残念 癌の早期発見のための検査は意味が無い!検査の有効性を証明する長期間の臨床試験が行われたことは無い!

Annals of Medicine

The Catch in Catching Cancer Early
がんを早期発見することの落とし穴

New blood tests promise to detect malignancies before they’ve spread. But proving that these tests actually improve outcomes remains a stubborn challenge.
新たな血液検査は、悪性腫瘍が転移する前に発見できると期待されている。しかし、この検査が実際に治療成績を改善することを証明するのは、依然として困難な課題である

By Siddhartha Mukherjee June 16, 2025

1.

 多くの画期的なブレークスルーと同様に、この発見は地味な観察が端緒であった。1948 年にポール・マンデル( Paul Mandel )とピエール・メテ( Pierre Métais )という 2 人のフランス人研究者が、科学雑誌でほとんど誰も注目しない論文を発表した。ストラスブール( Strasbourg )の研究所で、彼らは血漿( blood plasma )の化学成分を分析していた。血漿は、タンパク質( proteins )、糖( sugars )、老廃物( waste )、栄養素( nutrients )、細胞の残骸( cellular debris )で満ち溢れる生命の川のようなものである。この馴染み深い物質群の中に、彼らは思いがけない存在を発見した。それは、DNA の断片が自由に漂っているという点だった。

 この発見はそれまでの生物学の定説を覆すものであった。DNA は細胞の核( nuclei )の中に閉じ込められ、単独で漂流することはないと考えられていた。さらに奇妙なことに、これらはゲノム全体ではなく、バラバラになった断片であった。遺伝子の残骸であり、つまり未知の出所から漂流したものだった。

 マンデルとメテは、これらの断片をどう解釈すべきか分からなかった。他の研究者も同様に困惑した。それで、10 年以上もの間、この論文はほとんど無視された。しかし、この生物学上の謎は埋もれたままではなかった。最終的に多くの研究者たちがシンプルな説明をすべくこの難問に取り組んだ。毎日、何十億もの細胞が死滅し、破裂して、その内容物( DNA を含む)が血流に放出される。これらの断片は、腎臓( kidneys )で代謝( metabolized )または除去( cleared )されるまで、短時間循環する。セルフリー DNA( cell-free DNA )と名付けられたこれらの断片こそが、人体の絶え間ない死と再生のサイクルの残滓であると結論付けられた。

 DNA は、沈没船の残骸のように、死滅する細胞から剥がれ落ちたように思われる。一見廃棄物のように見えるものでも示唆することは多い。沈没船の水没した区画から漂着した靴下、スプーン、ネックレスなどは、それぞれ乗組員や乗客の生前の状況を暗示している。人間の血液中の DNA の断片は、それらを放出した細胞からのメッセージを伝えているのだろうか?研究が進んでこれらの分子の厨芥を集めて、それらの由来であった細胞の性質を特定できるだろうか?

 1960 年代にニューヨークの癌研究者アーロン・ベンディッチ( Aaron Bendich )は、腫瘍細胞( tumor cells )も正常細胞( healthy cells )と同様に血流中に DNA を放出する可能性があると主張していた。マンデルとメテの発見から約 40 年後となる1989 年までに、多くの研究者が具体的な証拠を見つけていて、癌患者の血液中に腫瘍由来のセルフリー DNA が存在することが明らかになっていた。

 この発見の反響は広範囲に及んだ。何世代にもわたって多くの研究者が癌を早期発見する方法を探してきた。マンモグラフィー( mammograms )、大腸内視鏡検査( colonoscopies )、パップスメア検査( Pap smears )などは、いずれも悪性腫瘍が転移する前に発見することを目的とするものである。ちなみに、パップスメア検査とは子宮頸部の細胞を擦り採って、細胞診検体(パップスメア:Pap smear )を採取し、顕微鏡検査を行うものである。癌細胞がその秘密を血液中に漏らしているかもしれないという推論は、新しい可能性を示唆するものであった。画像診断や身体検査をしなくても、採血するだけで悪性腫瘍を検出できるかもしれないという可能性である。後にリキッドバイオプシー( liquid biopsy:液体生検)と呼ぶようになるわけだが、多くの人々が癌検査における画期的な飛躍を予測した。

 癌の症状が現れる前に発見するという早期発見への期待は高い。それが癌研究とこの分野への投資を牽引し続けている。しかし、この期待の裏には、より複雑な現実が隠されているかもしれない。