カリフォルニア州が偉業達成?再生可能エネルギーだけで電力需要を賄う日があった!春の数日のみだけどね?

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 カリフォルニア州の再生可能エネルギーの奇跡の偉大さは、日当たりの良いジェイコブソン邸を見ることで認識できる。カリフォルニアで私が会った太陽光発電設備を設置した住宅所有者のほとんどは、電力メーターが逆回転するのを初めて見て驚き、再生可能エネルギーへの理解が深まったと言っている。しかし、オークランドの工業地帯などにある雑然とした小さな研究所の建物でも、再生可能エネルギーの奇跡を感じることができる。ダニー・ケネディ( Danny Kennedy )は誰よりも早く再生可能エネルギー研究に取り組んだ人物の 1 人で、化石燃料からの転換をリードする企業を支援する非営利団体、ニュー・エネルギー・ネクサス( New Energy Nexus )の代表を務めている。先日、ケネディは、オークランドにあるマグラシア・メタルズ社( Magrathea Metals )という 2 年前に設立されたスタートアップ企業を見るよう私にしつこく勧めてきた。彼によると、同社は「太陽光で海水から金属を作っている」という。

 同社の研究施設は倉庫を改装したもので、地ビール醸造所とコーヒー焙煎所のすぐ隣にある。中に足を踏み入れると、溶接工のヘルメットをかぶった研究員が「気をつけろ!溶けた金属を扱っているところだ!」と叫んだ。私たちは奥へと急ぎ、元リチウム技術開発者のアレックス・グラント( Alex Grant )とケンブリッジ大学で研鑽を積んだ化学者のジェイコブ・ブラウン( Jacob Brown )という 2 人の若者に会った。彼らはマグラシア・メタルズ社の共同創業者で、シリコンバレーで活躍する起業家のようなエネルギーに満ちあふれている。しかし、彼らが作っているのはアプリではなくマグネシウムである。マグネシウムは地球上で 3 番目に一般的な構造用金属であるが、鉄とアルミニウムには大きく水をあけられている。その理由は製造コストが高くつくからである。

 しかし、いずれコストの問題は解決するかもしれない。というのは、再生可能エネルギーの普及が産業構造そのものを変革し、よりコストが下がり、より材料集約的でなくなりつつあるからである。カリフォルニアのような場所でピーク時の電力需要を満たすには、ソーラーパネルを大量に設置する必要がある。それは、需要が少ない時には、使用量を上回る電力が生み出されることを意味し、その時間帯の電力は非常に安価になる。マグネシウムは融点が低いこともあり、断続的に製錬することができる。太陽光発電の生産性がピークに達する午後の時間帯に、製錬所(マグラシア・メタルズ社には、安全のために隔離された部屋に試験的な大きさのものがある)で原料を加熱し始め、人々が帰宅してオーブンや洗濯機のスイッチを入れ、電気料金が上がる時間になったら、製錬所を止めればよい。そしてまた電気が安くなるまで待ち、製錬を再開する。アルミニウムの場合、このようなことは不可能である。溶融塩が凝固してしまうからである。

 マグネシウムが地球への影響を少なくできるもう 1 つの理由は、採掘する必要がないことである。マグネシウムは海水中に大量に存在している。142  ガロン( 537 リットル)の海水から 1 ポンド( 0.45 キロ)のマグネシウムが得られる。あるいは、自然界に存在する塩水や塩類、あるいは海水淡水化プラントの処理済み塩水から抽出することもできる。グラントは自らを 「塩水オタク( brine nerd ) 」と称している。ナミビアや西オーストラリア、カリフォルニア州ニューアーク湾のすぐ近くで採れた塩水のサンプルを見せてくれた。それらの塩水はマクナシア・メタルズ社が必要とする時にはいつでもニューアークからトラックで配送できる( 通常、塩水は道路のほこりを抑えたり、冬場の除氷用に販売されている)。同社の工場の一角には、スノーシューズ、自転車、芝刈り機、ヘリコプターのギアボックスなど、世界中のマグネシウムでできた製品を集めた小さな博物館がある。「世界的な自動車メーカーから、『サプライチェーンが構築されれば非常に有望な物質である。特定の用途では、アルミニウムよりも軽く、鋳造しやすく、強度もある。』と言われた。」とグラントは言う。「コストが下がれば、あらゆる基本的要素から、アルミニウムと同等の競争力を持つことが分かる。ただし、安定的な供給が重要になってくる」。

