置するタイプやコミュニティ等で設置する太陽光発電設備への助成金を削減し非難を浴びている。同州は、大規模な電力会社による太陽光発電プロジェクトを優先している。一方、ドナルド・トランプは 11 月の大統領選で勝利した場合、「石油を掘りまくり、就任したら即座に洋上風力発電施設をストップさせる」と宣言している。ちなみに、バイデン政権も再生可能エネルギーに熱心なわけではない。ジェイコブソンの計算によれば、バイデン政権はインフレ抑制法の資金の約 40% を「炭素回収」などの高度な技術の開発に投じている。これは、化石燃料業界が炭素を燃焼し続けることを可能にするものであるが、その資金を太陽光発電の増設に使ったほうが限りなく安上がりであるという。

 エネルギー政策に詳しい者の中には、アメリカで最も高いカリフォルニア州の電気料金は再生可能エネルギーのせいだと結論づける者も少なくない。「実際は、その逆である。」とジェイコブソンは指摘する。カリフォルニア州の電力料金が高騰したのは、送電網に起因する山火事や、サンブルーノ( San Bruno )やアリソキャニオン( Alison Canyon )の天然ガス災害によるところが大きい。「再生可能エネルギーがなかったら、電気料金はもっと高くなっていたであろう。」とジェイコブソンは言う。彼は、再生可能エネルギーの普及率が高いアメリカの他の州(主にアイオワ州やダコタ州など中西部の風力発電が盛んな州)の電気料金が他の州よりも低いことを示すデータを持っている。「今やるべきことは、再生可能エネルギーへの投資を増やすことだけである。設置できる場所はいくらでもある」。