 「当社は、2035 年までに年間 1,000 トン、2050 年には年間100万トンを生産するようになる。」とグラントは言う。「陸上の風力発電はコストが非常に低いので、最初の大型製錬所はおそらく風力発電に適した中西部の州のどこかに建設されるであろう」。マグネシウムに対する需要は確実に存在している。軍需産業は航空機などで大量の軽金属を必要としている。現在、世界のマグネシウム供給の 80% 以上を中国が占めている。それに続くのはロシアである。

 私たちは話をしながら、窓から見える試験規模の製錬所を眺めた。巨大な電気コードに繋がれている錆びた窯のように見えた。旧式の設備に見えるが、最新のテクノロジーが詰まっている。製錬所の壁には緑色と金色の鮮やかなソラーパンク・フラッグ( Solarpunk flag)が掲げられていた(ソーラーパンクとは、テクノロジーと環境を共存させ、持続可能な文明の実現を目指す運動である)。私達がいた部屋のすぐ外にはネオンサインがあり、「 42 」という数字が明滅していた。ダグラス・アダムス( Douglas Adams  )の SF 小説「銀河ヒッチハイク・ガイド( The Hitchhiker’s Guide to the Galaxy )」は今でも人気の高い不朽の名作であるが、そのファンなら、「 42 」が重要な数字であることを認識しているであろう。それは、作中に登場するディープ・ソート( Deep Thought  )と名付けラtれたコンピューターが 750 万年の計算の末に導き出した生命、宇宙、そして万物の意味についての答えである。グラントとブラウンが付けた社名もアダムスの著作に因んだものである。マグラシアは惑星の名前で、その惑星は超富裕層のためにオーダーメイドで惑星を作っては出荷していた。

 マグラシア・メタルズ社がより持続可能な地球を築く一助になることを願わずにはいられない。同社の製錬プロセスでは太陽光発電と海水しか使用しない。その上、主な副産物は酸化マグネシウムだけであり、それは海に放出されれば炭素の分離に役立つ。実際、マグネシウムは最終的に鉄のように錆びるのではなく、酸化マグネシウムに分解される。つまり、マグネシウム製の自転車が埋立地に放置されれば、最終的には各部品は分解されて海に流れ込み、大気のバランスを取り戻すプロセスに役立つことになる。「マグネシウムは本質的にカーボンニュートラルに寄与する主要な金属の 1 つである。」とブラウンは言う。

 「カリフォルニア州で起こっていることは、単に代替エネルギーが増えたということではないし、単に環境負荷の大きいエネルギ源をクリーンなものに置き換えるということでもない。」とケネディは言う

。もちろん、それらは重要なことであるが、ジェイコブソンが発表した今年の春にカリフォルニア州で起こった事象を示す数値の中で最も印象的だったのは、発電に使用される天然ガスの量が昨年から 40% 以上減少したことである。その数値は、気象変動を食い止めるために必要とされる数値である。「 Wi-Fi がモデムに取って代わった時のことを思い出して欲しい。」とケネディは尋ねた。「単に通信速度が上がっただけではなかった。高速通信が可能になったことで、多くの者がそれを活用し、数え切れないほどの新たな技術が生み出された。豊富な電力が担保されれば、同様のことが起こる。これまでとは全く違う景色が見えてくるはずである」。♦

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